119 笑顔の乱入者
それからティナは、いそいそと自分のカバンから勉強道具を取り出しはじめた。そしてそれを、俺の使っているテーブルに置き、対面に座る。
「えっとティナ?」
「か、勘違いしないでよねっ! 一人で勉強するのがちょっと寂しかったとかそんなんじゃないからっ!」
「アハハッ。分かってる分かってる」
「さ、さぁやるわよっ!」
どうやら一緒に勉強してくれるらしい。俺に気を遣ってくれたのか、はたまた本当にちょっと寂しかったのかは分からないが、今はこの時間だけで十分な気がしてくる。さぁテーブルを囲んで楽しく受験勉強だっ!
と意気込んだ瞬間だった。
「「!?」」
バンッと部屋の扉が開き、満面の笑顔をたたえた乱入者が現れたのだ。
「お兄様っ! 一緒に勉強を・・・?」
妹のエリスである。
エリーは対面に座るティナを見ると、コテンと首を傾げた。
「そちらの方は・・・お・・ん・・・なっ?!」
ティナを下から上まで一頻り眺めまわし、女の子であることを確信するエリー。しだいに顔が引きつり、恐ろしく鋭い殺気を放ち始める。
きゅ、急にどうしたんだろう。なぜかティナのほうも、いつの間にか臨戦態勢にはいっているし。二人とも怖すぎるって!
「お兄様。そちらの方はどなたですか?」
「ジェフ。この女いったい誰?」
ひぃいいい!
「こ、こちらは俺のと、友達というか、騎士予備校でのクラスメイトで、マルティナっていうんだ。ほ、ほら! 俺と一緒にこの屋敷に運ばれてきた女の子だよ」
「「・・・」」
「あ、あっちは俺の妹で、エリスっていうんだ。前に話したことなかったっけ? 三歳年下の妹だよ。って言っても、もうある意味同い年になっちゃったけれどね。ハハハ」
「「・・・」」
二人は睨み合ったまま何一つ喋らない。気まずっ!
――一時間後(体感)
どちらともなく軽く息を吐き出し、臨戦態勢を解く二人。彼女たちは、お互いにスカートの端をつまんで丁寧なお辞儀をすると挨拶をはじめた。
「お初にお目にかかりますエリス・カーティス様。私は騎士予備校にて、ジェフリー・カーティス様とともに学ばせて頂いておりましたマルティナと申します」
「ご丁寧にありがとう存じますマルティナ様。ご紹介にあずかりました通り、私はカーティス家が娘エリス・カーティスと申します。そちらにおりますジェフリー・カーティスの実の妹でございますので、以後お見知りおきくださいませ」
和やか(?)に挨拶を交わす様子をみるに、どうやら危ないことは起きないようだ。もの凄く焦ったじゃないかっ!
「と、ところでエリーはどうしてここに?」
「それはもちろん、お勉強をしようかと。お兄様と一緒に」
「えっとなんで?」
「私ももう十二歳。今年、魔法学園を受験致しますのっ!」
エリーは腕を組んで、俺の困惑を吹き飛ばすような堂々とした宣言する。背後からドンッという効果音が聞こえてきそうな勢いだ。なんてカッコいいんだ。
「って、え? 魔法学園を受験するのっ!? エリーが?」
「はいっ! 入学に必要な座学や礼儀作法についてはグレイシス辺境伯家で、魔法についてはお母様のお知り合いのアンヌ・シュルツェン師匠から教わりました。お母様からもお墨付きを頂いておりますので問題ございません。必ず合格してみせますわ!」
「へ、へぇ~」
い、一体いつの間に? いや、三年もあったら魔法くらい使えるようになってるか。エリーも俺と同じように、母さんゆずりの魔法の才能はあるんだろうし。
それに師匠がアンヌさんっていうのも、たぶん相当ラッキーだ。あの人かなり凄い人そうだもん。魔法関連以外は色々とあれだけど・・・。
「そういう訳ですので、お兄様っ! 一緒にお勉強いたしましょう!!」
エリーは隣に座ると、俺の手をとって食い気味に迫ってきた。なんでそんなに楽しそうなんだろう。目がキラッキラに輝いている。
「あ、ああ。いいよ」
俺はエリーの勢いに押され、そのまま承諾するのだった。




