101 こいつは信用ならん!
青い顔で飛び起きたアンヌさんは、かなり慌てた様子でカウンターの奥をガサガサとあさりはじめた。
床には見る間に瓶やら箱やらがゴチャゴチャと乱雑に積み上がっていくが、一切気にする余裕がないようだ。というよりも、マリエルさんのほうをチラチラと伺っている様子から、よほど強い恐怖心を抱ているらしい。
――数分後。
アンヌさんは小さな木箱を取り出すと、それをマリエルさんに丁寧な動作で渡そうとする。
「こ、これでお許し頂けないでしょうか。なにとぞっ!」
実に見事な土下座を披露するアンヌさん。
いや、ホント何があったんだろう。怖くて聞けないや・・・。
俺は内心に渦巻く恐怖心になんとか蓋をして二人のやり取りを黙って眺めていた。
しかし、マリエルさんはそんなアンヌさんを笑顔で見下ろしながら、
「うふふふ! 違うでしょう? アンヌ」
軽く首を振って応える。
「ひっ!」
アンヌさんはまたも短い悲鳴を上げると、今度は俺に向かって木箱を差し出してきた。
「じぇ、ジェフリー君。こ、これを受け取って貰えないだろうか。その、この間は本当に申し訳なかった!!」
そして同時に大声で謝罪の言葉を述べる。
「え~と・・・?」
いまいち状況がのみ込めずポカンのしている俺に、アンヌさんはこう続けた。
「君にあの魔法薬を処方したのは私なんだ。ちょっとしたてちが・・・あっ! いや、と、とにかく申し訳なかった! これは副作用を抑えるための薬だ。長くてもあと一か月程度で副作用は完全に消えるはずだから、どうにかこれで耐えてもらいたい! お願いだ!!」
「・・・」
あ~ということは・・・マリエルさんが言っていた知り合いの魔法薬師っていうのはアンヌさんのことなのか。
で、今のこの状況は、一週間も二週間もいっこうに診察に来ないアンヌさんにしびれを切らしたマリエルさんが直接殴り込み、もとい状況を聞きにやって来たタイミングだったと。
なるほど。うん、大体分かった。
でもアンヌさん、俺、一つだけ気になることがあるんです。
「あの、アンヌさん。先ほど、ちょっとした手違いって言いました?」
アンヌさんは頭を下げた姿勢のままビクッと跳ねると、震えた声で歯切れ悪く答える。
「え~と、ま、まあ、その・・・」
マリエルさんも不審に思ったのか、訝し気な口調で名前を呼ぶ。
「アンヌ?」
「・・・ちょ、ちょっとだけね。アハハハ」
「アンヌ」
「ひっ! 少し、ほんの少~し副作用の強いほうをね。アハハハ」
「「・・・」」
「すみませんでした!!」
アンヌさんはマリエルさんの物凄い圧力に押されて短い悲鳴をあげると、あっさりと白状した。
どうやら俺は、アンヌさんの手違いによって、通常よりも副作用の強い薬を飲まされてしまったらしい。いや、まあ命を助けてもらったんだから何にも言えないけれども・・・。
ただ、これだけは言わせてもらいたい。
アンヌさんの“ 少し ”は全然信用ならねぇ!