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【第1章完結】光一くんのピアスはプライスレス【第2章執筆中】  作者: 御乙季美津
第1章 光一くんの初体験はプライスレス
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悪魔と光一君は仲が良いというお話です

今回は主人公の光一君と悪魔たちとのやり取りの話になります。

時間があればプロローグから読んで頂ければ幸いです。

よろしくお願いします。

「またいきなりだよ……ん? あれ?」


 夢の世界で突然話しかけてきたグラーシャ=ラボラスとナベリウスに文句を言いながら目を開けた光一は、


「天神じゃない。海だ……」


 抜けるような青空の下、絶えず波が打ち寄せる砂浜に自分が立っていることに気付いた。


「ここは……」


 自分がいる場所を探るために、目の前に広がる海から自分の左側に視線を動かしてみると、海の上に瀟洒な建物が建ち並んでいるのが見えた。そして、そこから砂浜を突っ切って陸地へ続く道に沿って視線を動かすと、レストランが入る白い建物が数棟並んだ広場と、そのさらに奥に全面ガラス張りの福岡タワーが見えた。これだけの情報を手にすることができた光一にとって、自分がどこにいるのか理解するのは容易なことだった。


「てことは、ここは百道浜か」

「ももちはま? それは何だ?」


 誰もいなかったはずの正面から聞こえたグラーシャ=ラボラスの声。そちらへと視線を移すと、そこには背中に大きな翼を持ったゴールデンレトリーバーのような見た目の悪魔「グラーシャ=ラボラス」と、それと同じぐらいの大きさで頭に派手な王冠を戴くカラスのような見た目の悪魔「ナベリウス」がいつの間にか姿を現していて、可愛さアピールをするかのように首を同じ方に傾げていた。


「百道浜というのは現実世界でのここの地名です」

「そうか。まぁ、そんなことはどうでも良いとして……」

「えぇ……」

 せっかく親切に答えてあげたはずの光一の言葉は、グラーシャ=ラボラスによって一瞬にして無かったことにされてしまった。


(興味無いなら聞かないでよ)


「何だ。何か文句でもあるのか?」

「いえ。特に何もありません!」


 心の中が読まれてる、と焦った光一だったけれど、グラーシャ=ラボラスの放つ威圧感がそこまで強くないことに一安心しながら適当に誤魔化した。


「グラタン。そんな言い方しなくても良いと思うよ。たまには別の場所を用意してやるか、なんて言ってさ、僕にどこが良いのか尋ねてきたじゃない」

「は!? な、何だそれは。わたしはそんなお洒落なことを尋ねてはいないぞ!」


 光一の目の前で悪魔どうしの口論が始まった。ちなみに、グラーシャ=ラボラスは「グラタン」と呼ばれることをすっかり受け入れているようだった。


「またまたー。そんなに誤魔化さなくても良いのに。それにさ、そんな態度……えーっと何だっけ。あれ、ツンデレ? いや、違うな……まぁいいや。そんな態度をしてもウケないって」

