光一君が臨む初めての捜査会議 その4
今回も何とか1週間で投稿することができました。
時間があればプロローグから読んで頂ければ幸いです。
よろしくお願いします。
会議室にいる警察官たちが向ける好奇の視線に晒されながら、貴格と光一は捜査を指揮する側の席へ案内された。そして、
「とりあえず、これに座ってください」
「ありがとうございます」
その場で今井が用意した2つのパイプ椅子それぞれに腰を下ろした。
2人が着席したのを確認すると、今井は中原に感謝の言葉を述べた。
「まず捜査一課長には、彼らの出席を了承していただきありがとうございます」
「佐賀県警で多くの実績を積み上げた古賀君が捜査会議に出席するとなれば、そこに断る理由は無い。もちろん今井課長も、古賀君の捜査への貢献を期待して参加を要請したのだろう?」
「はい。特に今回の事件は有力な情報が乏しく彼の存在が必要不可欠と判断したので、捜査への協力を依頼しました。すると、快く引き受けてもらえたどころか、こちらが把握していない情報を既に把握しているようで。その情報を提供してもらえることになりました」
「やはりそうか。さすがは古賀君だな。それでは早速だが、その情報の説明をしてもらおう」
今井から視線を外すと、中原は貴格の方を向き大きく頷いた。
「よろしくお願いします」
中原に一言返した後、貴格は小さく会釈を返した。そして、このやり取りが終わったところで、
「それでは捜査会議を再開します」
今井の号令によって捜査会議が再開した。
「こちらの2人は、本件の捜査会議へ参加するために九州管区警察局から来ていただいた古賀さんと星野さんです。特に古賀さんについては、佐賀県警で勤務していた時に数多くの実績を挙げた伝説の警察官ということで――」
捜査会議の冒頭で今井は貴格と光一を紹介した。特に「伝説の警察官」という称号を付け加えて紹介しているあたりから、今井の貴格への期待の高さが伺えた。
「伝説の警察官と呼ばれることなんてしていないんですけどね……」
「伝説の警察官」という言葉が今井の口から飛び出した直後、光一の右隣に座る貴格の口から、光一にしか聞こえないぐらいの小さな呟きが漏れ出た。その声の主の方を見てみると、口元に笑みを浮かべつつ困惑するという表現しづらい表情をしていた。
「さて、今回古賀さんに捜査会議への参加を依頼した理由は、速やかに被疑者を特定、検挙し早期に事件を解決するために、現在の捜査能力をさらに引き上げたいからであります」
会議室に集まった警察官たちを見渡しながら今井は力強く宣言した。
「その一環として、早速古賀さんに本件に関する助言を求めたところ、こちらが把握していない情報を既に把握しており、なんと今回その情報を提供してもらえるということになりました」
そう今井が言い切った瞬間、会議室に小さくないどよめきが起きた。
「どんな情報だろうか?」
「さぁな。聞いてみないと分からないな」
光一がはっきりと聞き取れた会話は、1番近くにいる警察官2人のこの会話だったけれど、見渡してみると色々なところで似たような会話がなされているようだった。
「静かにお願いします。それでは今から古賀さんに説明をしてもらいます。重要な報告になると考えられますので、聞き逃さないようにお願いします。それでは古賀さん、よろしくお願いします」
一言で会議室のどよめきを落ち着かせると、今井は貴格に小さく会釈をした後、場を委ねるようにパイプ椅子へ腰を下ろした。それとタイミングを同じくして、今度は貴格がパイプ椅子から立ち上がり、
「この捜査会議の場で発言をさせていただける機会を設けていただき、今井刑事一課長や中原捜査一課長には感謝申し上げます」
最初に中原と今井に軽く頭を下げた後、まだ事件の説明をしていないからだろうか、穏やかな笑顔を浮かべながら話し始めた。
「それではよろしくお願いします。僕は九州管区警察局防犯部調査班長の古賀と言います。彼は遂行班員の星野と言います。よろしくお願いします」
貴格が頭を下げるのに合わせて、光一も頭を下げた。
「僕は一時期佐賀県警で勤務していましたので、こうやって捜査会議に参加していると非常に懐かしいという気持ちになりました、実際にここに集まった方の中には何人か見知った方もいらっしゃいますね。ということで余談はこれぐらいにして、それでは本件に関して僕たちが持っている情報を報告させていただきます」
本題へ入る宣言をした貴格は、笑顔だった表情を険しいものへと一変させた。
「まず単刀直入にお伝えしますが、わたしたち防犯部は、二宮紫帆が二宮洋平を殺害し共犯者と共にその死体を遺棄したと考えています」
「共犯者!?」
「何だって!?」
「どういうことだ!?」
説明を始めた貴格の第一声の衝撃はとても大きかったようで、そこにいるほぼ全員が驚愕の表情を浮かべている会議室は騒然となった。
「そういう反応になるよな……」
その中でただ1人だけ、既に防犯部の考えを聞き一足先に驚いていた今井は、騒然となる警察官たちを眺めつつ苦笑しながら数回頷いていた。
「古賀君! ちょ、ちょっと待ってくれないか!」
