やっと役者が揃いましたよ!
プロットの練り直しや構成の見直しをした結果、前回から19日も経っていました。
『現実社会+ファンタジー+推理=大変』という方程式が成り立ちそうです。
時間があればプロローグから読んで頂ければ幸いです。
よろしくお願いします。
貴格が昇開橋へ向かって20分ぐらいが経過した時のことだった。
「と、ところで、これからここの検証をするんですよね」
「うん。そうだよ。どうして?」
「え、えっと、一つ気になることがあって……」
ふと疑問に思ったことを、光一はやや緊張しながら夏奈に尋ねた。
「気になること?」
「もしですね、お、俺がもう一度調査をすれば、他にも何か分かるのかなって」
「あぁ、そういうことか……えっとね、言いにくいんだけど、それはもう無理なんだ」
そう言うと夏奈は苦笑して見せた。
「何でかって言うと、防犯部が調べていることはさ、例えば犯罪現場に犯人の思念が残っているのか、とか、今回みたいに犯罪の記憶が無いって言ってる犯人が思念の影響を受けていたのか、とかっていうことはもう光一君は知ってるよね?」
夏奈の問いかけに光一は無言で頷いた。
「ということはだよ。思念がいないと防犯部の調査はできないっていうことで、つまり……えっと……」
ここで夏奈は一度言い淀んだけれど、意を決したかのように話を続けた。
「光一君が思念を消しちゃったから、これ以上の調査はできないんだ!」
「えっ!? あ、そ、そういうことか……もう調査はできないのか……」
「で、でもでも、さっきのは仕方がないことだと夏奈は思うよ! だってさ、光一君が調査をすると思念が出てくるなんて古賀さんも部長も知らなかったし、あそこで消さなかったら、夏奈とか古賀さんが思念の影響を受けてたかもしれないじゃん。だから、今回のことは不可抗力だよ、不可抗力! だからさ、部長に言われたけれど、頑張ってこの事件の真相を掴もうよ! 夏奈は光一君と一緒に事件を解決したいもん!」
いつもよりも三割増しの早口でフォローをする夏奈に、光一は救われた気分だった。
いくら、光一の調査によって思念が出てくる可能性があることを誰も知らなかったとはいえ、ここにいた思念を消して情報を得ることができなくなった事実を夏奈に告げられた光一は負い目を感じざるを得なかった。だけど、自分がそれをやってしまったことを承知の上で、一緒に前を向いて進もうとしてくれる夏奈のその優しさがとても嬉しかったからである。
「そ、そうですね。頑張りましょう!」
本来であればドギマギするはずのやる気に満ちた夏奈の笑顔だけど、それ以上に感じる頼もしさに光一はいつもの笑顔を見せた。
それからしばらくして時計の針が11時30分を過ぎた時のことだった。
「あの車は……さっき遠藤さんがここを離れた時に乗って行ったやつかな?」
こちらへ向かって走ってくる、藍色のセダンタイプの乗用車1台がいることに光一は気付いた。
「えっ、どこ? あっ、あの車……うん、確かにそうだったかも……」
光一の視線の先を探しその乗用車の存在に気付いた夏奈は、その瞬間、表情に不安と緊張を混ぜ合わせ始めた。
「まだ30分前なのに来るのが早いですね。やはり、早めに来て事前準備とかをするためでしょうか」
「そ、そうなんじゃないかな……」
さっきまでは光一を励ますために笑顔を見せてくれていた夏奈だったけれど、今は口数が減り、その表情には緊張感を滲ませていた。
光一と夏奈が見守る視線の先で、さっきと同じ場所に駐車した乗用車から現れたのは、ついさっき防犯部のメンバーと一緒に現場の確認をした遠藤と、遠藤と同じぐらいの身長のスーツ姿の男性が1人と、遠藤よりも小柄で小太りの頻繁にハンカチで汗を拭うスーツ姿の男性が1人の合計3名だった。
(もしかしたら山中っていう人と、後藤っていう人かな)
乗用車から降りた3人は、そのまま光一と夏奈が待つ船着き場へ向かって歩き出した。そして、歩き出してからしばらくしたところで遠藤が2人の男性に一言二言話しかけると、その2人の男性は、光一と夏奈に向かって笑顔で会釈をした。
(悪意は……無さそうだな……)
2人に合わせて会釈を返した後に夏奈の方を見ると、ちょうど会釈を返し終わろうとしていた。その表情に僅かにでも柔らかさが戻りつつあるように見えたことで、光一は幾分か緊張を緩めることができた。
「星野さんと朝倉さんでしたよね? 先程はどうも」
光一と夏奈がいる船着き場の入り口に差し掛かった時に、3人を代表するかのように遠藤が話しかけてきた。
