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王の処刑人  作者: 高月怜
王の処刑人と野バラの姫
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13.恋の病

コクリと紅茶を飲み干したエリメールは自分の部屋のソファーに座って泣き続けるリリアに目を移す。泣き腫らした目が痛々しい。


「リリア、落ち着いた?」


スンスンと鼻を鳴らしつつも一時の号泣が落ち着いて来た親友にエリメールはそう声をかける。すると声を詰まらせたリリアがまた涙を溢す。


「………迷惑かけてごめんなさい」


「そんな事は気にしないで。私と貴女は友達でしょう」


謝るリリアにエリメールはキッパリと言い切る。その言葉にぎゅっと手を握っていたリリアは恐る恐る顔を上げた。するとそこには真剣な顔をしたエリメールが居た。


「エリメール……」


そう呟けばエリメールがフワリと困ったように笑う。


「ずっと前から貴女が私の爵位に気を使っているのは分かってる。でもね、一つ言わせて。リリア、私は貴女の親友だと思ってるの」


その言葉にリリアは今にも泣き出しそうに笑う。


「エリメール」


「貴女と学園で出会ってもう3年。私にとって貴女は大事な親友なのよ」


学園に入るまでもお茶会や親類との付き合い。様々な人々と付き合って来た。エリメール自身、はっきりと自分の意見を相手に言う癖があり、性格がキツいという自覚もあった。


「私はこんな風にキツい性格でしょう?だから、初めの頃は貴女にも嫌われるんじゃないかとひやひやしてたのよ」


肩を竦めながらエリメールはそう告白する。その話にリリアは緩く首を振る。


「そんな事ないわ。エリメールのそのいつでも自分を貫く姿に私は憧れてるわ」


「リリアにそう言って貰えて嬉しい!」


「エリメール」


「だから学園を出てもこうして友達で居て欲しいわ」


エリメールは初めて本当の自分を見せられた友に笑う。こちらを伺う姿にリリアは心の底から感謝する。自分にこんな友達を与えてくれた神に。


「もちろんよ。エリメール」


「絶対よ、リリア」


互いに向き合ってわざとらしく肩を竦めてみせた後。リリアとエリメールは互いに吹き出す。1人は泣き腫らした顔でもう1人はクスクスと。ひとしきりそう笑った後、リリアは改めてエリメールに頭を下げる。


「ありがとう。エリメール」


いきなり走り出し、泣き出して踞った自分を追いかけて来て、馬車を手配したりと動いてくれたのは目の前のエリメールだ。そう御礼を伝えるとエリメールは気にしないでと手を振る。


「友達のためでしょう」


そう言いきりながらチャーミングに片目を瞑ってみせるエリメールにリリアはホッとする。そんなリリアを前にしてエリメールは“さて”と嘆息する。


「そう言う訳で話は戻すけど……貴女の恋人はレオン殿下ね?」


そう切り出して、適格に指摘するエリメールにリリアは少し迷いつつも困ったように笑いながら頷く。その反応にエリメールは“はぁ~”とため息を吐く。


「貴女が難くなに隠すから身分のある相手だと分かってはいたけど、よりによってあの色ボケ殿下なのね」


「色ボケ殿下?」


眉間を揉むエリメールの言葉にリリアは目を瞬く。リリアの不思議そうな顔にエリメールは重い口を開く。


「貴族社会の中では結構有名な噂なのよ」


「噂?」


「ええ。第1王子は優秀であるが少々色ボケ気味だと」


公爵家の婚約者がいながらに多くの女性に手を出していると。そう言葉にしたエリメールにリリアはパチパチと目を瞬く。


「……私だけではないの?」


「ええ。夜会で身分の低い令嬢に王宮のメイドにも手を出しているという噂よ。第2王子がもう少しパッとしたら次期王位は第2王子の方がという人もいるぐらいね」


「そうなの……」


「ごめんなさい。貴女にこんな辛い話をして」


「ううん。エリメール、ありがとう」


複雑そうな顔を自分に向けてくるエリメールにリリアは嘆息する。


「貴女以外、私を想って言ってくれる人はいないわ」


自分との仲を考えたら言わないという形もある。わざわざそう言ってくれるエリメールの気遣いの方が自分には嬉しい。そう伝えればエリメールがホッとした表情を晒す。


「リリアの事が大事だから伝えた方がいいかも……と思って」


「大丈夫……まだショックだけど。受け入れられるわ」


1年前に出会った相手はここ数ヶ月、図書館に現れない。だからリリアも薄々は気づいていた。それでも自分は彼の良い所ばかりを見ようとしたのだ。だから今日も彼が自分には会いに来てくれないのは忙しいだけだと思い込もうとしていた。


でも今日の姿を見た時、リリアははっきりと自覚した。


何も望んでいないと言いながら本当は彼の全てが欲しかった。彼と自分の関係は高尚なものだと思い込もうとした。許されない恋をする私の心だけは貴方にと願う自分はなんて馬鹿だったのか。アルフにも言われた通りだ。


ー誰よりも自分が1番醜いー


「恋は人を馬鹿にするのかしら」


自分の恋は幻想だったと苦笑すれば、向かいに座るエリメールがずっと身を乗り出す。


「リリア、当たり前じゃない」


「エリメール?」


「相手に好きになって欲しい。相手に自分を1番に愛して欲しいと思うのが“恋”なのよ!それのどこが悪いの!」


「エリメール」


真剣な眼差しを自分に向けるエリメールにリリアが虚を突かれている間にも熱弁は続く。


「だから私はリリアを好きだと言いながら行動が伴わない殿下が憎らしいわ。だって私はロバートに愛して欲しいし、好きだと言って欲しいもの」


それはエリメールの嘘偽りのない言葉だ。報われない恋に泣く親友にエリメールは晴れやかにに笑う。


「だから私はそれ以上にロバートに好きだと伝えるの。貴方の事が1番大切で、貴方が1番好きだって」


その言葉にリリアは困ったように。でも、優しく笑った。





“でも、1度かかると厄介なものなのも恋よ。だから、ゆっくり考えて”


ようやく落ち着いた自分の手を握って微笑んだエリメールが用意してくれたリリアは馬車に揺られながらぼんやり考える。


「恋の病とは言ったものだわ」


今までにも読んだ本の中には報われない恋に泣く沢山の少女が居た。自分も今日、その1人に加わった。


「着きました」


ゆっくりと速度を落としていく馬車が止まると外から声がかかると扉が開く。その声にリリアはゆっくりと立ち上がり、馬車を降りる。


「ありがとうございました。エリメール様によろしくお伝えください」


「畏まりました」


ここまで馬車を走らせてくれた相手に言伝てを頼むと一礼して行者台に戻って屋敷に戻って行く。その姿が自分の視界から消えるのを待って、リリアは自分の暮らす寮に向かって身を翻した。

いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

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