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【第1章完結】光一くんのピアスはプライスレス【第2章執筆中】  作者: 御乙季美津
第1章 光一くんの初体験はプライスレス
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一気にやってきた2つの事件

第2章プロローグから合わせて読んで頂ければ幸いです。

よろしくお願いします。

 5分ぐらい経過して溜め息を吐きながら先に電話を切ったのは功人だった。そして、少し話し込んでいた様子の貴格が電話を切ったのはそれから間もなくのことだった。その2人が電話で話している時に度々口にする「筑後川」というキーワードを聞くたびに、光一の胸中には言い表すのが難しい焦燥感のようなものが滲んでいった。


(……さっそくだな……)


 その時、起きている時にはほとんど話しかけてこないはずのグラーシャ=ラボラスの声が光一の頭の中に響いた。


「えっ?」


 突然の声に驚いた光一。さらにグラーシャ=ラボラスが何か言ってくるかと思いきや、その言葉が続くことは無かった。


 貴格の電話が終わったのを確認した功人は一度全員を見渡し、そして話し始めた。


「わたしに掛かってきた電話は、内容を断片的にでも聞いていたから察していると思うけど、福岡県警の本部長から防犯部へ調査の依頼です。しかし、どうやら古賀君にも仕事に関する電話が来ていたみたいだから、まずはその内容を確認しよう。それでは古賀君」


 功人は貴格の方を向いて左手を差し出しながら説明を促すと、貴格は自席で起立して説明を始めた。


「電話は佐賀県警の本庄南署の刑事一課長からでした。例の筑後川で男性の変死体が発見された事件を取り扱うことになったそうなのですが、変死体の発見現場以外にも現場検証を行う場所があるようで、今日の午前9時過ぎから行うから途中からでも良いので参加してもらいたいという内容でした」

「発見現場以外? というと?」

「筑後川にかかる昇開橋だそうです」

「昇開橋? 確かに変死体が発見された筑後川にかかる橋だからその点は分かるけど……」


 功人の言うとおり昇開橋は筑後川にかかっている橋で、船の往来を邪魔しないように橋の中央部分がエレベーターのように上下に可動するという特徴がある。近年は佐賀県の観光スポットとして有名な場所になっているけれど、まさかそこで現場検証が行われるなんて、功人や貴格以外の防犯部のメンバーは全く想像だにしていなかった。


「でもどうしてその場所を?」


 理解と疑問が半々入り混じった表情を見せる功人。光一を含めたその他のメンバーも、ほとんどを理解していないような表情だった。


「それではその説明をする前に、一通りの情報をお伝えします」

 貴格は電話の内容をメモしていた紙を見ながら説明し始めた。

「まずは変死体の身元についてですが……」


 変死体の身元が昨日、つまり5月21日の早朝に「夫と連絡が取れなくなった」と佐賀県警に捜索願を出した二宮紫帆の夫である二宮洋平と判明したのは、21日の午後9時過ぎだった。変死体が発見された状況などから身元は二宮洋平ではないかと佐賀県警は推測していたものの、身元を確認できる免許証などが無く、紫帆も精神的に確認できる状態ではなかったため、当初は特定までに時間がかかると思われた。しかし、1年前に洋平の職場が空き巣の被害に遭った時に、職場関係者の関連資料として採取していた洋平の指紋が記録に残っていたため、それと照合することで身元が判明したのだった。


「そして本題である昇開橋で現場検証を行うことになった理由ですが……」


 その理由は二宮紫帆の証言が発端だった。その証言によると、二宮洋平は20日の午後6時に仕事を終えて帰宅後、午後7時過ぎに飲みに出かけ、それからショートメッセージのアプリで連絡を取っていたものの、酔い覚ましのために昇開橋に来ているから帰りはタクシーで帰る、というメッセージが午後11時過ぎに送られてきたのを最後に、音信不通になった。佐賀県警は、この二宮紫帆の証言と遺体が筑後川の川岸で発見されたことから、二宮洋平は昇開橋で事故に遭ったか、何らかの事件に巻き込まれた可能性があると推測し、昇開橋の現場検証を行う必要性があると判断したのだった。