「わたしはそんなのを望んでいない! 迷惑だ!」

「え!? てことはその態度はもしかして天然?」

「天然でもないわ!」

「あら、拗ねちゃった」


 怒ってそっぽを向くグラーシャ=ラボラスと、それを見ながら右の翼で頬を掻くナベリウス。


「あのー、すみません」


 その特異的な空間に割り込むように光一が話しかけた。


「何だ?」

「どうしたの?」

「もし用が無いのなら寝かせてください。今日は色々と疲れているので熟睡したいのですが……」

「そう焦るな。すぐに用件は終わる」


 そっぽを向いていたグラーシャ=ラボラスが、気を取り直した様子で光一に答えた。


「とりあえずだ、あの場所で2つの思念を消したことといい、あの女のフォローを色々としたことといい、今日は本当に良く頑張ったな。光一の主として誇りに思うぞ」

「そうそう! 夏奈を助けてほしいという僕のお願いを果たしてくれて本当にありがとう」


 光一の目の前で何回も頷くグラーシャ=ラボラスと、深々と頭を下げるナベリウス。唐突過ぎる称賛と感謝の言葉に、

「あ、い、いえ。それはどうも。えっと、もしかして用件は……」

 光一は少し呆けた表情で尋ねた。


「用件はこれだ。お前に感謝の言葉を伝えようと思って来た」

「え? そ、それだけですか?」

「それだけとは何だ? わたしとナベリウスが称賛しているのだぞ? もっと喜べ!」

「喜べって言われても……えっと……わー、嬉しいなー」

「……馬鹿にしているのか?」


 光一の様子にグラーシャ=ラボラスは不満げな表情をして見せた。


「馬鹿にはしていないですが、熟睡したいという時に突然呼び出された用件がそれだったので、なんかこう……」

「ふん! つまらん! 分かった。そこまでして眠りたいのならもうおしまいだ! ナベリウス、閉じるぞ!」


 再びそっぽを向いたグラーシャ=ラボラスは、あっという間に姿を消してしまった。


「また拗ねちゃった。いきなり呼び出しておいて、ごめんね」

 グラーシャ=ラボラスが消えた後に、申し訳なさそうに口を開いたナベリウスに、

「あ、いえ。何が大丈夫かは分かりませんが大丈夫です」

 苦笑しながら光一はフォローを入れた。


「たださ、グラタンの気持ちを酌んでやってほしいと僕は思うんだ。グラタンはさ、今日の君の活躍を見てとても感動していたんだよ。だから、それをどうしても伝えたくて君を呼び出したんだ」

「そうなんですか? でもそこまで感動されるようなことをしましたっけ?」


 虚空に視線を向けながら、光一は今日のことを思い出していた。


「十分したよ。グラタンの力を借りたとはいえ、いきなり現れた思念2つを簡単に消してしまったし、僕のパートナーである夏奈がダメージを受けそうになった時に、フォローしたり壁になったりしてくれたでしょ。十分感動するような内容だよ」

「そうなんですね。そこまで言われるとは思ってなくて」


 光一からすると、思念を消した時も夏奈のフォローをした時も、それぞれを片付けることに必死になっていたわけで、自分がしていることの価値の大小を推し量ることは全く眼中に無かった。だから、グラーシャ=ラボラスやナベリウスから称賛されることは、全くの想定外だったのである。


「悪魔にも人間と同じで色々なタイプがいるんだけど、僕やグラタンのように自分と契約した人間が活躍することを楽しみにしている悪魔もいるんだよ。ただ、どういうわけかグラタンは厳しい評価をすることが多くて、今回みたいに称賛することは珍しいことなんだ。だから、これからグラタンが褒める時は素直に受け取ってもらえないかな?」

「わ、分かりました。で、できるだけ善処します」


 褒められることに慣れていない光一だから、ナベリウスの話を聞いて嬉しさがあったのと同時に、こそばゆさを全身で感じていた。


「ありがとう」

 話を終えると、ナベリウスは自分の王冠を右の翼で掴んで一礼した後、

「いやー、グラタンと付き合うのは大変でしょ。グラタン自身が素直じゃないからさ」

 苦笑しながら話を続けた。


「まぁ、大変というかなんというか。とどのつまりは慣れのような気が……」

「確かにそうとも言えるね。だけど、君がグラタンの契約者で本当に良かったよ。あ、そうだ。そんな君に僕から感謝の印を送るよ」


 そう言うと、ナベリウスは嘴を使って自分の左の翼から黒い羽根を1本だけピックアップすると、それを光一に渡した。


「本来、悪魔と人間の契約は1対1だから、夏奈がグラタンの力を使ったり、逆に君が僕の力を使うことはできないんだ。だけど、こうやって物質的なものを渡すことができれば、イメージの力を使うことで僕の力を君が使うことができるようになるんだよ。例えば君がグラタンの力を使っている時に、他に手段が必要になった時には是非使ってほしい。イメージすることができれば、すぐに君の左手に現れるはずだから」

「あ、ありがとうございます」


 礼を言いながらナベリウスに深く礼をした瞬間、渡された黒い羽根は一瞬にして消えてしまった。


「必要になったらイメージだからね。イメージ」

「はい。分かりました」

「よし、感謝の言葉を伝えたし、お礼の品も渡すことができた。それじゃ僕も去るよ。今日はありがとう。おやすみなさい」


 そう言うと、ナベリウスは再び右の翼で王冠をヒョイと掴んで礼をした後、グラーシャ=ラボラスと同じように消えていった。そして、ナベリウスが消えたと同時に、光一の意識は暗闇へと落ちていった。

感想やブックマーク、評価をしていただければとても励みになります。

次の投稿はできれば2、3日以内を目指して計画しております。

今後ともよろしくお願いします。

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