107 マイヒーロー
無事に(?)シスターのアニエスさんに挨拶した俺たちは、しばらく孤児院のみんなと遊びまくった。
「ジェフにぃはこっちね!」
「ずりぃぞ! じゃあこっちはザッシュにぃだ!」
「じゃあってなんだじゃあって!」
「だってジェフお兄ちゃんのほうが強いんだもん!」
「ザッシュにぃよりカッコイイし!」
「てめぇらなぁ・・・」
チーム分けでは少々もめたり、ザッシュがすねたりしたが、おおむね楽しい時間を過ごすことができた。強力な助っ人扱いされるのって、すごく気持ちがいいものなんだね。
そのあとはアニエスさんが淹れてくれたお茶を飲みながら一息。元気に走り回る子供たちを二人でボーっと眺めていた。
気持ちが落ち着いたのか、ザッシュが静かに話し出す。
「俺さ、最初は一目惚れだったんだ」
「サーヤのことか?」
「なんて言ったらいいか分かんないけど、なんかこう。いいなって思ったんだ!」
「まあ、一目惚れだしな・・・」
「でもさ、俺が本当にサーヤを好きになったのって、実は割と最近かもしれないんだ」
「うん?」
「いや、何ヵ月か前の話なんだけど・・・」
それからザッシュは数か月前に目撃したという話を聞かせてくれた。
――曰く、それはとある休日。
冒険者活動で稼いだお金を寄付しようとこの孤児院を訪れた日だった。
その日は何やら様子がおかしく、教会の前に貴族のものと思しき馬車が二台も停まっていたらしい。紋章が違うことから別々の貴族が来ているというのはすぐに分かったという。
教会の中を確認するも、誰もおらず、不安になったザッシュはそのまま裏の孤児院に駆けた。
するとそこには、倒れ伏したアニエスさんと小綺麗な身なりをした小太りの男、そしてアニエスさんを背に男を睨みつけるサーヤがおり、何やら言い合いをしている。
「我がサーヤ・キルトンの名において、この孤児院を保護します! デズモンド男爵。あなたには今後一切、この教会への出入りおよびこの教会に属する人たちへの干渉を禁止します!」
彼女の宣言に、男は泡を飛ばして怒鳴り散らした。
「ええい、うるさい! 小娘の分際でこの私に命令するなッ!!」
しかしそれに一切怯むことなく、サーヤは凛とした声でこう返したという。
「黙りなさい! 寄付金を不当に減らして孤児院を潰し、路頭に迷った子供たちを捕まえて売り払おうなどと、キルトン侯爵家はお前の蛮行を決して許しません! 分かったら今すぐここから立ち去りなさい!!」
一歩も引かないサーヤに恐れをなしたのか、はたまた王都の治安を守る権力者キルトン家にたてつくのはマズいと思ったのか、男はすごすごとその場を立ち去っていったらしい。
サーヤかっこよすぎ! そりゃあ惚れるわ。
思わず俺がそう言ったら、ザッシュが身を乗り出して
「だろっ! サーヤは可愛くて優しくて、そりゃあもうカッコイイ、サイッコーな女なんだよ!! 俺の大事な家族を守ってくれた最高の救世主なんだ!! しかもさ、それから後の話なんだけどさ~」
と、さらに熱く語ってきた。
ザッシュが話し終えるころには日が完全に落ちてしまったというおちなのだから、本当に勘弁してほしいな。まったく。
俺は呆れ半分、嬉しさ半分。不思議な心地で帰路についた。




