93 寮母の権限
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――目覚めたのはベッドの上だった。
見慣れた天井に落ち着く匂い。俺の部屋で間違いない。
ベッドの横には寮母のマリエルさんとクラスメイトたち。
俺はかすれた声でみんなに呼びかける。
「・・・みん・・な」
「「「!?」」」
ギリギリ届いたのだろう、俺の囁き声に、みんなが騒ぎ出す。
が、マリエルさんはそれをひと睨みして黙らせ、
「ジェフリー様。お加減は如何ですか? 可能でしたら、まずはこちらを」
俺の口元に水の入った薬瓶を近づけてくれた。
水が美味しい。カラカラだった喉は、瞬く間に潤いを取り戻していく。
「ありがとう・・ございます。助かりました」
俺は意識を完全に覚醒させると、上体を軽く起こし、背もたれに体を預ける。
「みんなもありがとう。心配してくれたんだね」
「ジェフぐ~ん!!」
真っ先に泣きついてくるクリス。そして、そんなクリスに苦笑をこぼしつつ、他の面々も声をかけてくれた。
「ご無事で良かったです。師匠!」
「心配させんなよな」
「しっかりしなさいよ。全く」
「「お前は俺が倒す!!」」
若干二名、変なのがいるけど気にしない。
「ところでマリエルさん。この状況って・・・」
「ええ。昨日の朝方、クリス様が部屋の前に倒れているジェフリー様を見つけ、私に伝えて下さったのです。私が駆け付けた時には、すでに酷い高熱で、命の危険すらありましたが・・・ご無事で本当に良かったです」
え!? 命の危険って本当に?
ということは、“あの人”の言った通りだったのか・・・本気で危なかったんだな・・・。
内心冷や汗をかく俺に、マリエルさんは申し訳なさそうな顔で続ける。
「状況が状況でしたので、誠に勝手ではございますが、知り合いの魔法薬師にお願いして特殊な魔法薬を処方して頂きました。副作用が強く、少々味覚に影響するようですので、しばらくはお辛いかもしれませんが、お許しください」
「あ、いえ。助けて頂いたのはこちらですので、文句は言いません」
なるほど。味覚が少々・・・ね。本当かな?!
助けてもらっておいて言うのもあれだけど、なんか怖いよ!
まあ、水は普通に飲めたから大丈夫そうだったけどね。
「それでは、私はこれで失礼致します。本日のお食事はお部屋にお持ち致しますので、ご安心ください」
「はい。ありがとうございます。マリエルさん」
マリエルさんは俺に軽く一礼して踵を返すと、部屋を出ていこうとする。そんなマリエルさんの背を眺めながら、ぼんやりとしていると、
「ん?」
ふと疑問が湧いてくる。今なんて言った?
「あっ! マリエルさん!」
「はい?」
「えっと、一つだけ質問が・・・この部屋にはどうやって?」
この部屋は魔力ロック式。通常、俺しか入れないはずだ。にもかかわらず、みんなが揃っているこの状況。
おまけに、先ほどの会話で、マリエルさんは食事を部屋に持ってきてくれると言った。これはおかしい。
しかし、訝しむ俺とは対照的に、マリエルさんは軽い調子で、
「うふふふ! 寮母権限です!」
さらっと答えて部屋を出ていった。
やっぱりかーーー!!