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【第2章完結】光一くんのピアスはプライスレス【第3章執筆中】  作者: 御乙季美津
第1章 光一くんの初体験はプライスレス
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秘めた想いは光一君に伝わりましたよ、美紗さん!

今回は義妹にキスをされた翌日の光一君の話になります。

時間があればプロローグから読んで頂ければ幸いです。

よろしくお願いします。

 5月23日。

 午前7時15分過ぎ。


「光一! いつまで寝てるの!」


 怒声と共に光一の部屋の扉を開けたのは母親だった。


「ん? あ? 母さん?」

「母さん? じゃないわよ。もう7時15分よ。バスの時間は35分でしょ。遅刻するわよ!」

「えっ!? そ、そうなの!?」

 この言葉と共に光一は飛び起きた。


 寝ぼけている社会人の意識を一気に覚醒させることができる平日限定の無詠唱魔法。それは「時の宣告」である。それは光一にも効果覿面で、寝ぼけていた光一の意識は母親が唱えた「時の宣告」によって一気に覚醒した。


「そうよ。早く支度しなさい。朝御飯を食べる時間は無いだろうから、こっちで片付けておくわ」

「ありがとう。あ! えっと、そ、それで、み、美紗や紗英は?」

「2人ともとっくに学校に行ったわよ」

「そ、そう。そうなんだ」


 昨夜のことが頭にチラついて離れない光一は、美紗が既に登校したことを知るとホッとした表情を浮かべた。


「どうしたの? 何かいつもと様子が違うように見えるけど、体調悪いの?」

「あ、ううん。大丈夫。支度したら仕事に行くよ」

「そう。なら良いけど。全く寝坊なんてもう社会人なんだから……」


 少し呆れた様子で小言を呟きながら母親は部屋を出ていった。自分の様子がいつもと違うというところまでは察知されたけれど、それ以上のことを悟られずに済んだ光一はホッと胸を撫でおろしていた。


 出勤の準備を終えて家を飛び出した光一がバス停に到着したのは、時刻表ギリギリの7時34分だった。

「はぁ……はぁ……危なかった……」

 道中ずっと小走りを続けたことが功を奏したようで、いつものバスに乗ることができた光一が防犯部の事務所に到着したのは、ほぼいつもと変わらない7時55分頃だった。朝御飯を食べていないというマイナスポイントはあったものの、どうにかこうにか光一は寝坊したことを帳消しにすることができたのだった。ちなみに食べることができなかった朝御飯問題は、下りたバス停と事務所の間にあるコンビニで調達することによって解決済となった。


 防犯部職員1人ずつに渡されている鍵で10階建ての雑居ビルの最上階にある事務所のドアを開け、

「おはようございます」

 誰もいない事務所に挨拶をしながら入った光一は、鞄とコンビニの買い物袋を自分の椅子に置いた後、任されている新人の仕事を始めた。ちなみに、朝御飯は新人の仕事を終えた後に食べるつもりである。


「はぁ……どうしたらいいんだろう……」


 台拭きで各人の机を拭く最初の仕事を始めてすぐに、光一の頭は昨夜のことで一杯となった。


「何で美紗は……あ、あんな、あんなことを、し、したんだろう……」


 そのせいで光一の固有スキルが発動してしまい、台拭きの速度も発話の滑らかさも落ちてしまった。


「そ、その、あ、あれって、き、き、キス、だったんだよな……」


 自分の寝たふりを寝ているものだと信じ込んだ美紗がしてきた突然の口付けと、

「わたしはね、誰よりも兄さんのことが好きなんだよ?」

「兄さんは、いつもはカッコいいけど、寝ている時は可愛い顔をしてるんだよね」

 その前に言ってきた光一に対する美紗の思い。そのことを思い出して顔から火が吹き出しそうになるのを、台拭きをすることでなんとか抑え込みながら、どうしていきなりそういう行動をしたり言ったりしてくるようになったのかを光一は考え始めた。


「今までもからかってくることはあったけど俺を……す、好きとか言うことは無かったよな」


 去年の12月24日に福岡タワーで発生した殺人未遂事件のニュースを見ていた時のことや、それ以外の時に自分をからかってきたことを光一は思い出した。ただ、その時に自分への好意を露にするということを美紗はしていなかったと光一は記憶していた。


「えっと、福岡タワーで思念に巻き込まれた時はどうだったかな……」


 台拭きをする手を止めて虚空へ視線を向けながら、福岡タワー前の広場で美紗が思念の影響を受けた日のことを思い出してみると、

「そういえば、あの日は俺の手を取ることが多かったな……」

 海を見に行こうとした時や帰ろうとした時に、美紗が自分の手を握ってきたことを光一は思い出した。


「そうか!」


 そのおかげで、光一は1つの可能性を導き出すことができた。


「もしかしたら、あの福岡タワーの思念の影響がまだ残っているのかもしれない。となればこれは一大事だよ。どうしよう。えっと、そ、そ、相談……するの? いや、き、き、キスしたことは置いといて、相談した方が良いかもしれない。古賀さんに相談してみるか」


