110 サラマンダーリベンジ
少々もめながらも俺たち四人は予定通り、その日のうちにブルーノ尖山の麓付近に到着し、一夜を明かした。
――次の日。
鋭く尖った山の先端から朝日が昇り、辺りを照らしだす中、俺たちは手早く出発の準備を整えるとゆっくり歩き出した。
周りには一切木々が生えておらず、地面から伸びるのは槍のような硬い岩石のみ。針山を思わせるそのありようは、実に荒々しい大自然をその身でもって体現しているように感じられる。
「そろそろサラマンダーの目撃情報があった場所よ。慎重に進みましょう」
パイさんを先頭にザッシュとティナが左右、俺が後ろを警戒しつつ、隊列を組んで進んでいく。
そうして道なき道をしばらく歩いた後のこと。
「「「「!?」」」」
そいつは惰眠を貪るかの如く実にリラックスした状態で、だらしなく四肢を投げ出して眠っていた。
見覚えのある赤く厳ついフォルム。以前遭遇したヤツよりも一回り小さいが、その傍若無人な出で立ちは間違いなくサラマンダーである。
「じゃあ作戦通りに」
俺は短く声をかけた。
「ええ」
「了解だぜ」
「任せなさい」
俺の合図で散開し、サラマンダーを包囲するようにそれぞれが配置に着く。
そして、
「たぁああああ!!」
「はぁああ!!」
「らぁああああ!」
「やぁあああ!」
一気に総攻撃を仕掛けた。
俺はサラマンダーの後方。尻尾目掛けて突撃していく。
剣は鞘に納まったまま。だが、これでいい。今回イメージするのは鉄塊をも両断する強烈な一撃。この前、高熱でぶっ倒れたときに前世の自分に教わった技だ。
――あの時の場面を思い出す。
俺は彼にちょっとした、いや深刻な悩みを打ち明けた。
「サラマンダーの鱗が硬すぎて斬れなかった?」
「はい。全く刃が通らなくて。だから剣に魔力を流す特殊な技術を習得しようとしているんですけど、それも全然できなくて・・・」
「そんなに硬ぇのか?鋼よりも?」
「いえ。実際には、剣が欠けたりするほどではないので、硬さ的には同じくらいか少し下くらいかなと思うんですけど。でも全く刃が通らないんです!」
「そりゃあお前・・・・・剣の振り方が下手くそなだけじゃね?」
しかし、彼はバカにしたような軽い感じで言ってくる。やっぱりひどい奴だ。
「・・・」
「あ~悪かった悪かった。教えてやっから機嫌直せ」
「本当ですか!?」
「変わり身早えな・・・まあいいや。よく見てろ」
彼は剣を鞘に納めたまま腰を落とし、目の前の鉄塊を見据える。
「いいか?本来この技は、薄くて丈夫、なおかつ軽い武器。刀っつー特殊な武器を使って繰り出す技だ。だが、ポイントをしっかり押さえりゃあ」
そう言いながら、目にも止まらぬ速度で剣を振りぬくと
「!?」
鉄塊は斜めにズレ落ちていった。
「まあ、こんな感じだな。重要なのは速度と角度、これを忘れんな。それから、これ以上に硬ぇ奴には効果がないから気を付けろ。剣のほうが折れて終わりだ」
――深く息を吸い込み歯を食いしばる。
一瞬で全身の力を限界まで絞り出し、目にも止まらぬ速さで剣を振りぬく。そして角度は60度。浅すぎても深すぎてもダメ。
教わった動きを何度も頭の中で反芻しながら、俺はサラマンダーの太い尻尾を睨み据え、
「我流抜刀術【風斬】!!」
一気に剣を振りぬいた。




