11 旅立ち
騎士予備校に通うことを決めて2か月がたった。
その間、俺は父さんから貰った剣を振り続けた。
この剣は父さんが昔使っていたものらしい。手入れは行き届いていて、刃こぼれもなく非常に良い剣だったが、如何せん重い・・・
普通に振れるようになるのに1か月もかかった。
それから父さんは剣の訓練以外にも最低限の礼儀作法や野営で役立つ知識、お金の使い方なども教えてくれた。
そんな2か月はあっという間に過ぎ、いよいよ王都に向けて出発だ!
不安も希望もごちゃ混ぜなこの胸の高鳴りが、なんだか少し心地いい。
「準備はいいか?ジェフ。」
「うん。」
「騎士になるまで戻ってくるなよ!」
「うん。・・・・・・・・え!」
「ハッハッハ!冗談だ。辛くなったら帰ってこい!お前の家族はここにいる。いつだってお前の味方だからな!精一杯やってこい!」
「行ってらっしゃい。ジェフ。道中も気を付けて。」
「行ってらっしゃい。お兄様!騎士になれなくったって私がお嫁さんになってあげるわ!」
「きっと立派な騎士になってみせます!行ってきます!!」
俺の一番大切な“家族”に誓おう。
俺は絶対騎士になる!
故郷を発ってから1週間、特に困ったこともなく、旅程は順調だった。
辺境で暮らしていたおかげか、食べられる動植物は心得ているし、近くの川から飲み水を採取することも可能だった。火を起こすのは手間取ったが、数回やったらすぐ慣れた。
こんなときでも朝の日課は欠かさない。今日も夜明けとともに剣を振り、身支度を整え、旅を再開させた。
あと1週間も歩けば王都との中間にある街ウラノスだ。
ウラノスはこのガレーリア王国の中でも大きな街で、グレイシス辺境伯領の首都でもある。
ウラノスに着いたらまずはグレイシス辺境伯に挨拶に行きなさいと父さんが言っていた。なんでも、古馴染みで騎士学校時代の悪友だったとか。
ちなみにギルバートおじさんは現グレイシス辺境伯の弟だそうで、うちに来るのは実家に帰ったついで(?)らしい。まあ、とりあえず今日も頑張って歩こう。
・・・・・・と思っていたんだが、どうしよう。
目の前には今までに見たこともないような大きさのイノシシがいる。体長は3mくらいで毛が白い。太くて鋭い牙に硬そうな爪。ぶつかっただけで死ぬかもしれない・・・
でもまあ、我ながら恐怖なんてものは感じず、食べたらうまそうだくらいにしか思えないから不思議だ。今日の夕食は焼肉だ!そんなことを考えながら俺は剣を抜いた。
イノシシは物凄い殺気を放ちながら、一直線に突っ込んでくる。
中々速いが受け流すのは得意だ。特に攻撃が当たる気はしない。
ただ、イノシシの身体はとても硬いようだ。何度か斬りかかってみたが、刃が通る感触がない。やはり急所を突く必要がありそうだな・・・
正面からでは攻撃できないし、側面からでは刃が通らない。となると、あとは皮の薄い下腹部から突くしかないな・・・
攻撃方針を決めた俺は、先ほどと同じように向かってくるイノシシを何度か受け流し、タイミングと呼吸と整える。
・・・・・いまだ!
俺は突進を受け流した直後、イノシシの前爪のつけ根を強かに打った。
イノシシは前のめりになり、後ろ足を若干浮かせる。あとは円運動のごとく、浮いたその足を持ち上げてやれば、イノシシは勝手に腹を見せてくれる。
俺はイノシシの腹に剣を一突きし、心臓を潰した。
心臓の硬さに違和感があった気がしたが、きっとどこかの骨に当たったのだろう、とりあえず手早く解体してしまおう。
まずは毛皮を剥いで牙を折る。せっかくだ、イノシシの毛皮と牙は街で売って旅費の足しにしよう。肉はうまそうな腹の部分だけ解体して残りは処分でいいだろう。
「・・・ふぅ。こんなものかな。これ以上は時間がかかるし。」
俺は適当に荷物をまとめて旅を再開した。
夕食が楽しみだな・・・じゅるり。




