100 影の実力者?
なぜこんなところにマリエルさんが?
それにさっきの声真似、絶対に聞かれてたよね? は、恥ずかしすぎる!!
思いもよらぬ人の急な登場に、俺の頭の中は完全に真っ白になり、思考がストップしてしまう。
「あの、大丈夫ですか?」
間抜け面でフリーズしている俺に、マリエルさんが心配そうな声で聞いてくる。
「・・・」
しかし俺は、その声をも無視して頭の再起動を試みる。それでもなお、頭はうまく働かない状態だが、先ほどよりは少しだけ冷静な思考が戻ってきたようだ。
なぜマリエルさんがここにいるのか?
ここは魔道具屋なのだから、当然魔道具でも買いに来たのだろうと考えられる。いつものお仕着せではなく外行きのお洒落な格好であることからもそれは間違いないだろう。
なのに、どうしてこれほどの違和感を感じてしまうのだろうか?
この魔道具屋とマリエルさんがいまいち結びつかないからだ。この魔道具屋に並ぶ商品は一般人が買いに来るには少々特殊過ぎる。
ではマリエルさんにおかしな点でもあるのだろうか?
「・・・」
改めてマリエルさんを見てみる。どこからどう見ても、お買い物中の素敵な大人の女性だ。実に美しいご令嬢の姿である。こんなご令嬢が一人で歩いていたら王都中のナンパ師が黙っていないだろうな・・・。
いや、ちょっと待て。そうじゃない。なんで、こんなところにそんな普通(?)の女性がお買い物に来るんだ?
このお店の入り口は結構分かりにくいはずだ。かなり奥まった場所、しかも一見してそうとは分からないようなボロ屋に隠されている。
しかも扉の先は異空間。明らかに異常な風景が広がっている場所だ。つまり、誰かに教えてもらわなければ普通はたどり着けないような特別なお店なのだ。
そんなお店に一人で訪ねてくる普通の女性なんているだろうか?
いや、そんな人はいやしない。仮に間違って迷い込んだとしてもすぐに引き返すだろう。ということはマリエルさんは普通の女性ではない?・・・いや、そうか!
「マリエルさんって、もしかしてアンヌさんとお知り合いなんですか?」
俺がようやっと脳髄の奥の奥から搾り出したこの問いに、しかしマリエルさんは実にあっさりと答えてくれる。
「あらあら。バレてしまいましたね。うふふふ! その通りです。私とアンヌは、そう、幼馴染というか、腐れ縁という間柄なのです。なので・・・」
そしてそのまま、アカウンターのそばまで歩いてきたマリエルさんは、アンヌさんの耳元でコショコショと何かをささやいた。
――次の瞬間。
「ひっ!?」
先ほどまでは実に気持ちよさそうに眠っていたアンヌさんが、短い悲鳴とともに青い顔で飛び起きた。頭を抱えてブルブルと震えるアンヌさんの姿は、我が目を疑ってしまうほど驚くべき光景である。
やっぱりウチの寮母さんは怒らせてはいけないなと、俺は心に深く刻みこんだ。
マリエルさん本当に怖いです!
アンヌさんに一体何て言ったんですか!!
まさか裏の世界を牛耳ったりしてませんよね?!