118 彼女の覚悟
聞いた話によると、なんとびっくり、あの死闘から三年が経っているらしい。
なんでも、石像になって転がっていた俺とティナを、騎士団を率いたギルバートおじさんが発見し、そのまま回収してくれたのだとか。
一度は寮のほうに運び込んだそうだが、学生寮の部屋をいつまでも占有するのは具合が悪い。そんな経緯があって、俺たち二人はこのグレイシス辺境伯家の別邸に移されたとのこと。
父さんと母さんは俺を救うために三年もかけて各地を巡り、特殊な魔法薬( エリクシールというらしい )の素材を集めたのだという。
なんと壮大な話だろうか。二人の旅の話だけで一冊の本が出来てしまうかもしれない。今度ゆっくり聞かせてもらおう。
題名はそうだな・・・
『最強夫婦の冒険譚~息子を救うためならば手段は選びません~』
とか?
それから驚いたことがもう一つ。
それは、目の前の女の子が妹のエリスだということだ。記憶の中では、まだ七歳の可愛い幼女なので、目の前のエリーには少しだけ違和感を抱いてしまう。
ゆるく波打ったような金のくせ毛は昔と変わっていないが、身体つきはもう立派な女の子。丸かった顔もスッとしていて、まん丸の瞳が実に可愛らしい。
これは間違いなく男どもを泣かせるな、と兄としては若干複雑な気分になるが、まあ父さんのようなゴリゴリした感じにはならなかったのでよしとしよう。
さて、まあここまではいい。問題はここからだ。
三年が経って俺の実年齢は十五歳。
そして、騎士学校の受験資格は十二歳から十五歳。
つまり、俺は今年の入学試験に受からなければ騎士学校に入学できない、ひいては騎士になれないということになってしまうのだ。なんてことだっ!
おまけに試験までは残り二週間ときている。
幸い石化状態だったおかげで筋肉の衰えはないし、寝ている間にたっぷり修行もした。だから社交ダンスや礼儀作法、試験最後の摸擬戦については問題ないだろう。
残る問題は座学のみ。これが微妙に残っている。騎士予備校で習うはずだったところが、ほんの少しだけ残っているのだ。
そんなわけで俺は残りの二週間、ひたすら座学に励むことになった。
――次の日。
部屋で一人勉強をしていると、ティナが現れた。
俺は開口一番に謝る。
「ティナ。君を守りきれなくて本当にごめんっ!」
俺が不甲斐ないばかりに、彼女を守りきることができなかった。そしてその結果、彼女の三年という尊い時間を奪ってしまったのである。俺はとにかく申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
ところがそんな俺に、ティナはこう返してくる。
「・・・バカね。不甲斐ないのは私のほう。あんたの足手まといになって、結局迷惑かけちゃった」
そうして一度俯くも、すぐに顔を上げて俺をまっすぐに見つめてきた。彼女はその強い意思のこもった瞳で俺に宣言する。
「だからねジェフ。私はもっともっと強くなってみせるっ! 胸を張ってあんたの隣に立てるそんな女騎士になるの! そして、もしそれが叶ったら・・・・その時はどうか私の話を聞いて欲しい」
彼女の熱い決意が俺の胸を激しく叩いてくる。
ああ。こんなティナだから俺は・・・。
思わず零れてしまいそうになる心の痛みを強引に押し込め、俺は彼女の想いを応援することに決めた。
「うん。待ってるね」




