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王の処刑人  作者: 高月怜
王の処刑人と野バラの姫
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16.破滅の足音

「実際に見ると兄上が情けないな」


こっそり見ていた物陰から出て来たリオンは渋面を作ったまま力なく少女が座っていた席に座る。リオンの嘆きにココノアはにっこりと綺麗に笑いかける。


「何を今さら」


「……お前に迷惑をかけているのはすまないと思っている」


ココノアの怒りに満ちた綺麗な笑顔にリオンは顔をひきつらせる。前回、ココノアを自分の愚かな行動に巻き込んでから王族としての責任と役割について真剣に考えるようになった。真面目に公務も含め、会議にも参加するようになったリオンにとって兄の行動は頭痛の種でしかない。眉間を揉むリオンの行動を見ていたココノアも少女が去った方向をみやり嘆息する。


“まさかここまで話が拗れているとはね”


本来なら少女から離れる決意をしてくれたことは有難いと関係すべきことかもしれない。ただ、その話を聞いた時、ココノアの脳裏に浮かんだのは少女の悲しげな顔。


“駄目ね……王の処刑人失格だわ”


小さくため息を吐いてココノアは首を振る。自分が1番に考えないといけないのは王族とその未来。王族よりも先に少女が気になったなんて誰にも言えなかった。昨日の行動は王子につけていた影からその日のうちに自分の耳に届いたが気になっていたのは少女のことばかり。


「彼女を夜会で見たことはありません。どこのご令嬢ですか?」


リオンが自分の兄の行動に頭を抱えているのを横目にヨーゼルは憂い抱えた表情をするココノアに問いかける。それにチラッとヨーゼルを見たココノアがため息を吐く。


「彼女はリリア・バレー。バレー男爵家の三女です。年の離れた弟がいます」


「バレー男爵……聞かない名だな」


「あまり王都に来られる方ではありません。なによりお持ちの土地は裕福ではなく、今の男爵に代替わりされてから学園に通われたのは彼女だけです」


「そうなのか?」


「爵位の低い家では珍しいことではありません。国では婦女子達に教育が開かれてはいますが学園の高額な入学費を払えないため、入学を辞退する家も多くありません」


その言葉にリオンが顔を上げる。それを見たココノアはため息を吐く。


「王子、もう少し国政に詳しくなって頂ければ幸いです」


「不勉強で悪い」


「今はそれは問わずにおきましょう」


リオンがあれ以来、猛勉強をしているのを知るココノアもあまり深くは突っ込まずに話を続ける。


「彼女は将来、この国の官吏を目指していると聞いています。これが大きな影響を及ぼさないといいんですが………」


その言葉にリオンが目を瞬く中、ヨーゼルも“確かに”と頷く。


「レオン様の婚約者は公爵家のご令嬢でしたね?」


「ああ。兄上の婚約者はカーン公爵家の長女だ」


ココノアからの問いかけにリオンも深く頷きつつ、呻く。カーン公爵家はクーラ国内で絶大な権力を持つ。娘が婚約者から蔑ろにされていると知ったらその怒りが様々な所に飛び火するのが予想出来る。


「これがバレた時の騒動を思うとため息しか漏れないな」


再び眉間を揉むリオンを横目にココノアも肩を竦めた。






「レオン様、どちらに行ってらしたの?」


少し用事があるからと席を外していた婚約者の姿にカーン公爵家のコーリは可愛らし声音で問いかける。その声音と同じようにコーリは小柄で可愛らしい。頭もよく周りの女生徒達と如才なく付き合う才能は王妃としては素晴らしい才能だが……。


「遅くなってすまないね」


コーリからの質問には微笑むことではぐらかしたレオンは学内にある勉強室の一室に戻ると婚約者の隣の席を引く。それに先に行って席をとっておいてくれと言われていたアルフもコーリと同じように疑問の目を向ける。


「どこに寄っていたんだ?」


そう問いかけるとレオンが楽しげに微笑む。


「ちょっと所用にね……」


「レオン」


「少し図書館に寄って本を返していたんだ」


「まぁ……そうでしたの?なら、ご一緒しましたのに」


更に何かを言い募ろうとしたアルフを遮るようにコーリが声を上げる。それにレオンがクスリと笑う。


「我が婚約者は優しいね」


「婚約者であるレオン様と一緒にしたいのはおかしくないですわ」


ツーンとすまして見せるコーリにレオンは笑う。そんな中、拳を握ったアルフが眉を潜める横で近くに来たレオンから漂う匂いにコーリが不思議そうに首を傾げる。


「あらそう言えばレオン様、よい匂いがされますね」


「そうかい?」


並んで教科書を広げたレオンは婚約者の言葉に目を瞬くと袖口の匂いを嗅ぐが分からない。


「よく分からないな。そんな匂いがするかい?アルフ」


「いえ、私にもよく分かりません」


袖口を差し出されたアルフは匂いを嗅いでみるがコーリが言うような甘い匂いは分からない。しかし、コーリは静かに首を振る。


「はい。甘くて……そう……砂糖菓子の様な匂いがしますわ」


そう告げるコーリの瞳に鈍い光が宿る。


「まるであの子の様な嫌な臭いだわ」


小さく吐息に混じって呟かれた声に隠された憎悪を感じ取れるものは誰もいなかった。

いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

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