その時、右手で「待った」というジェスチャーをしながら狼狽える中原の声が、ざわつく警察官たちの声を上書きした。
「夫が殺害された時に妻が重要参考人になるという話はよく耳にする。だから二宮紫帆が殺害したという話は信じられないというわけではない。だがな、共犯者となれば話は別だ。古賀君が根拠の無い話をしないというのは分かっているんだが、本当に共犯者がいるのか?」
「はい。もちろん、きちんとした根拠があります。それでは僕たちが本件に関わるようになった経緯をお話しします」
中原の疑問に答えた後、貴格は順を追ってその経緯を話し始めた。
「事の始まりは5月22日になります。その前日の21日に、福岡県警の大川中央署管内にある筑後川に面した船着き場で殺人未遂事件が発生しているのですが、その現場の調査を翌日の22日に依頼されたので、実際にその船着き場へと足を運びました」
「あぁ、あの日のことか」
貴格が話し始めてすぐに、今井が何かに気付いたような表情をしながら、唐突に口を開いた。
「そうです。福岡県警と佐賀県警が同じタイミングで、別々の事件の現場検証を行った日です」
「あ、失敬。話を遮ってしまって申し訳ない。続けてください」
「気にしないでください」
申し訳なさそうに縮こまる今井へのフォローを入れた後、貴格は話を再開した。
「そして、その船着き場の検証を、福岡県警の大川中央署の方や機動鑑識の方と合同で行った結果、堤防から筑後川へ下りるスロープから、殺人未遂事件と一切関係の無い奇妙な足跡を採取しました。この採取した足跡があまりにも特徴的だったので、その足跡を残した人物が何をしていたのか確認をするために、付近にあった防犯カメラの映像を現場検証後に確認したところ、21日の深夜1時半頃に、大人の人間2人が死体を持ったままスロープを下りていく場面が映って――」
「ちょっと、古賀君。まさか、その2人のうち1人は二宮紫帆か?」
「そうです。船着き場とその近くにあるコンビニに設置されていた防犯カメラそれぞれをの映像を福岡県警に検証してもらったのですが、1人は二宮紫帆であるという報告がありました」
結論を急かすように尋ねる中原に、貴格は堂々とした様子で答えた。
「そ、それは本当なのか?」
静まり返った会議室に、気が逸っている様子の中原が尋ねる声が響いた。
「間違いないと思います。その大人の人間2人は軽乗用車に乗って船着き場へと来たのですが、その軽乗用車の持ち主と、その車両を運転していた人物が二宮紫帆だったということが判明しています」
「なるほど。ということは、まさか、その共犯者も突き止めているのか!?」
「いえ。それが誰かは分かっていません。福岡県警が追いかけているとは思いますが、特定したという情報は入ってきていません」
前のめりになりながら尋ねた中原の疑問を、貴格は首を横に振りながら否定した。
「そうか……」
若干がっかりした様子の中原は、気を取り直した様子で再び尋ねた。
「最後に1つ。二宮紫帆が遺棄したのは二宮洋平で間違いないのか?」
「それは、これからお話しすることで明らかにします」
「分かった。話を遮って申し訳ない。続けてくれ」
話を遮ったことに対して詫びを入れた後、中原は貴格に話を続けるように促した。
「さっきの話の続きですが、皆さんにお話しした福岡県警からの報告だけでは、二宮紫帆が二宮洋平を殺害したということを確信することができなかったため、防犯部としても判断に苦慮しました。しかし、そこにいる防犯部のホープである星野さんの一言で状況は変わりました」
そう言い切った貴格は、光一の方を一度向いて笑顔を見せた後、話を再開した。
「皆さんのスマートフォンにもインストールされていると思いますが、『MapMapMap』という地図アプリの機能にタイムテーブルというものがあります。この機能を設定していると、スマートフォンを持っている人がどのような手段と経路でどこに移動したのか、というのを確認することができます。偶然にも二宮洋平の死体と共に本人のスマートフォンが発見されていますので、佐賀県警の情報技術解析課に二宮洋平の移動と滞在場所の解析を依頼したところ、2軒の居酒屋をはしごする前後、特に午後11時半に帰宅した後は家にいるということが判明しました。その後21日の深夜1時に自宅を出発し、その30分後に例の船着き場に到着しているということになっていますが、この位置情報は二宮洋平が遺棄されたタイミングと重なります。そして死体を遺棄している場面が防犯カメラに映っているということを合わせて考えると、二宮紫帆はおそらく自宅で二宮洋平を殺害した後、例の船着き場から共犯者と共にその死体を遺棄したと考えられるのです」
「なるほど。話の筋は通っているな……」
貴格が報告を終えると、中原は腕を組んで深く考え込みだした。今井を含めた他の警察官たちは、中原の次の言葉を待ちながら様子を見守ることしかできないようだった。
今回は古賀さんの独壇場でした。
古賀さんから情報を受け取った佐賀県警がどのような捜査をしていくのかは乞うご期待!!
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