96 ティナのおじいちゃん
ところで、ティナの話に出てきたおじいちゃんって一体何者なのだろうか。
猛毒なキノコから毒素の一部だけを抽出して利用するなんて方法を、こんな可愛い女の子(孫)に教えるおじいちゃんとか絶対ヤバくない?
俺は率直に聞いてみる。
「ねぇ。ティナのおじいちゃんって、一体何者なの?」
ティナは少し声を潜めて教えてくれた。
「・・・学者よ。植物とかに詳しいの」
ティナのおじいちゃんは植物学者らしい。なるほどなるほど。
だからキノコにも詳しいし、植物毒にも詳しいと。ふむふむ。
でもさ、ティナのおじいちゃん・・・。
孫になんてこと教えてんだよ!
毒薬の作り方とか絶対ダメだろ!!
将来、暗殺とかに利用されたらどうすんだよ!!!
これは一言、ガツンと言ってやらないとな。
「ティナ、出来ればでいいんだけど・・・そのおじいちゃんに会わせてもらったりってできるかな? ちょっと話してみたくなっただけ、なんだけど・・・」
「ん? そうね・・・別にいいけど・・・?」
「じゃ、じゃあ都合がついたら教えてもらっていいかい?」
「ええ、分かったわ」
――三日後。
ティナに連れてこられたのは、王都のはずれにある一軒家だった。
実はここの一角、冒険者がよく来る道具屋通りのすぐ裏手で、俺とザッシュも時々来る区画なのだ。
ちなみに、ミレーヌさんの魔法の師匠アンヌさんがやっている異空間の魔道具屋『トイボックス』の入り口もこの近くだったりする。
本当に国中に入り口が設置されているんだもん。あの人とんでもない魔法使いだよな・・・。
まあ、それはさておき、目の前の一軒家である。
見た目はそれほどボロではないが、日があまり当たらないせいだろう、全体的に木材が少し湿っていて、あれな雰囲気がある。
玄関扉の上に薬草っぽいマークの木札がぶら下がっていることから、一応薬屋もやっているようだ。というかそっちが本業かな?
ティナに話を聞いてみたところ、今は騎士予備校の女子寮住まいだが、それまではここにおじいちゃんと二人で住んでいたらしい。休日には時々帰ってきて店の手伝いをしているんだとか。
ティナが看板娘の店か・・・
繁盛しそうだな! 接客ができるのかは少し不安だけど!
そんな失礼(?)な想像を巡らせている間に、ティナが店に入っていく。
「ただいまー」
「お邪魔しま~あっ!?」
――俺も続いて入ろうと扉を潜ったその時であった。
「おお我が愛しの孫娘よ! よくぞ! よくぞわしのもとへ戻ってきてくれたのじゃ!!」
長く立派な白髭を蓄えた仙人みたいな細身のおじいさんが、ティナの胸に勢いよく飛び込んできたのだ。おじいさんは、そのまましなだれかかるようにティナに抱き着くと、頬をスリスリして猫なで声で甘える。
「ティナちゃんや~元気だったかの~。わしはティナちゃんがいなくて寂しかったのじゃぞ~。ほれほれ、わしを撫でてくれんか? ほれ、やさしく。やさし~くの! ほっほっほ!」
「・・・」
俺はその姿を無言で見つめることしかできなかった。あまりにも刺激が強すぎたようだ。世にも恐ろしい何かを覗いてしまった心地である。
「・・・」
やがておじいさんも俺の存在に気づいたのだろう。妙にカクカクとした動きで首をひねると、俺を無言で見つめてきた。
え~と、俺はどうしたらいいんだろう。
見ちゃいけないものを見ちゃったな。うん。
・・・・・気まずっ!!