98 お説教?
こんなじじバカ(?)いや、バカじじいにガツンと言うのは難しそうなので、俺はとりあえず軽い感じで話を切り出すことにした。
「それであの、ティナのおじいさん。一つお伺いしてもいいですか?」
「ん? なんじゃ? ティナちゃんはやらんぞ?」
はぁ~。全くなにボケたことを言い出すのかなこのおじいさんは。
「いえ、聞きたいのはそういうことじゃなくて。ミカクダケの話です」
「ミカクダケ? なんじゃおぬし、回復薬でも作りたいのか?」
「いえ、そういうのではなく」
二度もあっさり否定する俺に、訝し気な視線を向けてくるおじいさん。
「ん? よもや気に入らぬ奴を毒殺・・・などと考えているわけではあるまいな?」
「全然違います!」
いきなり物騒なおじいさんだな。こんな人が毒劇物とか取り扱って本当に大丈夫なのだろうか。いつか死人が出たりしないか心配だよ・・・。
勢いよく否定する俺を不思議そうに眺めまわしながら、あご髭をしごくおじいさん。
「う~む・・・まさか!? ミカクダケを栽培する気なのかの?」
いや、なんでそうなる。ミカクダケは食用じゃないだろ? シイタケの栽培じゃないんだからそんなことして何になる。
「違います」
「ということはやはり、ティナちゃんをくど・・・」
「違います!!」
どんだけ孫娘大好きなんだこのおじいさん。いや、実際ティナは良い子だし、料理(主にお菓子)美味いし、可愛いんだけれども。ってそうじゃなくてさぁ!
「もうなんなんじゃ、はっきりせい!」
ほら、なんかおじいさんも焦れた感じで言ってくるし! 鬱陶しい!
「はぁ~~~。じゃあもうはっきり言わせてもらいますね。毒素の抽出方法とか、そんな物騒なもん孫に教えんなこのイカレじじい! テメーはバカか!!」
あっ! やべっ! つい本音が出ちゃった!
俺の言葉に、おじいさんはみるみると顔を赤くし、勢いよく怒鳴り散らしてくる。
「な、な、なんじゃとこの小僧がぁああ!! 毒薬の一つや二つ、作れたって大して問題ないじゃろう! それにこんなに可愛い孫娘がお願いしてきたのじゃ、ちょっとくらい良いところを見せたいと思うのも仕方なかろう!! それをグチグチと責め立ておって、おぬし一体何様じゃ!!!」
しかし、この意見には俺もイラッときてしまい、思わず自分でも驚くほどの勢いで声を荒げてしまう。
「っざけんなよじじい! 何かの間違いで毒薬を飲んじまったらどうすんだ!! それに毒薬が作れるなんて悪い奴らにでも知られてみろ、下手したら利用されるかもしれないんだぞっ!! テメーのせいでティナが危険な目にあったらどうすんだっ!! 学者だかなんだか知らねぇが、教えていいこととダメなことの区別もつかねぇのかよおい!!!」
「そ、それは、その・・・大丈夫かなって・・・のう?」
俺の剣幕に押されたのか、おじいさんが静かになった。
俺は構わず一気に畳みかける。
「もっとよく考えろ!」
「す、すまんかった」
「不用意に専門知識を教えないように!」
「し、しかし、可愛い孫の頼みじゃし・・・」
「教えないように!」
「わ、わかったのじゃ・・・・・ちっ」
おい。最後の舌打ち聞こえてんぞじじい。
まあなんだかんだ色々あって、ティナのおじいさんにはちょっと強めに説教してしまったわけだが、分かってくれたなら良しとしよう。俺の印象は最悪かもしれないが・・・。
いやぁ~ティナの恋人になった男はある意味かわいそうだな。あんなヤバいじいさんに挨拶させられる上に、下手したら本当に毒盛られかねないんだから。並の人間には務まらないだろうね。
などと、将来ティナを巡って死闘を繰り広げるであろう英雄に向かって、俺は心の中で合掌するのだった。
頑張れよ!