114 ココロトマリョク
俺たちはストーンバジリスクを左右から同時に挟撃する作戦に出る。
「はぁあああ!!」
「やぁああ!」
あれほどの巨躯で体当たりなんてされたらひとたまりもないからな。まずは、狙いをつけさせないようにチョコチョコと動いて惑わせつつ、ヤツに近づいて攻撃していく必要がある。
「ちっ!」
「か、硬いわねっ!」
しかし大蛇の鱗は予想通り圧倒的に硬く、文字通り全く歯が立たない。俺たちの剣はあっさりと弾かれるどころか、あっという間に刃が欠けていくのだった。
「くそっ!」
マズいな・・・今の俺じゃ鋼よりも硬いものは斬れないし、ティナのほうもかなりきつそうだ。剣を握りしめた手から血が滴っている。
ストーンバジリスクはチョロチョロと動き回る俺たちを鬱陶しげに睨みつけると、
「ギャラァァァァス!!」
大きな咆哮とともに槍のような石礫を飛ばしてきた。どうやらこのクラスの魔物は魔法も使えるらしい。なんて化け物だ!
「ふっ! はぁああ!!」
俺たちは絶え間なく降り注ぐ石槍の雨を避けながら、ヤツに気づかれないように、交互に同じ部位だけを狙って攻撃していく。
「やぁああ!!」
きっと活路が開けるはずだ!
それだけを信じて一点集中の攻撃をひたすらに繰り返す。
――パキッ。
何百、何千、何万回もの攻撃を、傷だらけになりながら繰り返すこと数時間。ついに何かが割れる音がした。
来たっ!
そう思った俺は顔を上げて大蛇の損傷部位を確認する。
「え?」
しかし、どこにもそんな痕跡はない。それどころか、大蛇の鱗にはほんの少しの傷跡だけが浅く残っているだけで、全く効いている様子がないのだ。
おかしい。
俺は自分の手元に視線を戻す。
「そん・・・な・・・」
見れば、柄から先に輝くはずの鋼の剣は跡形もなくなり、残っているのはただただ軽くなった虚ろなガランドウ。
砕け散ったのは俺の剣のほうだった。
「ジェフリー!」
絶望の闇にのまれ茫然と立ち尽くす俺の耳にティナの声が響いた。
「・・・・てぃ・・な・・・?」
「ジェフリーしっかりしなさい! あんたはそんなもんじゃないでしょ!!」
叱咤するティナの声が、俺の頭を猛烈な勢いで殴りつける。
そうだった。俺の隣には彼女がいてくれたんだ。
「ハハッ!」
何を絶望することがあるだろうか。こんな状況、分かりきっていたことじゃないか。俺たちは普通なら到底敵うはずのない強大な相手に立ち向かっているんだ。それでも騎士になりたいと、誰かを守りたいと願ったのは俺自身だ!
その隣に、俺を応援してくれる最高の仲間が、俺を信じて肩を並べて戦ってくれる彼女がいるんだ。
希望はまだここにある! 負けてなんかやるものか!!
俺は握りしめた先なしの剣に、残り僅かな魔力を全力で込める。
「うおぉおおおおお!!」
気づけば手には黄金色の輝きを放つ剣。
それは何よりも硬い、俺の意思がかたちになった姿だった。




