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転生騎士の英雄譚  作者: 青空
騎士予備校
100/210

92 本音

――休憩時間。


互いに剣を振り、あーだこーだと言い合った俺たちは、だいぶ打ち解けていた。


ちょうど良い機会だと、俺は前々から気になっていたことを口にする。


「そういえば、一つ気になっていたんですけど・・・」


「あん? なんだ?」


正直かなり聞きにくいことなんだけれど、どうか許してほしい。この機会を逃したら、もう聞けないかもしれないから・・・。


「あなたは “幸せ” でしたか?」


彼は苦笑をこぼしつつ、困ったように頭を掻いた。


「さあどうだろうな~」


棒読みっぽくテキトーな返事ではぐらかす彼に、俺は真剣な顔を向けて続ける。


「俺は、ある夢を見ました。まるで、自分がそこで生きていたような、そんな鮮明な夢です。きっとあれが、あなたの記憶。そうですよね?」


俺は彼の孤独や苦しみ、絶望がどれほどのものであったのかを知っている。心が死んで、それでもなお、あてもない暗闇を彷徨っていたのを知っている。あんな人生、きっと俺には耐えられない。


それなのに、


「夢で見たあなたは、最後に笑っていました。それが不思議で、ずっと気になっていたんです」


あの夢を見た日、俺は辛さだけじゃない何かを感じた。絶対に最悪な夢だったはずなのに、それほど嫌な気がしなかったのが心底不思議で仕方なかったのだ。


俺の言葉に、彼は一つ長い溜息をついた。


「そうだな。俺の人生は本当にクソだった! なんで罪もねぇ恨みもねぇ奴を殺さなきゃなんねぇ? オモテの世界で笑ってる奴の “幸せ” を、ウラの世界で死んでる俺がぶち壊さなきゃなんねぇ? わっけ分かんねぇだろ!! なあ、俺の人生ってなんなんだよっ!! 壊すことしかできねぇのかよっ!! ふざけんなよっ!!!・・・・・って、ずっとそう思ってた。でもよ」


先ほどの怒号が嘘のように、彼は静かに続ける。


「それでも俺は、一つ救うことができたんだ。たった一つだけど、この汚れきった手でさ、何かを守れたんだよ。自己満足だったかもしれない。余計なお世話だったかもしれない。でもあの時、俺は英雄(ヒーロー)になれた気がしたんだ。カッコイイ英雄(ヒーロー)にさ。だから胸張って言えんだ。“幸せだった!” ってな」


彼の言葉は、俺の胸にストンと落ちた。


そして同時に思う。なんてカッコイイ人なんだろう。


彼は間違いなく英雄だったのだ。“幸せ” だったのだ。


だから、俺が彼に返せるのはこの一言だけだった。


「俺も絶対、英雄(ヒーロー)になります!!」



――そして。


気づけば俺の体は透けてきており、辺りには光の粒が舞い踊っている。


彼は頬を掻きながら、ポツリと聞いてきた。


「あ~ところでよ・・・今、“幸せ” か?」


この答えはきっと彼にも判っているはずだ。彼は俺を内側から見守ってくれている存在。俺自身なのだから。


それでも俺は、あえて胸を張って、満面の笑顔で答えよう。


「と~っても “幸せ” ですよ!!」


薄れていく視界に中、一人の青年がぎこちなくはにかんでいるのが見えた。

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