116 継承Ⅱ
本編に戻ります。
――気がついたらそこは白い空間だった。
なんだろう。既視感がある。いや、ありすぎる。
「よう俺。ずいぶん早かったな!」
彼は、お腹がねじ切れそうなくらい盛大な大笑いをする。
うん。すっごく悔しい。今すぐ全力で殴りつけたい気分だ。まあ敵わないんだけど・・・。
というわけで、俺は大蛇をめった斬りにしたあと、前世の俺と再会を果たしていた。
ここにいるということは、俺はまだ死んではないのだろう。瀕死の状態で転がっているのかもしれない。逆に言うと、いつ死んでもおかしくないわけだ。
おそらくティナのほうは俺が庇ったから無事に違いない。もし完全に無事ではなかったとしても、少なくとも俺よりひどい状態にはなっていないはず。だからきっと死んではいないだろう。
俺は自分に言い聞かせるように独白する。
「いや~しっかし惜しかったな。もう少しで完全勝利をもぎ取れたのによ~」
「まさかあんなことができるなんて。自分でも驚きでしたけどね」
「そうか? ちょっと頭を使えば分かりそうだけど?」
「・・・・・分かるわけねぇだろ」
こっそり悪態をつく俺に、彼はわざとらしくつくったような間抜け面を向けてくる。こういうところだよっ!
「ん?」
「分かるわけないでしょ! だって、あんな、あんなことっ!」
「はぁ~おいおい。思い出してみろ」
「な、なにを・・・ですか?」
「お前の魔法の才能ははっきり言って万能だ。自分でもそう言ってたよなぁ?」
「そ、それは。想像というか、妄想というか、勢いで・・・」
「想像でも妄想でもなんでもねぇ。自分の魔力を自分の好きなように変質できる才能だぁ? 俺から言わせりゃまさに万能、天才だぜ? お前」
「いや、でも。使いこなせてないんじゃあ、意味ないじゃないですか」
「だったらここで修行していけ。どうせ暇だろ?」
「・・・・・確かに」
こうして俺は、ひたすら彼との修行に明け暮れた。
剣術、体術、槍術に投擲術、彼が知っている全てを伝授してもらう。
さらに、これらに対応した “ 魔装 ” も考えた。
この “ 魔装 ” っていうのは、俺たちが勝手に名付けたもので、自分の魔力を変質させて作った剣や槍、ナイフなどの武器の総称だ。我ながらイカした名前だと思う。
ストーンバジリスクと戦った時のように、ただただ硬い素材に変質させることもできるし、炎や水といった全く異なる物質に変質させることもできることが分かった。
ただ、魔力消費が恐ろしく膨大なため、鎧のような防具はまともに作れないし、俺の魔力量でもごく短時間しか使えないという弱点があるのが少々痛い。
それでも、これから騎士学校で習うであろう、魔力効率のいい【纏い】や【属性付与】といった特殊技能とうまく使い分けをすれば、どんな相手にも対応できるようになるはずだ。そんな希望に胸を膨らませる俺。
――長い時間が経った。
とは言っても、もはや時間の感覚というのがないので、どれくらい経ったのか、正確なところは分からないんだけれども。
とにかくっ!
彼から
「お前はもう大丈夫だ。俺からはもう何も教えてやれそうにない」
この言葉を引き出すくらいには修行に没頭していた。
やがて、彼は少し寂しそうな顔で言ってくる。
「・・・そろそろお別れかもしれねぇ」
「え? なんでですかっ!」
「ん~勘? いや、ん~まあ、もう思い残すこともないっつーか。そんな感じ?」
「ずっと一緒にいてくれるって約束したじゃないですかっ!!」
「いや言ってねぇし。それはお前の彼女だろ」
「か、彼女では・・・・まだ・・・ないですけど。へへへ」
「気持ちわりぃからその顔やめろ・・・・あ~じゃあそうだな、お前のお願い? あれが叶う代償だとでも思っとけ。『俺の魂持ってきな!』ってな。ハハハッ!」
「誰のセリフですか? それ」
「知らねぇ!」
そんな冗談みたいなやり取りをしていた時だった。
「「!?」」
前回とは違って、彼と俺の両方が淡く光り出したのだ。
「ハハッ! やっぱり俺の勘は当たんだよな。あん時もそうだった」
「そんなっ! じゃあもう本当に会えないんですか?」
「会えないだろうな。てか、また死にかける気かっ! もう会いに来るんじゃねぇよ。バカ野郎」
そうだ。ここで彼を心配させてはいけない。きっと彼は優しいから、それが心残りになってしまう。俺は寂しさを堪えつつ元気よく返した。
「俺はもう大丈夫ですっ!!」
「へっ! それを聞いて安心したぜ」
彼は一つ頷いて、俺に向かって手を振り上げる。
「そんじゃまあ、来世で会おうや」
「ええ。また来世でお会いしましょう」
そのときは、彼が生前に欲してやまなかった“幸せ”に・・・。
俺は薄れゆく意識の中でそっと願った。




