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転生騎士の英雄譚  作者: 青空
騎士予備校
125/210

115 願い

念のために書いておきます。


安心してください。

俺はストーンバジリスクに最後の意地を叩きつける。


「はぁああああ!!」


「ギシャァアアア!!」


先ほどまで無傷だった大蛇の鱗は、自身よりもなお硬い意思に強く切り裂かれ、大きな悲鳴を上げた。


しかし、まだまだ傷は浅く小さい。これではいくら斬りつけたところで到底その命まで届きはしないだろう。俺は荒い息を無理やり押し込めて歯を食いしばる。


「【空走(ριπή)】!」


そのまま一気に大蛇の側面、ちょうど右目の高さまで飛び上がると、


「はぁああああ!【風斬(かざきり)】!!」


渾身の一撃で、そのギョロついた大きな眼球を潰しにかかった。


「ギシャァアアアアアア!!」


ストーンバジリスクはあまりの痛みに地面の上をのたうち回り、周り一帯の地形を一瞬で変貌させる。そこには、まるで隕石でも落っこちたかのような大きなクレーターが出来上がった。


「ギャラァァァァス!!」


片目を潰された大蛇が、雷鳴のような咆哮を轟かせて怒り狂う。そうして、尖がった尻尾を鞭のようにしならせて地面を抉り飛ばす。


「くっ!」


飛んでくる岩石を避けながら、俺はもう一度大蛇へと肉迫し、鬼神の如き猛攻を加え続けた。


「はぁああああああああ!!」


手が千切れてしまいそうな速度で、もはや握った感触すら分からない剣を必死に叩きつけていく。


「ギシャァアア!!」


大蛇の胴体は深く深く抉り取られ、絶叫を響かせる。全身血まみれ、満身創痍、最後の力を振り絞った大蛇の攻撃は・・・石の雨。


俺は降り注ぐ大量の石槍をギリギリで躱せたが、ティナのほうはそいつを足に喰らってしまったようだ。短いうめき声とともにカランと音がする。


「つっ!」


「ティナ!」


足を押さえて(うずく)るティナを助けるために、俺はそばに近づこうとするが、大蛇からの猛攻をしのぐだけで精一杯。ここからでは回復魔法も使えないし、身体強化を維持する魔力ももう残っていない。


「きゃあ!」


そうこうしているうちに、衝撃で飛ばされた岩石がティナを襲う。


ティナの意識が途切れ、その場に倒れ伏した。


「くそっ! ティナ! しっかり!!」


「・・・」


俺は倒れ伏すティナに必死に声をかけるが応答がない。


「ティナ! 目を開けて! そこから離れるんだ!!」


今にも息絶えそうな大蛇は、最後の最後、横たわって動かなくなったティナに狙いを定め、


「ギャァァス!!」


鋭く尖った尻尾を一直線に伸ばした。


「ティナぁああああああ!!」


俺は即座に剣を投げ捨てて風になる。そうして体中に打ちつける石礫(いしつぶて)の弾幕越え、完全に意識を失って倒れているティナに飛びつくと、その華奢な肩を両腕で強く抱きしめた。



――次の瞬間。


「ぐふっ!」


途轍もない衝撃とともに、俺の腹から黄土色の槍が生えてきた。ストーンバジリスクのもつ石化毒のせいだろうか、痛みは全く感じず、すでに身体が石のように固まってきている。


俺は朦朧(もうろう)とする意識の中で一つだけ願うのだった。


「ああ、どうか。どうかティナだけは見逃してほしい。俺の大切な人なんだ。俺の命と引き換えにしてくれていい、なんだったら魂だってくれてやる。だからどうか・・・・・」


腹から突き出た槍は少しずつその勢いを弱めていく。


「ドスンッ!」


やがて大蛇の生がつき、大きな音を立てて倒れた。


ついに彼らは災厄級の化け物をその手で退けることに成功したのだ。




――大きな窪地(くぼち)に影三つ。


こと切れた大蛇の死骸と風穴の開いた男女の石像が横たわっていた。


無慈悲な悪魔の切っ先は少年の願いを嘲笑うかのように、その腹部を易々と突き破り、少女の胸をも貫いていたのだった。


読者様へ


 ここまでお読み頂きまして、本当にありがとうございます!!

 もしかしたら前書きの一言を読んで、何となく察してくださった方がいらっしゃったかもしれませんが、ここから少しだけ物語の谷がやってきます。実はこの辺がちょうど物語の中間地点です。

 次話以降、数話ほど閑話が続くかもしれませんが、ご安心ください。それほど長い谷ではないので、苦手な読者様は、一週間(5話分)ほど溜めてから一気にお読み頂くとよろしいかと思われます。

 今後ともよろしくお願い致します。


青空

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