117 目覚め
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――俺が目を覚ましたのは見慣れたベッドの上。
ではなく、天蓋のついた大きなベッドだった。下がやわらかすぎて、まるで宙に浮いているかのような心地である。もはや動きたくない。
しかしどうしたことだろうか。
まさか、これが青年の言っていた “ 転生 ” ってやつなのか?
いやいやちょっと待って欲しい。俺は “ 転生 ” なんてしたくない。ようやく好きな人もできたし、やり残したことだってまだまだたくさんあるんだっ!
「なんてな・・・ハハハ」
どうやら俺は無事生きているらしい。ここがどこなのかはさっぱり分からないけれど、俺の身体はジェフリー・カーティスそのものだ。
とはいえこれからどうしようか。
「!?」
と、突然物凄い音が聞こえてきた。一体なんだ?
音のしたほうを見てみると、そこには少々くせのある金髪を肩くらいまで伸ばした同い年くらいの女の子。どこか見覚えのあるような、でもいまいちピンとこない。そんな不思議な感覚を味わう。
床には、彼女が手に持っていたであろう花瓶が見事に砕け散っていた。絵柄と色合いからみて随分と高そうな花瓶だ。
俺は貧乏根性(?)でバラバラになった花瓶の値段を計りながら、もう一度視線を上げる。
すると女の子は、それはもう盛大な泣き顔を晒していた。まるで俺が泣かせてしまったようで非常にバツが悪い。どうして泣いているんだっ?!
わけのわからない焦りの中、俺は懸命に頭を働かせ、ようやく思い至る。
そうかっ! きっと原因はあの花瓶を割ってしまったことだ。あれほど高そうな花瓶、割ったことがバレたらそれは手ひどく叱られるに違いない。
彼女はこれから待っているであろう、恐ろしいお仕置きの数々を想像し、その絶望感に打ちひしがれているのだ。
どうしよう。なんか凄く可哀そうに見えてきた。俺、手持ちいくらあったっけ・・・・。
号泣する女の子を救うべく、ぼんやりと持ち金のことを考える俺。
ところがここで、急に腹痛が襲ってきた。
「ぐふっ!?」
なんと、女の子が俺のベッドにイン、どころかミサイルダイブしてきたのだ。金髪ドリルが風穴の開いた俺の腹部をさらに抉ろうとしている。
「って、あれ?」
そういえばお腹の傷が完全に治っている?
いや、生きているんだから当たり前か。でもなんで?
俺に抱き着いて号泣する少女。そして俺が無事に生きている理由。
頭の中の疑問符だけが増えていく。
思考の渦にのみ込まれそうになったとき、扉は開いた。
「「ジェフリー!」」
壊れそうなほどに勢いよく開いた扉。その向こうから現れたのは・・・。
「父さんに母さん?」
父カイル・カーティスと母エーファ・カーティスだった。少しだけシワが増えたような気もするが間違いない。二人は無言のままその場に立ちつくしている。
「「・・・・・」」
やがて母さんは口元をおさえて崩れ落ち、父さんはヨロヨロとこちらに向かって歩いてきた。不自然な笑い声を上げながらも、なぜかその頬には涙が伝っている。
「ハハ、ハハハッ、ハハハハハッ!」
「えと、父さん?」
父さんは俺を強く抱きしめ、震えた声で叫び散らした。
「無事で本当によがっだっ!!」