「なるほど。確かにそういうことなら必要よね」

 貴格の説明を聞いて状況を理解した様子の彩子が呟いた。

「それに今回の現場検証はかなり重要な意味を持っているはず。現場保存については大丈夫かな?」

 彩子の言葉に補足を付け足した後、功人は貴格に尋ねた。貴格を見る視線が少し鋭くなっていたから、その質問が重要であるということは光一にも分かった。

「はい。二宮紫帆から捜索願を受理した時に昇開橋の話が出たようで、昨日の午前8時頃から管理者に説明して立入禁止にしているようです」

「よし。だいたいのことは分かった。現場検証を急遽今朝から行うことになったのも、昨日は捜索を優先していて、発見された変死体の身元が昨夜判明したからということだね?」

「概ねそのとおりです」

 功人の言葉に貴格が同意した。

「ここから高速道路を使っても10時過ぎの到着になるけれど、それでも途中からでいいから参加してくれって、古賀君は未だに頼りにされているね」

 硬い表情を緩めて笑顔で話す功人。この言葉には理由がある。


 貴格が警察官として一歩を踏み出したのは佐賀県警だった。その数年後に福岡県警に出向し防犯部へ引き抜かれることになるけれど、佐賀県警に在籍していた短い期間の間に、貴格の一言が多くの事件を解決に導いたのである。そのため、防犯部へ入った後も重要事件の現場検証の時に佐賀県警から呼ばれているのである。


「頼りにされているなんて、そんなことはないですよ」

 功人の言葉に謙遜して偉そうに出しゃばらないのが貴格の良いところである。

「そこまで謙遜しなくても良いと思うよ。とりあえず説明ありがとう」

 功人がその言葉と共に左手で座るように促すと、貴格は軽く頭を下げて席に着いた。


「それでは福岡県警の本部長からの要請について説明するよ」


 湯飲みに入ったお茶を一口飲むと、功人は福岡県警の本部長から要請された調査について説明を始めた。

「まずは大まかな事件概要について……」


 昨日5月21日の昼過ぎに、筑後川に面した小さな船着き場で、被疑者である男女2人が漁師仲間と思われる男性1人の両腕と両足を掴んで筑後川に投げ込むという殺人未遂事件が発生した。被害者はすぐに救出されて一命を取り留め、被疑者の男女2人は、助け出された被害者の通報によって駆けつけた警察官に殺人未遂の容疑で現行犯逮捕された。被疑者が現行犯で逮捕されているということもあってすんなりと事件解決かと思いきや、そうは問屋が卸さなかった。

「それはどういうことですか?」

 功人の話をすぐに理解できなかった光一が手を挙げて尋ねた。

「たぶん2人の被疑者が思念の影響を受けている可能性が出てきたということじゃないかしら」

 考え込んでいる様子の彩子が光一を向いて答えると、

「そう。春日君の言うとおり」

 功人が力強く頷いた。


 男性の被疑者を取り調べた刑事によると、被疑者は次のような供述をしているとのことだった。


「3人で漁に出るためにあの船着き場に行ったんだ。それであそこに足を踏み入れた瞬間から、川の中からあいつが助けを呼んでるのに気付くまで、ぽっかりと穴が開いてるように全く記憶が無いんだよ。それで、2人で慌ててあいつを助けたんだけど、何で突き落としたんだよ、ってあいつが怒って警察を呼んでさ。刑事さん。俺とあいつは漁の仲間だし、恨みとかも全く無いし、それに川に突き落とすなんて危ないことだから絶対にしないよ。なのにこうやって逮捕されて俺が一番混乱してるんだよ。なぁ、信じてくれよ!」

