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転生騎士の英雄譚  作者: 青空
騎士予備校
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閑話 特別

お読み頂きありがとうございます!

唐突ですが、閑話が書きたくなってしまいまして……お付き合いください。

このお店に他人(ひと)を連れてきたのは、今日が初めてだった。


今までこれといった友達もいなかったし、ましてやおじいちゃんに紹介したいと思えるような特別な人はいなかったから。


幼い頃に両親を亡くした私は、騎士予備校に入るまでずっと、おじいちゃんのこのお店に住まわせてもらっていた。だからこのお店は私にとってとても大事な場所。


父の顔も母の顔も覚えていないけれど、大好きなおじいちゃんから聞いた話によれば、父は冒険者、母はおじいちゃんと同じ植物学者だったそうだ。


このお店はおじいちゃんの代から始めた薬屋で、元々は植物研究の実験でできてしまった副産物(成果?)を売りさばくために建てたものらしい。


母は最初、店番のアルバイトとしてここへやって来た娘だったのだが、それがいつの間にか植物に興味を持ち始め、おじいちゃんに弟子入りし、植物学者として活躍するようになったのだという。


ちなみに父のほうは、おじいちゃんのひとり息子だったが、植物には一切興味を示さず、むしろお店に出入りする冒険者のほうに憧れてしまったらしい。


気づいたときには剣を片手に魔物を追い回していたため、止める間もなかったのだとおじいちゃんが嘆いていた。


とはいえそのおかげで、母は植物採取の護衛として父をよく連れて行くようになり、結果、私が生まれたという話なのだから悪いことばかりではないだろう。


たとえそのせいで命を落としてしまったのだとしても・・・。


私は幼い頃から剣を振る父の姿が大好きで、しょっちゅう父の隣に張り付いてその姿を眺めたり、一緒に剣を振ったりしていた。


そんな私だったから、当然剣の腕には自信があったし、同年代の少年少女に負けるはずはないと思っていた。実際、お店に来る冒険者たちよりも私のほうが強い、なんてこともあったほどだ。



――しかし、そんな自信はあっけなく砕け散る。


騎士予備校の初日のことだ。


明らかにレベルが違うのが二人、教室に並んで入って来た。


見た目が良い(こちらもある意味レベルが違う)のはまあ置いておいて、その出で立ちは明らかに実戦経験豊富な実力者のそれだった。


特に私の隣の席に座った男の子。この男の子には絶対に敵わないと思った。


前日の交流会では見なかったので、きっと周りには一切興味がない人たちなのだろう。まあ、あれだけ強ければ、私たちなんて歯牙にもかけないわよね。


などと、当たり前のように納得してしまう自分がいた。



――ところがその日の放課後のことである。


私は一人、学校のダンスホールに居残り、社交ダンスの練習をしていた。


まさか最下位になるなんて思いもしなかったんだもの!


クラスの半分くらいは平民出身のはずなのに、どうして私だけがダメダメだったのか納得いかず、ただただ悔しくて惨めな気持ちでいっぱいだった。


すぐに追いついて、見返してやる!


私はそう誓って一心不乱に練習を続けていた。


彼と出会ったのはそんなときだった。


集中しすぎて床に飛び散った汗に気づかず滑って転びそうになった私を、涼しい表情(かお)で抱きかかえるカッコイイ男の人。


背中に添えられた硬い腕の感触が、彼がこれまで積み上げてきた努力を否応なく感じさせた。努力する天才って、きっとこういう人のことなんだと思った。


思わず見惚れてしまっていた私は、彼からの言葉で我を取り戻すと、急に込み上げてきた羞恥心に耐えきれなくなり、憎まれ口を叩きつけながら猛スピードで彼から遠ざかる。


それでも彼は怒ることも臆することもなく、真剣な表情で「一緒にダンスの練習をしてくれ」と言うので、私は断ることができなかった。


結局その日から、放課後にダンスの練習をするようになった私たち。最初は少し戸惑いもあったけれど、気が付けば毎日の練習が楽しく感じられ、成績もどんどん良くなっていった。



――そうして彼と過ごす日々。


私の中では少しづつ膨らんでいく思いがあった。


回復魔法の練習で嫌な態度をとってしまったのもそのせいだ。


素敵な彼には、きっと私みたいな傷だらけの女は似合わない、そう思ったら心がささくれ立って痛かった。だから、みっともない私を見せたくなくて隠した。


それなのに、彼が「ちっとも醜くない」って「努力している私が好きだ」って言うから。


私は涙が出そうなくらい嬉しかったけれど、同時にちょっぴり恥ずかしくもあって、結局自分でも訳の分からない憎まれ口を叩いてしまった。


私の中で彼が本当に“ 特別 ”になったのはきっとこの時だと思う。



――そして今日。


ついに彼をおじいちゃんに紹介してしまった。


これ、もう完全に()()だよね?


なんて、恥ずかしいことを一人で考えている自分にちょっぴり呆れてしまうけれど、言い合う二人を眺めるだけで、なぜだか“ 幸せ ”な心地がする。


私の中にある“ 特別 ”はまだ言う気(勇気?)がないけれど、いつか彼の隣に並べるような自分になれたならきっと・・・・。


私は未来の自分に期待を飛ばすのだった。

<ご報告>


先日、なんと初めての感想(単なるご質問なんですが)を書いて頂けました!


大変嬉しかったのでご報告させて頂きました(笑)


皆様もお気軽にコメントくださいね。


これからもよろしくお願い致します。

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