姿を現したのは最強の思念でした
前回の投稿から、なんと4日で続きの話を投稿することができました(^^;)
時間があればプロローグから読んで頂ければ幸いです。
よろしくお願いします。
「調査が終わったようですね」
光一の足下に広がっていた模様が消えたのを確認した貴格が話しかけた。
「はい。何とか無事に終わりました」
「お疲れ様でした。できればここで少し休憩をした方が……」
やや疲れた表情で笑顔を見せる光一に声をかけていた貴格だったけれど、ハッと何かに気付いたような表情を見せた後、
「どうやら休憩させてくれなさそうですね」
苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべた。
「事件の概況を聞いた上で最悪の状況を想定してはいましたが、こんなに強い気配を……えっ!? まさかそんな……」
思ってもいませんでした、と言葉を続けようとしたのかもしれない。だけど、二宮紫帆の家へ視線を移した貴格の口から飛び出したのは、その言葉ではなく驚愕だった。
「古賀さん、どうし……えっ!? ちょ、ちょっと! はっきりと洋服を着てる姿をしてるなんてどういうことなの!?」
貴格の様子が急変したのを察した夏奈も二宮紫帆の家へ視線を移した。その瞬間、怯えたような表情をしながら驚きの声を上げた。
もちろん、夏奈と同じタイミングで視線を移した光一も、
「これは一体どういうことですか!?」
2人が目にしたものを視界に捉え驚きの声を上げた。
防犯部の3人が目にしていたのは、二宮紫帆の家の玄関に佇んでいる今まで見てきたことが無いぐらいはっきりとした姿をした思念だった。その高さはだいたい160センチぐらいでやや細身、茶色の髪の毛は肩まで伸びてはいるものの綺麗に切りそろえられていた。服装もはっきりと色味が分かり、上半身はラベンダー色と白色のボーダーカットソー、下半身は白色のチノパンで、靴を履いているというのもはっきりと分かった。ただ、その顔だけはどういうわけか真っ黒に塗りつぶされていて、それだけで不気味な存在感を放っている上に、存在自体が強烈な悪い感情の籠った威圧感を放っていた。
「こ、古賀さん。今までにこんな思念はいましたか?」
「ほとんどありません。だいたいは人の形はしているものの、全体的に真っ黒であることが多いですから」
「つまりこの威圧感といい気配といい――」
「最悪な存在だと言って過言ではありません」
そう貴格が言い切ったその時、現れた思念が一歩だけ足を踏み出した。
「くっ……」
意識はしていないはずである。なのに、防犯部3人は同じタイミングで一歩だけ後ずさりをしていた。
「おい! 光一! まさか、アレの気配に当てられていないだろうな!?」
その時、グラーシャ=ラボラスが光一に叱咤するような声を掛けた。
「えっ!?」
「あんな奴に後れを取るなと言っているのだ! お前もだ、ナベリウスの下僕!」
「えっ!? か、夏奈のこと!?」
「そうだ。ナベリ……あー、もう面倒だ。夏奈と言ったな。夏奈と光一であの思念を消去するという話だろう!」
そう言うと、グラーシャ=ラボラスは貴格の頭上にある砂時計を一瞥した。
「アンドロマリウスの下僕が時間を止めていられるのもあと僅かだ。早くケリをつけるぞ!」
グラーシャ=ラボラスに言われて砂時計をチラ見した光一は、そこで初めて半分以上の砂が下に落ちているのを認識した。
「分かりました!」
「わ、わ、分かった!」
夏奈も状況を理解したようで、その表情に見えていた怯えを無理に押し込め、決意したような表情をその顔に貼り付けた。
その時のことだった。さっきまで玄関先に立っていた思念が、突如として姿を消したのである。
「えっ!?」
「な、何で!?」
「2人とも気を――」
「お前は時間停止に集中しろ!」
「は、はい!」
「光一! 夏奈! 気を付けろ! この集団の中の誰かに影響を与えようとしている!」
貴格へ時間停止に集中するように「命令」したグラーシャ=ラボラスが警戒するように声を上げたその時、目の前で信じられないことが起き始めた。野次馬の中にいた1人の女性が、時間が止まっているにもかかわらず動き始めたのである。
「まさか……」
「そうだ。あの人間に入り込みやがった! 夏奈! あの人間を取り押さえろ!」
「分かった!」
グラーシャ=ラボラスの言葉に従った夏奈はなりふり構わない様子で、思念の影響を受けて周囲にいる人間に暴力をまき散らす1人の女性へ駆け寄って背中へ回ると、
「動かないでよ!」
と叫びながら羽交い絞めにした。ただ、思念の影響を受けた人間が馬鹿力を発揮することを、光一は思念の影響を受けた美紗に首を絞められた経験から知っている。もちろん、今回の思念についても同じようで、思念の影響を受けている女性の見た目は華奢なのにもかかわらず、羽交い絞めにしている夏奈を強く揺さぶっていた。
「もう! いい加減に!」
「光一! まずは思念を引き剥がせ!」
「はい! で、でも――」
(くそっ! こんなにいると他人を巻き込むよ!)
「何をもたついている! 引き剥がす程度なら巻き込まれた人間は死ぬことは無い!」
光一の心境を見透かしたかのようにフォローをしたグラーシャ=ラボラスは、とにかく急ぐように指示を出した。
(こうなったら仕方が無い!)
