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王の処刑人  作者: 高月怜
王の処刑人と野バラの姫
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8. すれ違う気持ちの行き先

「お嬢様。ご相談とは?」


昨夜のことに対して自分が悪かったことを伝えてココノアの意思を尊重して欲しいと伝えたいのを脇に寄せ、キースは制服から普段着に着替えたココノアが執務室のいつもの席に座ったのを確認して切り出す。キースの問いかけにココノアは嘆息しながら机の上で手を組む。


「キース。貴方、第1王子の側近の名前を覚えてる?」


「確かアルフ・ユドル。ユドル公爵家の子息だったと記憶していますが」


ココノアの問いかけに毎年更新される貴族名鑑を当然のように覚えているキースは即座に情報を口にする。その事にココノアは頷くことで同意を伝えるとため息を吐く。


「今日、その人物と令嬢が学園の図書館で揉めていたわ」


「どの様な内容で?」


「ごめんなさい。そこまでは詳しくは分からないの」


声に気づいて近づきはしたものの、二人の会話は途中から耳にしたので内容の全ては分からなかった。


「ただ、ユドル公爵の子息が少女に対して“いい加減に諦めろ”と口にしていたわ」


何に対して諦めろまでは分からなかった。二人のやり取りを思い出すようココノアは淡々と言葉を紡ぐ。


「人目を忍ぶように図書館の最奥の席で黄金色の木漏れ日が差し込む席で何か親密な雰囲気で向かい合っていたの」


その光を背にしていた青年の表情は影になって見えなかったが、言葉の端々から苛立っているのは伝わって来た。青年が言葉を重ねる度に少女が寂しげに微笑むのが見えた。


「それから“いくら待ってもあの方は来ないぞ”って」


彼の指す“あの方”に予想はつくがより詳しい情報を集めなければ本当の真意は見えない。


「………第1王子が絡んでいますか?」


ココノアの言葉にしなかった部分を読んだキースは眉間に寄った皺を伸ばすようにしながら問いかける。キースの問いかけにココノアは疲れきった表情で微笑む。


「十中八九……というよりは確実に黒でしょうね」


「……………はぁ……」


その言葉にキースは深いため息を吐くと眉間の皺を伸ばしながらココノアに向き直る。


「かしこまりました。すぐに王子につけているものに詳しく調べるようには言い付けますが…………お嬢様、そのご令嬢の名前は調べなくても分かりますよ」


「あら?そうなの?」


ここ暫くは大人しい王子に対してあまり興味を持っていなかったココノアが首を傾げるとキースはため息と共に口を開く。


「多分ですが………図書館での逢い引きでしたらリリア・バレー男爵令嬢が有力かと。男女関係もなく、それでいて1年前から王子との関係が続いているたぐい稀なる方だったと記憶しています。確か上に2人の姉と1人の弟がいた筈です」


「リリア・バレー………」


キースから聞いた名前を呟きながらココノアは今日、自分の目で見た少女の姿を思い出す。茶色の髪と瞳を持った自分よりも年上の少女。そばかすが微かに顔にはあるが優しさが滲みでる容貌をしていた。美人ではないがどこかホッとする女性ではあった。


「あの男には勿体ない令嬢だったわ」


ココノアがそう呟けば、キースは冷ややかな瞳を更に細める。


「私にはそもそもあの馬鹿王子に相応しい令嬢などこの世にいないと思っていますが。あの馬鹿王子は女がいないと呼吸が出来ないのかと言わんばかりに女を侍らせていますからね」


「毎回、毎回報告書に上がってくる名前が違うものね」


キースの心底軽蔑したと言わんばかりの言葉に苦笑しながらもココノアは指示を出す。


「とにかく、王子の動向が気になるわ。詳しく調べさせて頂戴」


「分かりました。そのように手配します。合わせてアルフ・ユドルの方も調べた方が良さそうですね」


「お願い」


「かしこまりました。リリア・バレーの方はいかがしますか?」


「そうね………」


調査確認にココノアは口元に白い指を当てて思案すると一つ頷いて、キースを見上げる。


「私が接触するわ」


「………お嬢様」


「大丈夫よ。無茶はしないわ」


キースの低くなった声音にココノアは肩を竦める。


「学園内は学生である私の方が不自然でないし、今は急ぎの仕事もないからちょうどいいでしょう?」


その提案に一瞬、息を呑んだキースは何か言いたげに口を動かした後、嘆息する。


「そうですね。それではお嬢様にお願い致します。くれぐれも無茶はされないようにして下さい」


「分かったわ。ありがとう」


自分の提案を呑んでくれたキースにココノアは微笑むと“うーん”と伸びをする。


「それにしても今日は少し疲れたわ。夕食をとってから仕事をしてもいい?」


「ええ。もちろんです。では食事の用意をさせますね」


「お願いね」


「少しお待ちください」


「ええ。あ、キース」


自分の言葉に頷いて、手配するために身を翻すキースを見つめたココノアはさりげなく呼び止める。


「何か?」


振り返ったキースがそう問いかけるのにココノアは何気なさを装うと口を開く。


「昨日の件だけど………お断りしたから」


「お嬢様」


「だから安心してね」


キースが何か言いたげにしているのにココノアは一息で言いきると話題を変える。


「キース、お腹が空いたから早く食べたいわ」


「…かしこまりました」


少女の言葉に何か言おうとして言葉を飲み込んだキースは一礼して部屋を後にする。


そして……


“トン”


閉めた部屋の扉に凭れてキースは天井を仰ぐ。暫くそうした後、深いため息を吐くと食事の手配の為に歩き出した。

いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

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