閑話 ある日の誓い
閑話です。お付き合い頂ければ幸いです。
僕はカフス・キルトン。キルトン侯爵家の長男だ。
僕には可愛くて優秀な双子の妹がいる。名前はサーヤ。聡明さが滲み出るいい名前だろう?
我がキルトン家は代々、このガレーリア王国の軍務を取り仕切る家系であり、王都を守る要として据えられている。
南部の要であるグレイシス辺境伯家と北部の要であるオストワルト辺境伯家の両家と連携しつつ王都周辺の防衛を担当しているのが我がキルトン家なのだ。
そんな家柄であるがゆえに、キルトン家は王国内でもかなりの権力を持つことが広く知られており、何とかして取り入ろうとする有象無象が後を絶たない。
僕ら兄妹も5歳のころには各所のパーティーに招待されるようになり、そのたびに自分たちに対して媚びへつらう大人たちや下心満載ですり寄って来る同年代の奴らを見てきた。贅沢だと言われるかもしれないが、正直、そんな自分の境遇がどうしようもなく嫌だった。
それでも救いだったのはサーヤがいたことだ。互いの気持ちを理解し支え合える唯一無二のパートナーであり、苦楽を共にする同士とも呼ぶべき存在であり、そして僕が命に代えても守りたいと願う可愛い妹がそばにいてくれたことである。
しかし、そんな双子の妹は美少女すぎるがゆえ、害虫から目を付けられやすいという特性も持っていた。家柄も良く見目も世界一素晴らしい彼女に、パーティー会場の害虫どもが群がるのは必然だったのだ。
――とあるパーティーでの出来事である。
僕らはいつものように面倒な挨拶回りを済ませ、会場の窓際で一息ついていた。
「はぁ~今日も疲れた。もう帰りたい気分だよ」
「兄さん。そんなに気を緩めてはダメですよ! こんなところをお母さまに見られたら、また何時間もお説教を聞かされるはめになってしまいます。私はもう付き合いませんからね!」
そうは言ってもなんだかんだ付き合ってくれるサーヤは本当に優しくてできた妹なんだよ、などと誰に向けているのか分からない妹自慢を心の内でこっそりと零しつつ、
「あ、あーなんか喉が渇いたなー。そうだ! 飲み物でも取って来よう。サーヤはここで待っていてくれ!」
僕は話題を逸らすふり(?)をして飲み物を取りに行った。
――飲み物を持って戻ってきた時。
先ほど僕たちのいた場所に何やら人だかりができている。もしやと思い、それらを何とか押しのけて躍り出たそこにいたのは、サーヤに群がる害虫どもがいた。
「ねぇねぇ、ちょっとくらいいいだろう? あのうるさい番犬もいないしさ!」
「困ります!」
「そうそう。たまには俺たちと息抜きしようよ!」
「結構です!」
「あっちに綺麗な庭園があるんだ。ぜひ君と歩きながら語り合いたいな!」
「お断りいたします!」
害虫どもは寄ってたかって嫌がるサーヤを無理やり連れだそうとしている。そしてあろうことか、害虫の一匹がサーヤの肩に手を回そうとしたのだ。ふざけるな!
僕はたまらず、手に持っていた飲み物を害虫どもの顔に浴びせかけると、サーヤの手を引いて会場を飛び出した。
「サーヤ! こっち!」
握った手はいつもと違って弱々しく、少しだけ震えているのが伝わって来た。きっとニヤニヤと下卑た気持ちの悪い害虫どもに群がられて怖かったのだろう。
控室に戻った僕は、震えるサーヤを椅子に座らせてそっと抱きしめるながら、出来るだけ優しい声音で囁きかける。
「大丈夫。僕がそばにいるから。安心していいよ」
少しずつ肩口が冷たくなっていくのを感じながら、僕の中では熱い激情が渦巻いていた。もう二度と彼女が泣くのを見たくなかった。
そうして僕は誓いを立てた。
一、サーヤはこの命に代えても僕が守る!
二、サーヤを傷つける奴は決して許さない!
三、サーヤを泣かせる奴は決して許さない!
四、サーヤに言い寄る奴も決して許さない!
五、この誓いを、この僕を越えてでもサーヤを本気で愛してくれる人が現れたならば潔く託す。
そう。いつかその時が来るまで、僕は彼女の騎士であり続けるんだ!




