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王の処刑人  作者: 高月怜
王の処刑人と野バラの姫
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19.恋は人を時に馬鹿にする

「ふふふ」


「朝から気持ち悪いぞ。クロエ」


昨日の衝撃的な出来事から一夜明け………朝からひたすらに幸せそうに笑う少女を気味悪げに眺めたリオンはそうコメントする。普段ならそんなリオンのコメントに対して突っかかるココノアだが今日は不問にする。


「何を仰るんですか?私はいつも通りですよ。王子」


「全然、いつも通りではないな。何か悪い物でも食べたのか?」


「悪いものなんて食べてる訳ないじゃないですか。失礼ですね」


嫌みを投げつけられても今の自分には些末な事。機嫌よく笑いながらココノアはリオンにどこか心あらずの表情で笑い続ける。図書館の誰も来ない場所で向かいあって座り、密会を開始していたリオンはココノアの背後に立つ少女に視線を移す。


「何があったんだ?」


リオンの問いにサリアは軽く頭を下げると“ふふふ”と一人夢見心地のココノアに視線を移すと嘆息する。


「お嬢様は昨夜、婚約者から1ヶ月先の演劇に誘われてからずっとこの調子なんです。昨夜は寝るまでずっと着ていく服を決めるのに必死なんです」


昨夜、キースにチケットを用意されたと自分に報告してきた少女は夜にも関わらず、自分のクローゼットからドレスやワンピースを取り出してはくるくると回っていた。サリア自身はココノアの恋を応援しているので2人が上手くいくのは望む所だ。


しかし………


「昨夜は寝るまで。そして今日は朝起きてからずっと繰り返される言葉には少し苛立ちが増してます」


昨夜からずっとココノアの恋話を聞かされ続けているサリアが死んだ魚のような瞳をしながら口にする。


「大変だな」


リオンはそんな反応を見せるサリアに心から痛ましいものを見せるとここでようやく少女が夢の世界から戻ってくる。


「失礼ね。サリア。それに王子、ちゃんと聞いてますわよ」


リオンがそう溢せば、いつもの知的な瞳をした少女が2人を捉えている。


「聞いてるなら聞いてると言ってくれないか?」


これでようやく話が出来るとリオンが言うのにココノアは“ふふふ”と笑う。


「あら、王子様は特別な人のことで頭がいっぱいになるみたいな経験をされておられないんですか?」


からかうような視線を向けられたリオンは呆れたようにため息を吐く。


「俺にはそんな人間いない。というか、そんな事今はどうでもいいだろ」


その言葉にココノアは心外だと驚きに目を見開く。


「どうでもいいことありませんわ!」


「は?」


ココノアの言葉にリオンが怪訝そうな顔をすれば少女が不満げに机を叩く。


「いいですか!王子!その人のことを考えるだけで幸せと思えるのは凄く幸せなんですよ!」


そう熱烈にココノアはリオンに訴える。


「あの人が私の為にチケットを取ってくれた。それだけが嬉しくて嬉しくて胸がドキドキして高鳴って止められなくなる。誰よりも可愛いと思ってもらいたい!それはしごく当然のことですわ!」


周りに花が見えそうな勢いでココノアが話すのにリオンは唖然とする。普段からは想像出来ない少女の発言にサリアが額に手を当てる向かいではヨーゼルが苦笑し、リオンはただマジマジとココノアを見つめる。


「………本当にお前はココノア・クロエなのか?」


思わず、そう確認してしまうほどの浮かれ具合にリオンが茫然自失になる中、ようやくため息を吐いたサリアが口を開く。


「お嬢様、いい加減にして下さい。キースに言いつけますよ」


その言葉にうっとりと1ヶ月後のキースとのデートに想いを馳せていたココノアは現実に戻ってくる。


「え?」


夢から覚めたように目を瞬けばサリアはため息混じりにココノアを促す。


「キースとの出会いに夢見心地になるのは構いませんが時と場合を選んで下さい。屋敷に戻りましたらいくらでも聞きますから」


サリアの促しにようやく周りを見る余裕を持ったココノアが意識を現実に戻すと苦虫を噛み潰したようなリオンと苦笑混じりのヨーゼルの表情が視界にはいる。2人の表情にココノアは“こほん”と咳払いをしてから2人に向き直る。


「申し訳ありません。恥ずかしい姿をお見せ致しました」


いつもの理知的な瞳で頭を下げられたリオンはその言葉に嘆息する。


「恋は時に人を馬鹿にすると言うのは本当だな」


普段は大人びた少女が見せない姿にリオンがそう溢すと頬を微かに赤くしたココノアは唇を尖らせる。


「王子は分かっておられませんわ。恋が人を馬鹿にするんじゃないんです。この世でたった1人の特別な人に出会って人は馬鹿になるぐらい人を愛する喜びを知るんです」


その言葉と同じぐらい幸せそうな表情をするココノアにリオンは目を瞬かせた。




そう………


人は誰しも恋をする。


しかし、よく人は恋を知ると馬鹿になると言われる。


「キャッ」


物陰から伸ばされた手が自分を陰に引っ張り込むのにリリアは悲鳴をあげた。レオンに別れを告げ、自分の初恋に別れを告げた少女は自分を陰に連れ込む節くれだった剣を持つ男の手に身を震わせる。


「驚かせてすまない………だが、君に会いたくて」


「えっ?」


何をされるのかと身を竦めるリリアに耳に届いた声は聞きなれた声。その声に顔をあげるとそこに居たのはレオンの側近であるアルフ・ユドルだった。

いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。


少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

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