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王の処刑人  作者: 高月怜
王の処刑人と野バラの姫
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23.狂う歯車

“綺麗………”


夕暮れが近づく図書館に金色の光が差し込む。窓から差し込む光に目を奪われていたココノアをとある声が現実に引き戻す。


「これは一体何がどうなっているんだ?」


その問いかけにココノアは目の前に座るリオンを見つめた。今朝、学園を駆け巡った噂について物言いたげな表情をしていたリオンを連れて来たのは学園の図書館の一角だ。


もちろん、人払いはしっかりした上で。リオンの問いかけにココノアはいつもの様にふわりと笑う。


「何もこうにも………そのままですわ。王子様」


“問題はありませんわ”と言外に漂わせればリオンが眉を潜めた。


「どういう事だ?」


その問いかけに今度はココノアは意識的に口元を緩めた。


「ですから、何も問題がないのです。王子様」


その返しにリオンは眉間に皺を寄せながらもココノアの言葉の真意を探るように唸った後、ため息を吐く。


「あの令嬢は兄上の恋人ではなかったか?お前もここで一緒にみただろう。」


とりつく島もない返答にリオンは眉間を揉みながら直球を投げる。この場でその二人が抱きあっているのを見たのは記憶に新しい。その上まだ数ヶ月と短い付き合いだが、リオンはココノアの正体を知っている。


虫も殺したことがないような顔をしていながらもその実は王家を守る為に様々な闇に手を染める“王の処刑人”だ。


「それなのに、お前はこの状況を問題ないと言うんだな」


それを踏まえて問いかけるも目の前に座る少女は穏やかに微笑んで見せる。


「何の問題もありませんわ」


その問いかけにココノアが力強く頷くのにリオンはお手上げだと言わんばかりにため息を吐く。きっと自分では予想もつかないことを知っている彼女が隠すと決めたことを知ることは出来ないだろう。


「すまないが、どういう事だ?分かるように説明してくれ」


素直にそう告げれば目の前の少女が頭を下げた。


「畏まりました」


意味が分からないと肩を竦める相手にココノアは軽く頭を下げると感情を殺した瞳をリオンに向けた。


「繰り返しになりますが………何も問題がないのです。我々は第1王子であるレオン様が婚約者以外の人間と深い関係になっていることは問題だと思っております。ですが、今回の騒動は第1王子の側近であるアルフ・ユドル様が男爵の娘が恋に落ちた。ただそれだけになりますゆえに王家には何ら問題はございません」


そう強調して繰り返すとこちらを探るように見てくるリオンにココノアは穏やかに微笑む。リオンの戸惑いは分からなくもない。だが、王の処刑人として考えれば今回の騒動は王家には何ら問題はないことなのだ。


ーそう………王家には問題はないー


そう繰り返してココノアは何でもないようにリオンに微笑みかける。


「確かに、彼らの騒動には我々も驚いてはおります。ですが、彼らの恋はただ身分違いの恋が噂になっているにすぎませんわ」


自身も一瞬では理解出来なかった部分を繰り返してやるとようやくリオンが合点がいったのか目を瞬く。それを見て、視線をリオンからココノアが視線を逸らすのと同時に声がかかる。声に従って視線を向けるとリオンの横で護衛として立っていたヨーゼルがまっすぐに自分を見つめてくる。


「………たかだか、王家の人間ではない方々が身分違いの恋をしたところで何ら問題はないと貴女は考えていると捉えて問題ないのですね?」


ヨーゼルの確認するような問いかけにズキリと胸に走る痛みを覚えながらもココノアは“ええ”と微笑みながら頷く。


「ヨーゼル様の言う通りですわ」


「………そうですか」


その言葉にヨーゼルが目を伏せる傍らで、リオンも“確かに”と嘆息する。


「まぁ、王家のスキャンダルではないのは確かだな」


「はい。なので私達はこのまま静観の姿勢を取らせて頂きたいと考えています」


リオンの言葉にそう頭を下げながらもココノアは膝の上に置いた手を握りしめた。こんな時は自分の力のなさが悔しくなる。言い終えて顔を上げる時にはいつもと変わらずにココノアは微笑む。


「ですから、我々は何も致しません」


そうきっぱりと告げる相手に普段にはない頑なさを感じたリオンは目を瞬く。


「王家に害がないのだから、クロエ嬢が関わらないといけない理由はないから構わないが………」


そう戸惑い気味に問いかければココノアが普段よりも更に明るい表情を見せるのにリオンは違和感も覚えるも………。


「でしたら安心して我らはこの先の件に関して手を引かせて頂きます」


そう告げながら頭を下げるココノアをリオンは引き止めることはしなかった。




そして………


「そんな………まさか…」


エリメールの告げる予想外の言葉に驚きのあまり固まったリリアは目を何度も瞬かせた後。


「あり得ないわ」


彼が自分を好きなのだと考えたことなど、一度たりともなかったリリアは動揺に目を忙しなく動かす。その反応を見ていたエリメールは嘆息する。


「まぁ、いきなり言われてもそういう反応よね」


自分から言った事だが、全く意識していなかった相手からの好意を他人から告げられても困るだろう。そう考えたエリメールはカップを手に取り、冷めた紅茶を喉に流し込むとリリアに恋した公爵令息を思う。一国の王子という地位を持つ相手よりも彼は確かに責任は少ない。しかし、彼もまた貴族だ。


「本当にままならないものね……」


そこまで考えて漏れたのはため息だ。自分は貴族の令嬢として、何不自由ない生活を送って来た。暖かいベッドに温かい食事。その全てがリリアと出会うまで当たり前のものだと受け入れていた。


けれども………


平民の人にとって過ぎた生活だと知った今。自分には果たすべき役目があるのを分かっている。自分は幸運にも好きになれる人と結ばれる予定ではあるが、自分よりも高位の貴族の子息である彼が目の前の親友と一緒になれる可能性は低い。


「身分って誰の為のものなのかしら………」


そう呟いたエリメールの言葉は誰にも届かない。もう、自分だけの王子様に憧れたあの頃の自分はいない。“好き”という気持ちだけで結ばれるという夢物語を見れるほど、エリメールは幼い子供でもなかった。

いつもお読み頂きましてありがとうございます。

誤字脱字がありましたら申し訳ありません。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

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