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初めての投稿です。
よろしければ読んでみてください!
カランッ
注文したアイスティーの氷の音で、百合は読んでいた本の世界から現実に引き戻された。
顔を上げると、開放的なカフェのガラス窓の向こうで忙しそうに歩く人々の中に、小走りでこちらに向かってくる親友の桜の姿があった。
腰までの長さの栗色でウェーブのかかった髪を揺らし、相変わらずのスタイルの良さを持つ桜はいつも人の視線を集めていた。実際今もすれ違う異性の何人かは桜に引き寄せられ振り返っていた。
「ごめんね、遅くなっちゃった」
「お疲れ様。今日も忙しいみたいだね」
桜が席に着くとすぐに注文していたランチが運ばれてきた。会社に近いこのお店は2人の行きつけで、毎回同じメニューを頼むため今日も先に注文しておいたのだ。
「部長が打ち合わせで席外してたものだから、その皺寄せをうけたのよ」
「頼られるのは相変わらずだね」
「嬉しいけど自分の仕事が進まないのが困りものね」
サラダを口に運びながら桜のちょっとした愚痴を聞くのはいつものこと。
同じ会社で働く百合と桜は、高校からの親友同士だ。
活発で美しく、責任感と行動力のある桜はいつもみんなの視線を集めていた。学校中で桜を知らない人などいなかったくらいだ。
そんな桜と対照的な百合は、目立たずひっそりと学校生活を送る目立たない生徒だった。
腰まであるストレートの黒髪、眼鏡をかけ、制服のスカートは校則通りの膝丈。時間があれば図書館で本を読み、クラスメイトからも忘れられるような存在だった。
最初の出会いはもう覚えてない。ただ気づいたら自然と2人でいるようになったのだ。全生徒の注目を集める桜だったが、なぜがいつも百合の隣にいた。
一度、なぜ私なのか?と聞いたことがあったけど、そのとき桜は「百合の隣が1番安らげるのよ」とくすぐったそうに笑っていた。
百合も桜から元気をもらっていた。いつも前向きで積極的な桜の姿を見るとこちらまで元気になるのだ。
高校で出会い、大学も一緒、そしてなんと就職先まで同じ。試しに受けてみようと桜に誘われて試験を受けたらまさかの2人とも合格で、桜と2人で「これは運命かもね」なんて笑ったものだ。配属部署こそ違うが今でも2人は親友同士である。
「やっぱり百合と会うと癒されるわ〜。午後からも仕事頑張れそう」
「そう?ならいいけど…あれ、ハンカチが落ちてる」
桜の次に会計を済ませようとしたとき、足元にハンカチが落ちていることに気がついた。拾ってみると、ハンカチは肌に吸い付くような滑らかさで、細かな刺繍が施してあるとても上質なものだった。
「わ〜!素敵なハンカチ。あ、あたしの前に会計してた人が落としたのかも。まだ外にいるかな?」
ちょっと見てくると言って桜はハンカチを手にお店を出て行く。すぐに行動に移すところが桜らしいなと思い、百合も会計を済ませてお店を出た。
お店を出てすぐに桜の姿が見えるかと思いきや、誰の視線も集める彼女の姿はない。
「あれ、桜…?」
あたりを見回して見るがどこにも見当たらない。
この日から、桜は忽然と姿を消した。