02
あの日、お店周辺を見回ったが桜の姿がなかったため、百合はお昼休みが終わりそうなこともあり先に会社に戻った。
社内メールで桜に「ハンカチの人は見つかった?」とメールしたが返信はない。忙しいのかなと思い個人携帯にもメールしたが、こちらも返信なし。
さすがに不審に思って桜の所属部署に顔を出してみるとそこにも桜の姿はない。
「桜せんぱいですか?あー、午前中はいましたけどねー。急な会議か出張かも。うちの部長、桜せんぱいに色々頼むので急な外出も多いんですよねー」
桜の部署にいる後輩は、桜が不在なことを不審がってはいなかった。確かに桜はよく外出や出張がある。
それでも百合は胸騒ぎが収まらなかった。
次の日も、その次の日も桜の姿を見ることはなく、連絡がくることもなかった。
実は本当に出張で、そのうちひょっこり顔を出すのかもと思い直し、百合はとりあえずいつも通り仕事をしていた。
ピコン
新規メール受信の通知がなり、桜かも?!と慌てて確認すると、桜の所属部署の後輩からだった。
「なんだ…桜じゃなかったか」
期待していた人からではないことを知り、落胆しながらカチッとメールを開いた百合は本文を読み進めながら眉をひそめた。
「お疲れ様でーす。桜せんぱいの件ですが、今日部長宛てに休暇申請があったそうでーす。急遽実家に帰ることになったんだとか。桜せんぱいがお休みになっちゃってうちの部署はてんてこ舞いですよぉー」
その後も桜がいなくて大変だという愚痴が延々と書かれていたが、百合の目は「実家」の二文字から動かなかった。
以前桜から身内に関する話を聞いたことがあった。
桜は幼い頃から祖母と二人暮らし。両親の記憶はないが、祖母が優しくときに厳しく育ててくれたので気にしたことがないと言っていた。
そんな祖母も、桜が高校卒業と同時に施設に入り、その年の冬に体調を崩して亡くなった。その際の葬儀には百合も参列したためよく覚えている。桜には祖母以外に身内はいなかった。
そう、桜には実家がないのだ。
桜が実家に帰るとメールしてくるなんておかしい。絶対に何かあったんだ。
桜の身に何かあったと確信した百合は、後輩に「メールありがとう。仕事頑張って」と返信し、桜を探そうと決意した。
それから1週間、アパートや行きそうな場所を巡ってみたが、桜の痕跡はどこにもなかった。