112 揺るがぬ決意
ストーンバジリスク。
全長だけならドラゴンをも超えるド級の化け物であり、鋭い牙と尖った尻尾には獲物を石化させる毒をもつ。硬い鱗と強靭な身体で地中を移動する大蛇で、脅威度は当然Sランクを超える。つまり、個人で戦っていい相手ではない。
パイさんの説明を聞いた俺たちは、早々に逃げるという選択をする。
だがしかし、このまま逃げても容易に追いつかれる確率が高いうえ、最悪の場合、王都までこいつを引き連れていくことになってしまう可能性がある。かと言ってザッシュとティナの青い顔を見るに、とてもではないが戦闘は無理そうだ。
素早くそう考えた俺は、
「俺が囮になります。三人は王都に戻って住民の避難と騎士団の派遣を要請してください」
湧き上がってきそうになる恐怖心を強引に押さえつけてそう提案する。
「ええ分かったわ」
力のこもった目を見て俺の覚悟を察してくれたのだろう、パイさんは即座に頷いてくれた。もしかしたらウラノスでの出来事を知っているからこそ、俺の気持ちにいち早く気づいてくれたのかもしれない。
ところが、これにザッシュとティナが猛反対してくる。
「お前死ぬぞ! 分かってんのか!!」
「ダメよ! 全員で逃げた方がいいわ!!」
今にも泣き出しそうな二人の不安を吹き飛ばすように、俺は笑って応えてやることにした。
「大丈夫! 俺を信じてくれ!」
それから二人を納得させるための理由もきっちり説明してやる。
「それに、俺たちが全滅したらそれこそお終いだ。誰もアイツの存在を伝えられなくなる。たくさんの人が住む王都であんな化け物が暴れたら、多くの命が失われるかもしれない。だからみんなには必ず王都まで逃げ帰ってほしいんだ。頼む!」
苦しげに顔を歪めて逡巡する二人だったが、
「・・・分かった・・・絶対死ぬんじゃねぇぞ」
ザッシュは肯定を
「私は残る・・・あんた一人じゃ・・不安なのよ」
ティナは少し震えた声で否定を返してくる。
「ティナ!」
「あんたがなんと言おうと私は残るわ!」
俺がダメだと言う前に、ティナが畳みかけてきた。
「・・・」
ティナの強い意思がこもった叫びに、俺は言葉を紡げず押し黙る。
すると、パイさんは深い溜息を吐きながら苦笑を浮かべて言ってきた。
「ジェフ君。ここは二手に分かれましょう。二人一組で行動する方が動きやすいし、全員の生存確率も高いかもしれないわ。それにその子、テコでも動かなそうだしね。まるで今にも捨てられそうな子猫みたい。ふふふっ!」
「う、うっさいわね! 脳筋メスゴリラには言われたくないわ! いいからさっさと尻尾巻いて逃げなさい!」
ティナはパイさんの軽口にいつも通りの文句をつけると、腕を組んでそっぽを向く。その姿に、なぜだか俺は、不思議な安心感というか、頼もしさを感じた。
そうだったな。ティナもザッシュも騎士を目指す俺の同志、仲間だ。それぞれに守りたいものがあって、守れる力があって、守る意思があるんだ。だから隣に立つ彼女に、俺はこう言えばいいだけだった。
「ありがとうティナ。俺と残ってくれ」
「よろこんで」
彼女は笑顔で俺を見た。




