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王の処刑人  作者: 高月怜
王の処刑人と野バラの姫
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20.君を想うこの気持ち

こんなにも他人の事が気になって、それ以外を考えることが出来ないなんて初めてだった。1日中、彼女がどうしているのかばかりを考えては自分に苦笑した。


「きゃっ!」


放課後に図書館に行くためにこの道を通る相手を見かけて衝動のままに突然伸ばした手で引き寄せれば彼女が悲鳴を上げた。その当たり前の姿にアルフは自分の行動に動揺した。


「驚かせてすまない………ただ……君に会いたくて」


女性からしたら怖いであろう行為を彼女に会いたいという欲望に駆られて起こした自分に動揺しながらもアルフは謝罪を口にする。いきなり伸ばした手で校舎の死角に連れ込んだことをそう謝罪すれば声で誰だか分かったのかリリアの抵抗する力が弱まる。


「えっ……?」


驚きに満ちた表情で振り返る姿にアルフは再度、頭を下げる。


「すまない……驚かせて」


抵抗を止めたリリアの二の腕を掴んでいた手を離し、アルフは目を伏せる。


“なんて言うべきだろうか………”


彼女の事が心配になってずっと接触することを今日1日考えて過ごしてはいたが、何を言うかを考えてはいなかったアルフは今になって自分の行動を振り返る。


“これではただの不埒者じゃないか………”


彼女に会いたいから通る道で待ち伏せして、普通に声をかければ良かったのに考える前に引き寄せた。彼女が嫌がる行為をこれ以上する気はないが、一歩間違えれば犯罪だ。改めてどう謝罪するべきかと悩むアルフと同じようにリリアもはっきりと認識した相手が初恋の相手の側近だという事実に目を瞬かせる。


“一体、何事かしら?”


いきなり物陰に連れ込まれて驚いたがリリアは自分を連れ込んだ相手がアルフだったことに二重に驚いた。そのため、マジマジとアルフを見つめてしまう。だが、何回瞬きをしてもそこにいるのはアルフだ。自分を見つめて何か言いたげに口を動かしては視線を落とす相手にリリアは暫く考えてみた後合点がいったように微笑んだ。


「ああ………お聞きになられたのですね」


そう呟けば、目を伏せていたアルフが弾かれたように顔を上げて複雑そうな顔で頷く。


「ああ。本人から直接」


「そうですか」


アルフの肯定にリリアはまだ癒えない傷に今にも泣きたくなる気持ちを笑顔に隠しながらも微笑む。


「安心して下さい。誰にも言いませんから」


昨日、自分は初恋の相手に別れを告げた。その際に抱きしめられて、すがり付きたい気持ちを無理やり押し込めた。レオンから離れるために図書館を後にしたリリアは学園の裏庭まで行って1人感情のままに泣きわめいた。だから、まだ彼を好きだった気持ちはあっても未練はない。今朝、泣き腫らした瞳で現れた自分にエリメールが心配した表情で話しかけてきたが“大丈夫”だと笑った。


「素敵な思い出です。誰にも口外はしません」


それはリリアの嘘偽りのない言葉。別れを切り出した件を口外されたくないのだと結論づけてそう口にすればアルフが驚きに見開いた目をして弾かれたように顔をあげる。その表情は今までリリアが見てきた表情とは全く違った。


「いや、そうではないんだ!」


リリアの言葉をアルフは首を振って否定する。


「そうじゃなくて………」


自分の否定に目を瞬かせるリリアにその先の言葉を紡ごうと必死に頭を働かせながらアルフは唇を噛みしめて拳を握る。


そして、口をゆっくりと開く。


「アイツに聞いて。ただ、君が心配で……」


それは本当に唐突だった。


「ああ、お前が気にしていたあの女から別れを告げられた」


「は?」


昨日は放課後、少し用事があるからと別行動をとったレオンが婚約者とは別の女と逢瀬を楽しんでいるのは予想済み。婚約者と勉強する予定が入っていたのですぐに帰ってくるだろうと好きなようにさせたレオンから迎えの馬車に乗った途端の言葉にアルフは眉を寄せた。そんなアルフにレオンはニヤリと笑う。


「リリアとかいったか………1度も私に身体を許さなかったあの女だ」


その言葉に反応したらからかわれると普段のつきあいからアルフは普段の態度を崩さなかった。


「良かったじゃないか。あと腐れなく分かれてくれたみたいで」


そう言いながらもアルフが1番に気になったのはリリアの事。レオンには冷めた表情で良かったなと告げたが、それとは裏腹にずっとリリアの笑顔が脳裏に焼き付いて離れなかったのだ。


「君が泣いていないだろうか………君が1人で苦しんでいないかが気になった。それを確かめにきた」


そう言葉を絞り出せば、リリアは驚いたように目を瞬いた後にいつものように優しく微笑んだ。


「ありがとうございます。アルフ様」


主であるレオンに別れを告げろといつも言って来たアルフらしい気遣いにリリアはただただ優しく微笑む。


「私は大丈夫ですよ。ご心配ありがとうございました」


そう言葉にしたリリアは自分の声が震えてしまうのをなんとか堪える。そうしてなんとか笑うも顔が歪むのは止められない。そのまま顔を伏せてしまうリリアにアルフは思いのままに抱き寄せて慰めたい気持ちを必死に抑える。


「………大丈夫じゃない時は大丈夫だと言わなくていい」


必死に普通を装うとする姿にアルフはそう言葉を紡ぐ。その言葉にリリアは伏せていた顔をあげた。


「アイツの気持ちは知らないが君がアイツを大事に思っていてくれた気持ちは嘘じゃないと私は思っている」


今までにも多くの女性がレオンと関係を持った。その中で唯一彼女だけだったのだ。


「見返りなくアイツを大事に思っていると言った君を」


真っ直ぐに自分を見つめながら告げるアルフにリリアは目を見開くと今にも泣き出しそうな顔で口を開く。


「ありがとうございます。アルフ様」


その言葉にアルフは緩く首を振って、優しく微笑んだ。


「ではそろそろ失礼致します」


「ああ」


リリアが自分の言葉にぎこちなく笑いながら頭を下げるのにアルフは応じながらも残念に思う自分を必死に抑えながら言葉を紡ぐ。


「もし、これ以上アイツが貴女と分かれるのを渋るようならまた相談させてくれ」


「はい。ではこれで失礼させて頂きます」


レオンをネタに“また”と告げるとリリアが静かに頭を下げて身を翻す。その後ろ姿を見送りながらアルフはため息を吐く。


“ぎゅっ”


握った拳が自分の気持ちを如実に示す。リリアの姿が見えなくなっていくのを見届けてからその場を立ち去ったアルフは気づいていなかった。


2人が立ち去って充分な時間が経った後、微かに草が揺らめいたことを。

いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。


少しでも楽しんで頂ければ幸いです

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