105 妹自慢か?
二人の剣が物凄い速度で火花を散らす。
どちらも身体強化の魔法でいつもの数倍の速度域で戦っているためだ。
入校当初はザッシュのほうが実力は上だったはずだが、カフスの成長は目覚ましく、今ではほぼ互角の実力と言っていい。
獣人族であるザッシュのほうが身体能力的な部分では勝っているようだが、カフスは目がよく判断力に優れた剣士だ。ザッシュの攻撃を的確に予測し受け流していく。
ただ、そこから攻撃に転じるまでの速度と技術がまだ足りないようで、ザッシュへの攻撃もまた届いていないのが残念なところだ。
そうして二人はいつまで経っても互いに攻撃を当てられない状態に陥っていた。ある種の膠着状態と言ってもいい。
「はぁはぁ・・・中々しぶといな!」
「はぁはぁ・・・そちらこそ!」
それでも二人は互いに闘志をぶつけ合った。
訓練場の地面がどんどん抉られて酷い凹凸が出来ているんだが・・・。
お前ら張り切り過ぎじゃない!?
俺は二人のせい(熱気?)で変わり果てていく訓練場を眺めながら内心で若干焦りを覚え始めていた。
実はこの学校内で本格的な決闘をする際には、教官たちに実施許可と訓練場の使用許可を得なければならないルールがあるのだが、今回のこれは完全に無断でやっている。つまりバレたら確実に怒られるのだ。
さらに、訓練場を使用した際には、自分たちで使用前の状態に戻すことが義務付けられているため、荒らせば荒らすほど後片付けが面倒になってしまう。
目の前に広がる地獄絵図、荒れた大地を元に戻すには軽い工事が必要かもしれないレベルであるため、とんでもなくマズい状況なのだ。
俺はあとに訪れるであろう面倒事を想像し、溜息を吐く。
「はぁ~どうすっかなぁ・・・」
――そうしている間にも二人は激しくぶつかり合う。
「はぁはぁ・・・そろそろギアを上げていくぜ?」
ザッシュはそう言うと、持っていた長剣を逆手に持ち、腰に差していた短剣を引き抜いた。
そうして一足にカフスの懐へ飛び込むと、カフスの剣を短剣のほうで押さえしつつ遠心力を乗せた長剣の強撃を放つ。
「くっ!」
カフスは辛うじて横に飛びそれを避けるが、ザッシュは逃がさない。
「はぁああ!!」
そのまま高速回転することで力を上乗せし、カフスに迫った。
「くっ! こんのぉおお!」
ザッシュの強烈な横薙ぎを辛うじて受け止めるカフスだったが、体勢が悪かったのか踏ん張りがきかず吹き飛ばされてしまう。
「ぐっはっ!」
転がっていくカフスを追撃することなく、ザッシュは両腕を垂れ下げ、肩で息をついていた。そうとう体力を消耗しているようだ。
「はぁはぁはぁ・・・」
――次第に砂ぼこりが晴れていく。
カフスは剣を支えに立ち上がっていた。
「はぁはぁ・・・まだ・・はぁ・・・だ・・僕は・・・負けて・・ない!」
先ほど吹き飛ばされたときに切ったのだろうか、頭から少しだけ血を流している。すでに満身創痍といった様子であるが、カフスはそれでもなお吠える。
「まだだ! こんな程度じゃ僕は認めないぞ! こんな程度じゃ僕の妹を託すにあたいしない!! お前なんかに任せられるものか!!!」
その言葉とともに自分を奮い立たせると、剣を構えてザッシュに突撃していった。
「うぉおおおおお!! サーヤは繊細な子なんだ!」
ザッシュも上がった息のままそれに応える。
「だったら俺が気づいてやる」
「何でも溜め込む癖がある!」
「俺がしっかり聞いてやる」
「怖いのがめっぽう苦手だ!」
「俺がそばにいて安心させてやる」
「そのくせ、すぐに強がりを言う!」
「俺が支えてやる」
「誰にでも優しい!」
「だから好きになった」
「世話焼きだぞ!」
「そんなところもいい」
「世界一可愛い僕の妹だ!」
「俺もそう思う」
「泣かせたら絶対に許さない!」
「絶対に泣かせない」
二人はしばらくの間、剣を交わしながら互いの言葉をぶつけ合った。どれくらい経ったのか分からないが、そろそろいい時間である。
ていうか後半ただの妹自慢じゃなかった? とか思いつつ、俺はヘロヘロになった二人をボーっと眺めていた。
――やがて剣を放り投げたのは、
「降参だ! 君を認めよう!!」
カフス・キルトンだった。