 美紗が未だに思念の影響を受けているかもしれない。そう結論付けた光一は、美紗にキスされたことを悟られないように気を付けながら、貴格に相談することを決めたのだった。


 それから新人の仕事を急ピッチで終えた光一が、自席でゆっくりしながらコンビニで買ったツナマヨおにぎりを食べていると、


「おはようございます」


 昨日と同じ白いブラウスと黒色のパンツスーツを着た冬美が出勤してきた。自席で起立した光一は挨拶を返そうとしたけれど、頬張ったツナマヨおにぎりが邪魔をしたせいで礼を返すことしかできなかった。


「朝御飯ですか?」

 事務所の入り口から自席へと移動する冬美が尋ねた。マナー違反にならないよう、口の中のツナマヨおにぎりを飲み込んでから、

「そうです。今朝、寝坊して朝御飯を食べ損ねてしまって……」

 と光一が返事をした瞬間、冬美の表情が一気に厳しいものになった。


「社会人なのですから寝坊をしてはいけません」

「そ、そうですよね。母親にも社会人なのだからと注意されました。気を付けます」

 冬美の表情に気圧されながら光一は反省の弁を述べた。


「しかしですね……」


 ここで冬美は厳しかった表情を緩めた。


「寝坊をしたとしても、誰よりも早く来て新人の仕事を果たしていることは素晴らしいことだと思います。あとですね……」


 冬美は右手の人差し指を立てて話を続けた。


「社会人として朝御飯は大切です。光一さんは実家から通勤していたと記憶していますが用意されているなら、コンビニの御飯よりも自宅で用意されたものを食べる方が良いと自分は考えます。朝の仕事は自分に連絡をしてもらえれば代わりにしますので、遅刻はいけませんが、なるべく自宅で朝御飯を食べることをお勧めします」

「分かりました。ありがとうございます」


 厳しいところはあるけれど、その中にも優しさを見せる冬美に、光一は感謝の気持ちを伝えながら頭を下げた。


 それからしばらくして8時15分を過ぎたところで、男性1人と女性2人の、


「おはようございます」

 という声が事務所の入り口から聞こえた。


「おはようございます」

 既に出勤していた冬美と同じタイミングで挨拶を返した光一が入り口を見ると、そこには貴格を先頭に彩子と夏奈が笑顔で立っていた。


 先頭に立つ貴格は、白色に黒色のピンストライプが入ったカッターシャツに黒色のスーツを着こなしていた。その後ろに立つ彩子と夏奈はそれぞれ、白色のカットソーにカーキ色のパンツスーツという服装と、ピンク色のブラウスに黒色のタイトスカートにジャケットという服装をしていた。


「光一さん、今日はもしかして寝坊したのですか?」


 自席に移動しながら貴格が光一に尋ねた。


「あはは……よく分かりましたね」

「机の上にコンビニの袋が置いてありますからね。途中で買ったのかなと思いまして」

「大正解です」


 貴格の洞察力を光一は苦笑しながら称賛した。


「寝坊をするなんて珍しいわね。何かあったの?」


 事務所の入り口から光一の席の後ろを通り自席へ鞄を置いた彩子が尋ねた。


「え、あ、いえ。ちょっと眠れなくて」

「そうなの? 昨日、色々と大変だったみたいだから疲れて眠れないということは無いと思ったんだけど、興奮して眠れなかったのかしら?」

「彩子さん。もしかしたら別のことで興奮していたのかもしれませんよ?」

「は、はぁ!? な、な、何を言っているんですか!?」


 昨夜美紗に口付けされたことを見抜かれた、と思った光一は顔を赤くしながら、意地悪な表情を浮かべている夏奈にいつもよりも強めに反応してみせた。


「じょ、冗談だよ、冗談。ごめんごめん」


 その様子に驚いた夏奈は、苦笑しながら平謝りをするのだった。


 時刻が8時20分を過ぎた辺りで、

「おはよう」

 事務所に出勤してきたのは、青色のカッターシャツにグレーのスーツを着た功人だった。

「おはようございます」

 部下5人の挨拶が、事務所に気持ちよく響いた。


 時刻が8時30分になり功人主導のミーティングが終わると、各人はそれぞれの仕事を始めた。ちなみに、昨日の船着き場の調査で判明した死体遺棄事件について、大川中央署や福岡県警からの連絡はまだ無いため、光一は別の仕事をすることとなった。しかし、光一の脳内は美紗のことを貴格へ相談するということで一杯だったため、仕事に集中できなかったのは言うまでもないことだった。

感想やブックマークをしていただければとても励みになります。

次の投稿は明日の午後11時を考えています。

今後ともよろしくお願いします。

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