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王の処刑人  作者: 高月怜
王の処刑人と野バラの姫
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22.一体、どういう事かしら………

「リリア、一体どういう事なの?」


針の筵のような1日を過ごし、リリアを連れて屋敷に戻ったエリメールは部屋に着くなり、そう切り出した。課題を一緒にするという名目すらない。その率直な言葉にリリアもまた朝よりかは冷えた頭で肩を竦めてみせる。


「エリメール、期待に添えなくて残念だけど私にもさっぱりなの」


その真意を見透かすようにじっと相手を見つめた後、エリメールは椅子に背を預けて嘆息する。


「そうよね………。あれだけあの方の事を隠し通せていた貴女のことだもの。今さら噂になるような事なんてしないわよね」


リリアを問い詰めるつもりでいたエリメールが疲れたようにそう呟いた所で侍女が二人にお茶の入ったカップを差し出す。


「どうぞ」


「いつもありがとうごさいます」


「いえ」


椅子に疲れた表情で凭れかかったエリメールと同じように自分にもお茶を出してくれる侍女にお礼を言ってから、リリアはカップを持ち上げて口に運ぶ。ふんわりとした柔らかな香りが自家では口にした事のない高級な茶葉だと教えてくれる。リリアが二口、三口と渇いた喉を潤している間にようやく思案の海へ旅立っていたエリメールがようやく戻ってくる。


「で、話は戻るけど………貴女には噂の元は全く分からないの?」


温かいお茶に朝から感じていた緊張が解れていくのを感じていたリリアはエリメールの問いかけに視線を戻すとゆっくりと頷く。


「ええ。誰が噂しているのかは全くわからないけど。一応、原因じゃないかと思うものは分かってはいるつもりよ」


朝は全く意味が分からなかったが、1日何故こんなにも騒ぎになっているのかと考えたリリアにはあれではないかと思い至ったのだ。そう自分が応えると優雅にお茶を飲んでいたエリメールが目を瞬く。


「そうなの?」


「ええ」


その言葉にリリアはため息を吐きながらカップをソーサーに戻し、向かいの席に座る友に向かって淡々と口を開く。


「……実は…昨日、なぜかアルフ・ユドル様に物陰に引き込まれたの」


“ガシャン”


「どういう事!」


リリアの言葉に目を見開いたエリメールが音を立ててカップをソーサーに戻すと同時に身を乗り出す。


「え?そ、それはどういう事?どういう事なの?リリア」


あまりにも予想外の発言に口をパクパクさせたエリメールはそう繰り返した後、表情を一変させて 沈痛な表情で机に腕をつくと頭を抱えてしまう。


「どういう事なのよ………リリア」


恨めしげなエリメールの反応にリリアは達観したような表情で頷く。


「そうよね、そういう反応が正しいわよね………」


「リリア、自己簡潔しないで」


自分の反応に嘆息したリリアが他人事のように呟くのにエリメールはため息を吐きながら丸めていた体を起こして向き直る。


「とりあえず、リリア。私にも分かるように説明してちょうだい」


そんな友の言葉にリリアも素直に頷いて先を続ける。


「ええ、もちろんよ。エリメール。エリメールにはあの方との付き合いをアルフ様に反対されているという話をした事はあったかしら?」


「この前の話の流れからはなんとなくは察しているわ…」


その確認に親友の衝撃発言から立ち直って来ていたエリメールはその言葉に深く頷く。友の何とも言えないような表情に苦笑しながらもリリアは嘆息する。


「本当の本当に昨日までユドル様とは本当に何もなかったのよ。あえて言えば、あの方と会う度に難しい表情をされていたぐらいで」


彼の代わりに図書館に足を運んで来ては繰り返し自分に“あの方は来ないから諦めろ”と言ってきた。その時の光景を思いだしながらリリアは寂しげに笑う。いつも窓際に立つ彼の表情は窓から差し込む光の影にあり、分かりにくかった。ただいつも顔を歪めていたぐらい。


「もちろん………私も元々、あの方と将来的に一緒になることは出来ないと分かってはいた。だから、いずれ離れなくちゃとはずっと考えていたの」


彼に恋はしたけれども、リリアは彼と結婚出来るとは露とも考えていなかった。


「分かっていたの………学園を卒業すればいずれは終わる関係だとも」


自嘲気味に笑いながらリリアはまだ渇いてまもない傷口に刃を突き立てる。


「だって相手は一国の王太子。いっかいの男爵の娘が彼と一緒の世界で生きていけるはずなんてないもの」


「リリア………」


あまりに辛そうな自分を見かねてエリメールが声をかけるも、気遣いに首を振り、リリアは更に言葉を重ねていく。


「だから彼とはいずれは別れる時期が来ていたとは思うんだけど、ユドル様はいつも難しい顔で私に彼と別れろと言ってきた。“身の程を弁えろ”と言いたかったのだとは思うのね」


そう………そこまでなら何らおかしいことではない。


「リリア、あのね」


「なぁに?」


エリメールが渋面を作って唸るのにリリアは彼女が自分と同じような疑問を持つに至ったのだと安心する。疑問を確かめるようにひとしきり唸っていたエリメールはため息を吐くとリリアを真っ正面から見つめる。


「ごめんなさい……ユドル様は一体何がしたいの?」


「私もそう思う」


エリメールの結論にリリアも激しく頷く。だって、彼と出会ってから彼はずっと渋面を作ってリリアに笑いかけたことなどなかった。


だから………


「私が泣いてないか心配だったという理由で会いに来るような人とは思えなくて」


リリアが昨日、アルフから告げられた言葉をぼやくように呟く。するとエリメールは一瞬、狐につまされたような顔で“そうね”と嘆息すると鈍い親友に口を開く。


「あら、それだと彼はまるで貴女に恋をしているようじゃない。リリア」


「え?」


エリメールの言葉に“本当に困るわ”と明後日の方向を見ながら呟いていたリリアは親友に目を戻す。親友が驚いた顔をしているのにエリメールは思わず、ニヤリと笑ってしまう。


「彼は貴女が好きなのかもしれないわ」


その言葉にリリアは驚いた表情でエリメールを凝視することしか出来なかった。

いつもお読み頂きましてありがとうごさいます。誤字脱字がありましたら申し訳ありません。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

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