 これと似たような供述を女性の被疑者もしているようで、被疑者2人を取り調べたそれぞれの刑事は、始めのうちは2人の供述が虚偽ではないかと考えていた。だけど被害者を突き落とした時の記憶が無いことや、被害者に対する殺意が無いことを話す2人の目が、これまで見てきた多くの犯罪者と違って嘘を言っているようには見えず、3人の関係性からも2人が自ら被害者を突き落とすのは考えにくい、と思ったというのである。そのためこの報告を受けた福岡県警の本部長が、2人の被疑者が犯行に至った経緯をあらゆる視点から調べる必要性がある、と判断したため防犯部に調査の要請をしてきたのである。


「なんか、見事に防犯部案件のような気がするんだけど」

 功人の話を聞きつつ取ったであろうメモを見ながら夏奈が呟いた。


「夏奈ちゃんの言うとおり、わたしたち向きよね」

 彩子が夏奈に同意すると、貴格や冬美も軽く頷いた。


「わたしもそう思う」

 功人も同調した。

「この件では被疑者2人の身柄が拘束されているから、早めに結果を報告する必要性があるんだけど、古賀君が受けた佐賀県警の現場検証の話も、この先の展開を考えると無下にしてはいけないと思う。さて、どうするか」

 そう言うと、功人は右手を顎に当てて何やら考え始めた。


「一言よろしいですか?」

 ここで彩子が手を挙げた。

「福岡県警の本部長が要請してきた現場は筑後川に面した船着き場ということですが、それはどこになるのでしょうか?」

「それについては福岡県警がファックスで地図を……おっ、来たようだね」

 彩子の質問に功人が答えている最中に、事務所にあったファックスから起動音が聞こえ、そして紙への印刷が始まった。


 印刷されたファックス用紙は合計で3枚。それを一番近い席にいる冬美が手に取って功人に渡すと、メンバー全員が功人の席の周りに集合した。


「地図はっと、これだこれだ」

 3枚のファックス用紙を1枚ずつ確認していた功人は、地図が掛かれた紙を手に取ると自分の机の上に置いた。その地図には、事件の発生場所示す矢印と「ココ」という文字が大きく書かれてあった。

「調査の要請があった船着き場はここか。それで昇開橋は……」

「ここです。地図に『筑後川昇開橋』と書いてあります」

 貴格が指差したのは、筑後川の2本の流れが合流したその先の1点で、そこには確かに「筑後川昇開橋」という文字が書かれていた。


「この地図上の縮尺は1センチメートルが……200メートルぐらいか。ということは、そこから昇開橋までの距離は3センチメートル弱だから、だいたい700メートルぐらいか。意外と近いな。さてどうするか。佐賀県警の検証は昇開橋全体になるだろうから時間がかるだろうし……」

 そう言うと功人は腕を組んで少し考えると、

「よし!」

 一度大きく頷いてから作戦を告げた。


「まず古賀君には船着き場に行ってもらって、思念の有無とその強さについて調査を頼む。もし、思念がいたとして、それが2人の被疑者に影響を与えるぐらい強ければ、その段階で調査を中止してわたしに即報するように。その後は船着き場から離れて、昇開橋の検証に合流するということでどうだろう」

「了解しました。もし船着き場の思念が強い場合、どのように対処をする予定ですか?」

「おそらく殺人未遂事件の現場検証は昨日のうちに終わっているはずだけど、しばらくは立入禁止になっていると思う。だから、その期間を延長するように福岡県警に要請するよ。仮に思念がいたとなれば過去の事件の洗い出しが必要になるし、もしかしたら再検証が必要になるだろうからね」

「分かりました。それではそのように動きます」


 功人と貴格の作戦会議はこれで終了し、それぞれが折り返しの電話を掛け始めた。


「……今が9時過ぎぐらいで高速道路を使って行かせますので、船着き場に到着するのは10時過ぎぐらいになると思います……はい、よろしくお願いします。それでは失礼します」

 功人は福岡県警の本部長へ。

「……はい、昇開橋には10時半過ぎぐらいに到着すると思います……はい、その時に現状の報告をお願いします。はい、それではまた後程」

 貴格は佐賀県警の本庄南署の刑事一課長へ。

 そして、ほとんど同じタイミングで2人は電話を切った。

また2週間を目途に次の話を投稿できるように頑張ります。

これからもよろしくお願いします。

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