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王の処刑人  作者: 高月怜
王の処刑人と野バラの姫
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3.私の日常

「リリア、おはよう」


自分を呼ぶ友の声にリリア・バレーは穏やかに微笑む。


「おはよう、エリメール」


目の前で“ふふふ”と笑うのは学園に入ってから出来た友達。エリメール・バロシュは伯爵家の娘だ。伯爵という身分でありながらも男爵の身分である自分にも優しく、そして頭もいい。学園を卒業したら、幼馴染の伯爵家に嫁ぐそうだ。そんな彼女は席に座るリリアの傍に寄って来ると周りを気にしながら囁く。


「昨日はどうだった?」


その言葉にリリアは微かに瞳を揺らしながらも微苦笑する。


「………二人で街を散策したわ」


「うわわぁ……素敵」


「あ、ありがとう」


声を抑えたのが嘘のようにエリメールは胸の前で手を組む。


「本当にリリアの話を聞かせて貰えばもらうほど、“野バラの姫と剣の王子”みたいって憧れるわ」


その言葉にリリアは嘆息する。


「何を言っているの。エリーの婚約者だって素敵じゃない」


友達として夜会の際に紹介してもらったエリメールの婚約者は紳士的で年下の少女に甘い。そう言えば、エリーは頬を膨らませる。


「そんな事ないわ!昨日だって、休みならどこかに連れていってくれてもいいじゃい!って言っても君とならどこでも楽しめるんだけどなって……」


「貴方の婚約者は騎士というお仕事なんだから疲れてるのよ」


そうリリアが言えばエリーは頬を染めながらモジモジと俯く。


「かもね……昨日も彼の家の庭で二人で過ごしたわ」


「そう」


「疲れたって私の膝に頭を乗せて居眠りするのよ」


怒ったように唇を尖らせているが3年の付き合いからリリアには照れているだけだと分かっている。


「幸せね」


そう告げると赤くなったエリメールは慌てて首を振る。


「まぁ……そうね……って違ったわ。リリアは昨日何をしたの?」


その言葉にリリアは誤魔化せそうにないことを悟り、微笑む。


「彼と二人で街を歩いて、甘いものを二人で食べただけよ」


人目を忍んでのデートはそれぐらいが限界。自分がもっと身分の高い家の出身なら彼と人目を気にせずに会えたのだろうか……。


『君は僕の運命の人だ』


本の主人公のように彼は図書館で偶然再会した自分に今にも泣き出しそうに笑った。


『なんで、僕の婚約者が君じゃないんだろうね』


その言葉に胸が痛む。その時、遠くからざわめきが聞こえだして近づいてくる。


「殿下だわ」


自分の傍らに立つエリメールがそう言って、廊下に目を移すのが分かる。それに従うようにリリアも廊下に視線を移して嘆息する。


“レオン様”


自分の教室の前を通過したのはこの国の第1王子レオン・クーラ。

今1番王位に近い人。この国の王族の特徴を有した黒髪と金の瞳に周りが頭を下げる。甘いマスクと誰に対しても変わらない態度に人気は高い。そんな彼は二人っきりの時以外、自分のを見てくれることはない。


なぜなら……


「あのお二人は本当にお似合いね」


二人で会う以外は自分の婚約者である公爵令嬢と仲睦まじい様子で寄り添っている。聡明な王子の婚約者としてその役目を果たす姿にリリアの胸は“きゅっ”と縮む。


“ごめんなさい………”


彼の心を奪ってごめんなさい。貴女といる重圧に困る彼を私は慰めている。


王子と仲睦まじい様子を見つめていると私と彼の逢瀬は本当にあったのかと疑いたくなる。


それでも………


「………好き」


誰にも聞こえないほどの微かな吐息に隠して私は貴方に恋い焦がれる。


「何か言った?」


「何でもないわ」


王子の姿を眺めている私にエリメールが首を傾げるのに首を振る。


「何でもないわ………」


そう言えば、エリメールは優しく自分に微笑みかけてくる。


「あの方々も本当にお似合いだけど、貴方にも恋人がいるんだから他所に目移りしちゃダメよ」


その注意にリリアは“もちろん”と微笑む。


「私には彼しかいないもの」


彼の孤独を知り、彼を癒すのは彼女ではなく自分であるということがリリアの唯一の心の支え。大人しい少女の芯のある言葉にエリメールは肩を竦める。


「あなたがそんなに夢中なるなんて凄くいい方なのね。本当に妬けちゃうわ。いつか紹介してね」


その言葉にリリアは寂しげに微笑む。


「……もちろんよ…」


いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。少しでも楽しんで頂ければ幸いです


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