思念を引き剥がすイメージを頭の中に作り出すと、光一は右耳のピアスを右手で触れ、
「いくぞ!」
気合いを込めた一言をはっきりと口から出した。
光一の言葉に応じるように、思念の影響を受ける女性と羽交い絞めにする夏奈の足下を中心に、再び光り輝く模様が浮かび上がった。数名の報道陣や野次馬を巻き込んでいるようだったけれど、やるしかない、と光一はグラーシャ=ラボラスの言葉を信じ、そのまま続行した。
状況がはっきりと変わったのは、模様の周囲に光り輝く「GLASYA=LABOLAS」が等間隔に並んだ瞬間だった。地上に展開された模様から、空高くまではっきりと分かるぐらい眩しい光が放たれたのである。
「おとなしくしてよ! ……ん? あれ? 力が抜けてく……」
その途端、さっきまで暴れていた女性の動きを止めようと鬼の形相をしていた夏奈の表情が、拍子抜けしたものへと変わった。
「よし! よくやった!」
光一へ賛辞を送った後、グラーシャ=ラボラスは辺りを見渡し始めた。そして、
「引き剥がした思念はあそこだ!」
自分たちがいた場所からだいたい10メートルほど離れた場所に佇んでいる思念を発見し、光一たちが分かるように顎で指した。心なしか放っている威圧感が少し弱くなっているようで、さっきまではっきりと見えた服装の色が少しくすんでいるようだった。
「夏奈!」
思念が剥がれた女性をゆっくりと地面に下ろす夏奈に、グラーシャ=ラボラスが声をかけた。
「は、はい!」
返事をした夏奈は、女性を地面へ下ろすと、緊張した面持ちでグラーシャ=ラボラスの方を向いた。
「あの思念をお前が捕まえろ! 船着き場でしたように、光一がピンポイントで消し去るための準備だ!」
「はい!」
グラーシャ=ラボラスの命令に従った夏奈は、勇気を振り絞った様子で少し近付き、動き出そうとしている思念を正面から見据えた。そして、右手で右耳に着けられたピアスに触れ、
「お願い! あれを捕まえて!」
と大きな声で叫ん。すると、ユラユラと動き出した思念の足下に直径が3メートルほどの模様が現れ、その線上にバチバチという強烈な音を立てる稲妻が走り始めた。そして、模様の周囲に「NABERIUS」という文字が浮かび上がった瞬間、模様を囲む円の円周を十八等分する場所から稲妻を走らせる鎖18本が勢いよく飛び出し、光一たちにゆっくりと接近しようとする思念を縛り上げていった。
「よし! やっ……えっ!? な、何でよ!?」
思念をうまく確保したことを喜びかけた夏奈だったけれど、目の前で繰り広げられた光景に驚き、そして酷くショックを受けたような表情を顔に貼り付けた。
「やはり効率が悪いと制御しきれないか……」
夏奈と同じ光景を目にしたグラーシャ=ラボラスは、一言ポツリと呟きながら苦渋に満ちた表情を浮かべた。
「えっ!? な、何故……」
ピアスから右手を離しながら「ありがとう」と一言呟いて自分が展開した模様を消した光一も、思念を見て状況をすぐに理解し絶句した。
なんと、時折稲妻を走らせながら思念を縛り上げている鎖が、音を立てながら1本ずつ切れていっているのである。
「何で! どうして鎖が切れるの!?」
「落ち着け! 動揺してどうする! お前が動揺すると、あの鎖はますます切れていくぞ!」
確かにグラーシャ=ラボラスが言うとおり、一度に切れる鎖の本数が1本から2本へと増えていた。
「策はある! とにかく落ち着け!」
グラーシャ=ラボラスに叱咤され、夏奈は一度深呼吸をした。結果的にそれは功を奏したようで、切れる鎖の本数は1本へと戻っていたけれど、思念を縛り上げている鎖の本数は既に10本を下回っていて、全てが切れるのは時間の問題だった。
「策はあるって、これからどうするの?」
少し焦りの色が見えてはいるものの、夏奈は努めて冷静にグラーシャ=ラボラスへ尋ねた。
「前に話したが、契約している悪魔が契約者に協力している時、その代償として契約者は右耳に着けているピアスを通して悪魔に自身の生命力を渡しているわけだが、契約者と悪魔がどれだけ意思疎通できるかによって、悪魔が生命力を受け取る効率が変わってくる。お前は光一と違って、ナベリウスと完璧に意志疎通を行うことができないから、渡している生命力の、そうだな、おそらくは4割程度しかナベリウスは受け取っていない。だから、お前だけではあの思念を制御しきれないのだ」
「そ、そんな……それじゃ、どうしたら良いのよ!?」
目の前で1本ずつ切れていく稲妻が走る鎖と、それを呆然と見つめる夏奈。残りが既に5本になっていた。
「大丈夫だ。わたしを通して光一の生命力をお前に渡す!」
「えっ!? お、俺!?」
「そ、そんなことってできるの!?」
「もちろん。わたしを誰だと思っている。わたしは地獄の大総裁なのだぞ!」
傲岸不遜な態度をするグラーシャ=ラボラスに、光一は不安げな、夏奈は生まれ変わったような期待を込めた視線を送った。
手に汗握る物語を書けていれば最高ですが、いかがでしょうか?(^^;)
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なるべく早く投稿したいですが、とりあえず次の投稿は1週間後から10日後を目途に計画しております。
今後ともよろしくお願いします。




