108 耳寄りな話
若干空回り気味ではあるものの、あれ以降、ザッシュはサーヤとよく話すようになった。
バッサリとフラれたことで逆に話しやすくなったのかもしれない。もうなりふり構わずアタックし続けることに決めたようだ。頑張れザッシュ!
そんなザッシュは今、やけにご機嫌な様子で俺の隣を歩いていた。
「ふぃ~今日もいい天気だなぁ。なぁジェフ!」
「ああ」
「見ろよあの花、めっちゃ綺麗だぜ!」
道端の草花すら褒めたたえる始末。
「ああそうだな。ところで、今日はやけにご機嫌だけどなんかあったのか?」
「おっ? 聞いてくれるか? いや、聞いてくれよ!」
ザッシュはグンッと前のめりになって俺に詰め寄って来る。鬱陶しいな。
「・・・やっぱり面倒くさいからまた今度でいいや」
「おいおいそう言わずにさ~聞いてくれよ~ジェフ~。ちょっと! ちょっとだけでいいからさ!」
「はぁ~それで?」
「いや~昨日のことなんだけどさ~。社交ダンスの授業あったじゃん? そんときにさ~サーヤとペアになっちまってよ~。もう奇跡かよってな! ハハハ!」
それからザッシュは、サーヤの手が柔らかくて~とか、組んだ時の甘い香りが~とか、流石にちょっと気持ち悪いレベルで熱く語ってきた。こいつはもうダメかもしれない。
そんなことを思いながら、話を聞き流して歩くこと十数分、俺たちは冒険者ギルドに到着した。
待ち合わせ場所は入って左手の酒場、目的の人物はすでに席に着いている。
「お待たせしてすみません。パイさん」
「どもっす! 姐さん」
「ヤッホー! ジェフ君にザッシュ君」
いつものビキニアーマーで気さくに手を振り返してくれるAランク冒険者のパイさん。ちなみにザッシュはなぜか姐さんと呼ぶ。力強い拳に惚れたんだとか。舎弟希望かな?
「じゃあ、さっそく本題に入ろっか。実はちょっと耳寄りな話を持ってきたの」
「耳寄りな話、ですか?」
「ええ。まずはこれを見てちょうだい」
パイさんはそう言うと一枚の依頼書を取り出した。
「え~と、サラマンダーの討伐、場所はブルーノ尖山周辺・・・ですか」
「ブルーノ尖山っていやぁちょうど東のほうに見えるとんがった山っすよね? 結構遠くないっすか?」
「そう。馬で行こうとしたら三日はかかるくらいには離れた位置にあるわね」
「パイさんまさか・・・」
「ええ! 私たちなら全力で走れば半日程度で行ける距離よね!」
「いや、まあ身体強化魔法を使えばそれくらいなら・・・」
「いいっすね! 行きやしょう姐さん! いいだろ? ジェフ」
「まあお前がいいなら」
こいつ本当に大丈夫かな。ハイテンションすぎてタタン渓谷であったこと忘れてない? サラマンダー相手に尻尾丸めてガタガタ震えていた気がするんだけど・・・。
在りし日を思い出しながらも、俺は俺で試してみたい技があったため、その提案を快く受けることにした。
――王都の東門。
なぜかメンバーが一人多い。
しかも、パイさんと睨み合い、言い争いをしている。
「大体なんのよその装備は! この痴女!」
「うっさいガキ! 黒髪貧乳って定番ね! プププッ!」
「はぁ?! まだ成長期だし! あんたみたいに無駄な脂肪つけてたら遅くて足手まといじゃない!」
「言ってくれるわね! いいわ! その喧嘩買ってあげる」
「まあまあ落ち着いて二人とも」
「「ジェフ君( あんた )は黙ってて!!」」
パイさんとティナがめちゃくちゃ怖いんですけど・・・なぜこうなった?!




