97 モンスター○○
長い沈黙を破ったのはおじいさんのほうだった。
「・・・こ、こほん! これはこれはお客人殿。よくぞ来られたの。さて、本日はどういったご用向きでいらっしゃったのじゃろうか?」
などと、実にわざとらしい咳払いとともに、鷹揚に両手を広げて堂々と問うてきたのだ。先ほどの一幕をなかったことにするつもりらしい。賢明な判断である。
正直、俺も助かるのでこれに乗っかることにした。
おじいさんに向かって姿勢を正して一礼する。
「初めまして。私はマルティナさんの友人で、ジェフリー・カーティスと申します。本日はちょっとしたお礼をしたいと思い伺いました」
しかし、どうしたことだろう。俺が自己紹介をした途端におじいさんの顔が険しくなった。俺の顔を細目で見つつ、どんどんと眉間の谷を深めていく。
「ジェフリーじゃと? その名、どこかで・・・う~む」
おじいさんは軽くあご髭をしごきながら虚空を見つめる。
――数十秒後。
やがて動きを止めたおじいさんは、血走った目を大きく見開き、
「はっ!? お~ま~え~かぁあああ!! 我が愛しの孫娘を誑かすクソ蟲はぁああああああ!!!」
物凄い形相で怒鳴り散らしてきた。
怒髪天を衝くという状態はまさにこのことかと、妙な感動を覚えてしまうほどの怒りっぷりである。ヤバい。急すぎてついていけない・・・。
しかし、おじいさんの勢いは激しさを増すばかり。
「おもてへ出ろこの蛆虫めぇえええ! わしが直々に八つ裂きにしてカラスの餌にしてくれるわぁあああ!!!」
そして俺に掴みかからんばかりのおじいさんを全力で止めるのが、彼の愛しの孫娘ティナである。
「お、おじいちゃん! やめて! 急に何を言っているの!!」
「ええい! 放すのじゃ!! こやつだけは許さぬぞ!! 毎日毎日ティナちゃんのお菓子を我がもの顔で頬張っているのじゃろう!! 『はい、あ~ん♡』などとイチャイチャしているのじゃろう!! なんてうらやま・・・破廉恥な奴なんじゃ!! わしは決して認めんぞぉおおお!!!」
「そ、そんなことしてないわよ!! あれは練習の合間の・・・そ、そう! 補給食よ! 決してそんなこ、こいび・・・とみたいなことなんてしてないわ!!」
ティナの力強い(?)説得により落ち着きを取り戻していくおじいさん。
「ほ、本当かの?」
その問いにティナは即答で応える。
「本当よ!」
据わった目で、今度は俺を見てくるおじいさん。
「・・・」
俺も即答で応える。
「本当です!」
おじいさんはあご髭をしごきながら目を閉じて俯くと、
「ふむ、そうか・・・・・・ならば許すのじゃ」
俺を許してくれたらしい。
「「ふぅ」」
いきなりの修羅場をすんでのところで回避し、胸を撫でおろした俺たちだったが、
「ただし! 我が愛しの孫娘に手を出そうものなら、決して容赦はせぬ。楽に死ねると思うなよ小僧」
ドスのきいたこの言葉に、冷や汗が再び戻ってくるのを感じた。
「「・・・」」
ティナのおじいちゃん怖すぎっ!
あれ? そういえば、俺何しに来たんだっけ?
え? この人相手にガツンと言う? いやいや、無理でしょ!!