「……」
そこで一瞬の間が空いた。
(知らない男性が2人もいるからな……夏奈さんが相手をするのは難しいかな……)
言葉を返す余裕が夏奈に無いことを雰囲気から察知した光一は、やや緊張した面持ちで自ら対応を買って出ることにした。
「あ、い、いえ。こちらこそ、先程は色々と教えていただいて助かりました」
「そういえば、古賀さんとい男性の方がもう1人いましたよね?」
「えっと、今ちょうど別の現場に行っています。ただ、そっちの現場の方は早く切り上げてここの検証に参加するということなので、もう間もなく戻ると思います。ところで、その後ろの方々は、もしかして山中さんと後藤さんですか?」
「そうです」
そう言うと、遠藤は光一と夏奈に2人を紹介し始めた。
「こっちの身長の高い方が山中部長で、こっちの小柄なほうが後藤部長です。さっきお話ししたとおり、2人は例の殺人未遂事件でそれぞれの被疑者の取り調べを行っています」
「初めまして。遠藤部長と同じ大川中央署の刑事一課に所属している山中鉄也です。よろしくお願いします」
「どうもどうも。同じく大川中央署の刑事一課の後藤純一です。よろしく」
2人はそれぞれの顔写真入りの身分証を見せながら光一と夏奈に自己紹介をした。それによると2人の階級はそれぞれ巡査部長で、
(名字の後に部長と付けて呼ぶのは巡査部長特有の呼び方なのかな)
と、光一は2人の自己紹介を聞きながら、遠藤が2人を呼ぶ時に「部長」と付けている理由を推測していた。
山中は、遠藤と同じように身長が170センチを超えていそうなぐらい身長が高く、遠藤よりもがっしりとした体つきをしていた。服装は上下黒のスーツに白色のカッターシャツで、雰囲気や自己紹介からとても真面目そうな印象を受けた。
それに対して、山野と同じぐらいの身長で小太りの後藤は、上下紺のスーツに白色のカッターシャツを着ていて、フランクな自己紹介と、ハンカチで汗を度々拭う仕草が印象的だった。
「は、初めまして。九州管区警察局の防犯部に所属している星野といいます」
「あ、え、えっと、は、初めまして。こ、この人と同じ防犯部に所属している、あ、あしゃ、朝倉、か、夏奈といいます」
割とすんなり自己紹介をすることができた光一と違って、夏奈はガチガチに緊張していた。その様子を見ていた山中と後藤は、
「よろしくお願いします」
緊張気味の夏奈について余計な口出しをせずに笑顔で言葉を返した。
それから間もなくして、佐賀県警の現場検証に向かった防犯部のSUVが戻り、さっきと同じ場所に駐車した。その運転席から降りてきた貴格は駆け足で光一たちがいる場所へやって来ると、
「戻るのが遅くなってすみません」
「気にしないでください。大丈夫です」
「夏奈も気にしませんよ」
まず光一と夏奈に一言謝罪をした後、
「もう来られていたんですね。先程はありがとうございました」
と遠藤に頭を下げた。
「しかし、そういえば遠藤巡査部長は当直明けですよね? それが分かっていたので敢えて名前を出さなかったのですが……どうしてここへ?」
遠藤に謝辞を伝えた後、貴格は「あれ?」と言いたげな表情で尋ねた。
「それがですね……な?」
「ははは。そうだな」
「あれは無いわ」
苦笑交じりの表情を見せる遠藤が、山中と後藤を振り返って同意を求めるように問いかけると、山中は苦笑し、後藤は呆れた様子を見せた。その様子を見ていた遠藤は、貴格の方を向きなおすと、参りました、と言いたげな表情で話し始めた。
「実は、本部長から刑事一課長に電話があって、山中部長と後藤部長がここへ来る準備をしている時に、山野係長が『また奴らか? 本部長を使って好き勝手しやがって。俺が説教してやる』なんて言い出してしまったんですよ。それを刑事一課長が宥めて『そういえば遠藤部長がさっき一緒に行ってたよな? 任せるよ』とわたしに一任してしまい、ここに来ることになりました」
「そんなことがあったんですか。当直明けで疲れている時に付き合わせる形になってしまってすみません」
「気にしないでください。さっきも話しましたけれど、山野係長にスイッチが入ることはよくありますし、わたしたちは山野係長の部下なので、こういうことには慣れていますから大丈夫です」
恐縮する貴格へ遠藤は、気にしていない、という表情でフォローをして見せた。
「そういえば、星野さんから話を聞いたのですが、別の現場に行かれていたとか?」
今度は遠藤が話を切り出した。
「そうです。佐賀県警から、ある事件の検証に協力してほしいと依頼されたので、さっきまで行っていました。お待たせしてすみません」
