94 救いの女神様
その日からの食事は本当に辛かった。
スープは基本、汚泥のような味。パンは噛めば噛むほど堆肥のような、くそみたいな臭いが口いっぱいに広がってしまう。唯一の救いは無味無臭の水だけ。
そんな生活が一週間続き、未だに回復の兆しが見えてこない。
おいおいどうなってんだ!
魔法薬の副作用ってこんなに辛いの?!
そろそろ限界なんですけど!!
俺はどこにも吐き出せない不満を、クッソマズい食事と一緒に水で流し込むことしかできなかった。
日に日に憔悴していく俺を心配したみんなが、色々と調べてくれたのだが、結局どれも効果はなく、ただただ俺を絶望の淵へと叩き落とすだけの結果となる。
流石に耐えきれなくなった俺は、寮母マリエルさんに事情を話し、薬を処方してくれたという魔法薬師にもう一度相談してもらうことにした。
翌日来た回答によると、
『通常は一週間ほどすれば副作用がなくなるはずなので、もう二・三日様子を見てほしい。それでも戻らないようだったら直接診察しに行く』
とのこと。
――しかし。
一刻も早く駆けつけてくれることを願っていたのに、その魔法薬師はいっこうに現れず、さらに一週間が経った。相変わらず俺の味覚は戻らない。
もうこのまま、俺の味覚は一生戻らないんだ。これからずっと、クソを貪る蛆虫のように生きていくしかないんだ・・・。
そんな最悪な想像をして心の底から打ちひしがれる俺に、救いの手を差し伸べる救世主、いや女神が現れた。
誰であろう、マルティナである。
実は彼女、俺が目覚めた日からずっとお手製のお菓子を持ってきてくれていた。
味覚がおかしくなってからは、砂を噛んでいるようにしか思えなくて、一口しか食べてあげられなかったのだが、それでもいいと言って毎日作ってきてくれたのだ。
どうやらお菓子に色々と混ぜたりして、何とか美味しく食べられないか試行錯誤しているらしい。
――そして今日。
「・・・美味しい」
あまりのうまさに固まる俺。
「ふふふ!」
そんな俺を見て、ティナは可笑しそうに、嬉しそうに笑って頷く。
きっと今まで見てきたどんな表情よりも輝いていることだろう。
しかし、俺はそれどころではなかった。たった今味わった感動が、本物であるのか、幻であるのか判断がつかなかったからだ。
それを確かめるために、恐る恐るもう一口食べてみる。
「美味しい、美味しいよ!! え? なんで? なんでこんなに美味しいの?!」
先ほどまでの恐れはどこへやら。俺は興奮した勢いのまま、ティナの手からお菓子の袋をかっさらい、次々と口に放り込んでいく。ダメだ手が止まらない!
「これも。これもこれもこれも。全部美味しい!!」
それからは黙々と、ただひたすらにお菓子を頬張った。
食べれば食べるほど熱い何かが溢れ出てくる。
「お゛い゛し゛い゛!!」
グシャグシャの自分が恥ずかしい。
俯く俺の頭上からは、ティナの笑い声と
「ふふふ! 大変だったんだから、もっと味わって食べなさいよねっ!」
という弾んだ調子の文句が聞こえてきた。