短編 異世界転移物語
「ふぅ・・やっと終わった」
水曜日、22時30分。
俺はよろけるような足取りで会社を出た。
毎週水曜日はノー残業デーなのだが、俺だけにはそのルールが適用されない。
定時を過ぎた辺りで明日までの仕事が舞い込んで来て、やっぱりいつも通りの時間になってしまった。
今日は久しぶりに昔のRPGでもやろうかと思っていただけにがっかり度は倍増だ。
よろよろと横断歩道を歩いていると急に周囲が明るくなった。
トラックのライトが近づいてきていたのだ。
ドン!
という音と共に俺は意識を失い、気がついたら真っ白な空間にいた。
「こんにちは、佐藤さん。信じられないかもしれないけど、あなたは死んでしまったの。でもね、佐藤さんって今までいいことなかったでしょ?私ちゃんと見てたのよ。まずは幼稚園の時に・・・」
髪の長い女性が出てきてそんなことをしゃべり始めた。
死んだはずなのに何でこんなことになっているのか不思議だったが、この女性の話はやたらと長い上にまとまりがなく、結局何が言いたいのかさっぱり不明で、俺はだんだん眠くなってきた。
俺が何度目かの長いまばたきから目を開けると、女性がやっと結論らしいことを言った。
「・・・という訳で、あなたには別の世界に行ってもらおうと思うの。」
「わかった。で、俺はどうすればいいんだ?」
「何もしなくていいの。ただ、向こうには困ってる人たちがいるから助けてあげてね。じゃあ、頑張って!」
女性が手をヒラヒラと動かすと、体が持ち上げられているような、それでいて落ちていくような不思議な感覚が陥った。
体内時計で数十秒続いたそれがようやく収まると、俺は暗い場所にいた。
手を動かすことも足を動かすことも出来ない。
目はかろうじて開いて動かせるが何かが押し付けられているようで、開けると目の中にゴミが入ってくる。
周囲に空気がなく、徐々に呼吸が苦しくなってきた。
そのとき、無機質な低い声が俺の耳に聞こえてきた。
『岩の中にいる』