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王の処刑人  作者: 高月怜
王の処刑人と平和の国の王子様
4/66

4.友達が欲しいの

「お嬢様」


「まぁ~、夢のようだわ!どうしましょう!」


「お嬢様」


「キース、制服を作らないと行けないわね。ああ……楽しみ……」


「お嬢様!」


送られて来た封書を前に浮かれる少女にキースは声音を強める。それにまだ見ぬ学園生活に想いを馳せていたココノアは目を瞬くと自分の傍つきを見上げる。


「何?キース」


自分の目の前で額に手を当てる傍つきを見上げれば深いため息が漏れ聞こえる。


「何をふざけた事を仰られているんですか。お嬢様に今さら学園など必要ないでしょう。寝言は寝て言ってもらえませんか?」


その呆れたと言わんばかりの言葉にココノアは自身の手で握りつぶした紙をキースの目の前に差し出す。


「何を言っているの!貴方が持って来たこの手紙が私の学園への入学を伝えているのよ」


「必要ないでしょう」


ココノアの訴えをキースはバッサリと切り捨てる。


「失礼ながら私の教育を受けたお嬢様のどこに今さら学園に通うような必要があったのかと悩みますが?」


500年という長い年月に渡り、王の処刑人というその役割を受け継いできたクロエ家当主はその仕事を全うするに辺り、凄まじいまでの英才教育を施される。若くして後を継いだココノアにしてもその例に漏れず、国が運営するような学園で学ぶような知識は身につけている。


「………………………」


キースの率直な指摘を受けたココノアは降って沸いたような話に目を輝かせながらも心の中では“確かに”と納得する。キースによる悪魔の教育を受け続けたココノアにとって今更、また勉強する必要はない。


しかし……しかしっ……!


「これを逃したから私はずっと友達のいない寂しい生活を送ることになる気がするの」


ココノアの言葉に今度はキースが沈黙する。押し黙ったキースを他所にココノアはそうよと拳を握りしめる。そう自分が望んでいたのはこんな出来事だ。自分には一切、縁のないものだと思っていた存在が手に入るチャンスではないか。


「学園と言えば友人よ!キース、私にもようやくお友達が出来るのよ!」


そう叫べばキースが悲しい表情をココノアに向ける。そんな視線を無視し、ココノアは拳を握って力説する。


「キース、これはクロエ家当主として必要な仕事だと思うわ!」


そう宣言すると自身の邪な気持ちを押し隠しもせず、ココノアはうっとりと妄想する。


「ふふ……仲の良い友人達とテラスでおしゃべりしたり、学園帰りに仲の良いお友達と行き付けのカフェでお茶……」


ココノアの目にはまだ見ぬ友人達と語らう自分の姿が映る。そんな自分の薔薇色の未来を想像し、ココノアはキースに向き直る。


「キース!私、学園に通うわ!」


仕事の疲れも吹き飛んだココノアは浮き立つ気持ちをそのままに宣言する。その言葉にキースは深いため息を吐く。


「お仕事はどうなさるんですか?」


少女が生まれてから目に入れても痛くないぐらいに可愛いがってきたキースは冷静に淡々と指摘する。その指摘にココノアは“あら”と微笑む。


「もちろん今まで通りやるわよ。それにキース、貴方がいるんだもの。私が昼間に学園に通ってる間ぐらいの手配なら大丈夫でしょう?」


こちらを見上げて勝ち気に微笑む少女にキースは自身がきっと折れることになるのだろうと思いながらも嘆息する。


「護衛はいかがなさるおつもりで?」


「そうね……サリアを連れて行ければ楽だけど、無理ならなくてもいいわ。私一人でもなんとかなるわ」


キースの言葉にココノアは先ほど自分の世話をしてくれた侍女の名を出す。自分の侍女でありながら自分の身の回りをしてくれる彼女は暗器が得意な戦闘員でもあるのだ。それに周りに人がいなくても何時なんどき身の危険が襲っても自分の身を守れるようにとの教育方針からココノアもそれなりの剣の使い手だ。心配することはないと告げても苦い表情を崩さないキースにココノアは悪戯を思いついたように微笑む。


「それに出来ないとは言わないわよね?だって、貴方はいずれは私の夫となってクロエ家を継ぐのよ。貴方なら私の不在をカバー出来るでしょう?」


出来るわよね?と言わんばかりのココノアの勝ち誇ったような表情にキースは肩を竦める。その表情からは自分の言葉を叶えられる筈だと信じて疑わない。そして自分もまた少女の願いを叶える。彼女を生まれてからずっと守り育てて来た上に少女に自分は甘いのだ。


「分かりました……善処しましょう…」


肩を竦めてそう言えば少女が満面の笑みを浮かべて歓声を上げた。


「キース、大好き!」


その笑みにキースは嘆息する。自分の言葉を受けて嬉しげに手の中に握りしめた紙を開く少女は本来であればまだ“役目”を継ぐ筈ではなかった。本来なら、少女は学園に通う子供たちと同じように生活をしていた筈だった。そう思えばと少女の我が儘を受け入れることにしたキースは少女がキラキラと輝く瞳で紙を眺めるのに嘆息する。


「やけに楽しそうですね」


そう問いかければココノアがこちらを向く。


そして……


「キース、だって友達が出来るのよ!」


「ん?」


その言葉にキースはココノアから発された言葉を理解出来ずに固まる。クロエ家の当主補佐として周りに一目置かれているキースが本日何度目かになる間抜けな表情を晒す中、そんな相手を見上げたココノアは満面の笑みを浮かべて自分の願いを口にする。


「私は一度でいいから友達を作ってみたかったの!」


それは最年少で“王の処刑人”になった少女のたった一つの願いだった。

いつもお読み頂きましてありがとうございます。

誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

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