「いえいえ。警察で働いていると色々なことがありますからね。お疲れ様です」
お互いに気遣いをし合う貴格と遠藤を見て、光一は安心感を覚えていた。共同で検証を行う上で、お互いに協力し合える関係は大切であり、またさっきの夏奈のたどたどしい自己紹介に何も言わなかった山中と後藤の2人なら、完全にとは言えなくても夏奈が緊張を和らげた状態で仕事ができると思ったからだった。
「それで、もしかして、こちらの方々が山中さんと後藤さんですか?」
遠藤と一緒にいる見知らぬ2人について貴格が尋ねた。
「そうです。身長の高い方が山中部長で小柄な方が後藤部長です」
「初めまして。遠藤部長と同じ大川中央署の刑事一課に所属している山中鉄也です。よろしくお願いします」
「お初にお目にかかります。遠藤部長と山中部長の同僚の後藤純一です。よろしく」
「初めまして。九州管区警察局の防犯部に所属している古賀といいます。よろしくお願いします」
初対面の3人が、お互いに身分証を見せながらペコペコと頭を下げる様子が、とても微笑ましかった。
時計の針が11時50分を過ぎた辺りで、船着き場へ向かってくる2台の白色バンに全員が気付いた。
「1台目は署の鑑識ですが、2台目は……ちょっと待ってください。あれは本部の機動鑑識ですよね!? すみませんが今日は一体どのような鑑識作業をする予定ですか? さっきお話ししたように、本部長から刑事一課長に、ここの鑑識作業を管区警察局の人とすることになったから大川中央署から山中部長と後藤部長と鑑識係員2名を派遣してくれ、という連絡があって来たのですが、実はわたしたちはほとんど何も知らされていないんですよ」
機動鑑識が来たことに驚いた表情を見せながら遠藤が尋ねた。
「実はですね、防犯に関する研究の一環として、遠藤巡査部長がここの現場から立ち去った後に、この船着き場の状態についてもう少し調査をしてみたのですが、どうやら殺人未遂事件とはまた別の事件の痕跡があるようなのです」
「えっ!?」
「それは一体!?」
「どういうことですか!?」
貴格の言葉に3人は驚きを隠せないようだった。
「あの縁石にその痕跡がありました」
そう言うと、自動車の衝突痕が見つかった縁石に近付き、その場所を指差した。
「ここに塗膜片が付いた自動車の衝突痕があるのですが、これは先日の殺人未遂事件の時には確認されましたか?」
貴格に尋ねられた大川中央署の3人は、貴格が指差した場所へ順番に顔を近付けて塗膜片や衝突痕を確認すると、揃ってその表情を険しいものに変えた。
「いや、気付かなかったですね。確か、山中部長と後藤部長もあの事件の時に来てたよな? 気付いた?」
「いや、全く」
「俺も気付かなかったな。殺人未遂事件の時に来たんだけどな」
3人の反応を確認した貴格は、何かを確信したような表情を見せた後に話を再開した。
「この衝突痕や塗膜片はまだ真新しいので、何かあったのではないかと推測してはいましたが、皆さんの反応を見て確信しました。この衝突痕の状態から、自動車はそれなりの強さで衝突したと推測しています。しかし、皆さんがご存じないということは、ここに自動車をぶつけた人は警察に届けていないということになりますね。ということは、その時に自動車を運転していた人は、何かしら良からぬことをしていた可能性があります」
この貴格の説明を聞いた大川中央署の3人は、口々に「なるほど」と言いながら頷いた。
「あと、遠藤巡査部長の話を聞いた限りでは、川に下りるスロープの部分の足痕跡は採取していないとのことなので、今日はその部分の足痕跡を採取してもらいたいと思います。もしかしたら、何か痕跡が残っているかもしれません」
「分かりました」
貴格の指示に、遠藤を含めた3人は力強く頷いた。
それから間もなくして、お揃いの濃紺の作業服を着た上にマスクと帽子とシューズカバーを装着した鑑識係4名が現場に到着した。
「福岡県警鑑識課機動鑑識の松尾と光武です」
「大川中央署刑事一課鑑識係の浜田と古川です」
松尾はそのメンバーの中では唯一の女性で、身長は150センチぐらいと小柄だった。他の3名はいずれも男性で、浜田は遠藤と同じような体形で、古川と光武は山野よりも少し身長があるぐらいだった。
「今日はよろしくお願いします。それでは12時10分。検証を開始します」
貴格の指示で検証が始まった。
次こそ1週間後に次の話を投稿できるように頑張ります。
次もよろしくお願いします。




