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王の処刑人  作者: 高月怜
王の処刑人と野バラの姫
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9.哀れな恋の奴隷

「何か悩み事ですか?」


ため息を吐いた後、窓の外を見た途端にかかった声にリリアは視線を目の前に戻す。目の前に座るのはここ数日、よく図書館で会うようになった少女だ。


「ココノア・クロエと言います。先輩」


2週間前、いきなりの登場に戸惑う自分に目の前の席に座った少女はそう名乗った。


「先輩?」


そう言われて目を瞬かせたリリアの目に入ったのは今年の入学生を示すバッチ。


「貴女は1年生なのね」


目の前の人物が自分よりも年下であることにホッと息を吐いたリリアに少女は上品に微笑む。それだけでリリアには少女が自分よりも爵位が高い人間だと言うのが分かった。学園では身分で判断しないようにとの建前で同じ制服を着る事が推奨されているがやはり所作から滲み出る何かを隠すことは出来ないものだ。


「はい。まだ学園になれなくて」


そうリリアが内心で判断しているのも知らず、少女はそう言いながら目を伏せる。その姿にリリアは少女の持つ儚げな雰囲気から学園の雰囲気に馴染めていないのかと推測した。


「そうなのね。大変ね………」


「はい。学園は色々と難しいですね」


そう言いながら見せる寂しげな表情にリリアは柔らかく微笑む。少女が自分よりも爵位が高い家の令嬢だとは分かっていても少女が言わないのなら自分は先輩として言葉をかけるのが1番だ。


「そんなに心配しないで。大丈夫よ。ゆっくり慣れていけばいいのだから」


「ありがとうございます」


そう声をかければ目の前の少女が柔らかく微笑んで、それから周囲を見回すのが分かる。


「ここは静かですね………」


その言葉にリリアもぐるりと周囲を見ながら頷いた。


「この辺りは領地経営や農業技術といった書籍が多いの。だから学術書が目的の生徒達はあまり来ないのよ。だから、周りの目を気にする必要もないから、私は学園に入学してからここをよく利用しているわ」


そう説明すれば少女が目を丸くする。


「こんなに綺麗な陽射しがはいるのに?」


「そうなの。穴場でしょう?」


少女の表情がおかしくて思わず、クスクスと笑ってからリリアは“あっ”と口元を押さえる。


「ごめんなさい。ついおかしくて」


「私の方こそ、先輩の大事な場所に踏み込んでしまって申し訳ありません」


自分の謝罪に目の前の少女の方が申し訳なさそうに謝るのを聞いてリリアは首を振る。


「気にしないで。そうね……私も……ここに1人でいるのはそろそろ寂しいと思っていたから、貴女が来てくれれば嬉しいわ」


そう口にすれば少女が不思議そうに首を傾げる。


「先輩の他にも誰か来られるんですか?」


「……あ…………」


その言葉にリリアは“ハッ”としたように慌てて首を振る。


「ごめんなさい。気にしないで。いつも放課後は私だけよ」


「そうなんですね………」


慌てて訂正すれば少女が“ホッ”としたように微笑む。


「なら、またここに時々来てもいいですか?」


その問いかけにリリアは“もちろん”と微笑む。


「読書友達が増えるのは大歓迎だもの」


そう答えた時、微笑みながらもリリアの胸には“ズキッ”と痛みが走った。



「先輩?」


「あ、ごめんなさい」


出会った時のやり取りを思い出していたリリアは再び声をかけられて意識を目の前の少女に戻す。


「何の話だったかしら?」


そう問いかければ心配気な表情をした少女が自分を見つめてくる。


「いえ、今日は何回も窓の外を見て何度もため息をつかれているので体調でも悪いのかと思って」


そうココノアが心配気な表情で問うとリリアが目を瞬かせた後にふわりと笑う。


「ありがとう。大丈夫よ。ちょっと考え事をしていただけなの」


少女と出会ってまだ2週間。3日に1回のペースでやってくる少女とは読んだ本の話で盛り上がる仲になりつつある。年上の自分よりも目の前の少女は本に対しての造型が深い。様々な本を読んでいるらしく、少女の発想には驚かされる。笑顔で内心の憂いを押し隠せば、空気の読める少女は悲しげに笑う。


「そうですか。分かりました。申し訳ありません。先輩のプライベートに口を出してしまいまして………」


「気にしないで。こちらこそ心配をかけてごめんなさい。ため息ばかりついていたら心配させてしまうわね」


そう微笑むと少女は更に悲しげに目尻を下げながら微笑む。


「何かありましたら、いつでも言って下さい。私でお力になれそうな事があればお手伝いさせて下さいね。先輩」


「ありがとう」


少女の表情と声音から心の底から自分を心配して告げられたと分かるその言葉にリリアは寂しげに笑った。



そして………


「はぁ………」


本に目を落としていたリリアの口からまたため息が零れ落ちた。その事に自分で気づいたリリアは目を見開いた後、憂いに満ちた横顔で苦笑すると前を向いて今日はもう来る筈のない本当の待ち人がいつも座る席に向かって優しく微笑みながら話かけた。


「聞いて下さい。私は貴方を思えるだけで幸せだと思っていたのに……」


返る言葉はないと分かっているにも関わらず、止められなかった。


「貴方に会いたいという思いを止められない……哀れな恋の奴隷になってしまったようです」


そう言葉にするとリリアは寂しげに席を見つめながら笑いかけた。

いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

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