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王の処刑人  作者: 高月怜
王の処刑人と野バラの姫
36/66

1.現実的な少女

本日は2話目の投稿となります。

「はぁ………」


執務が終わり、就寝前の僅かな時間に読書するのがココノア・クロエの密かな趣味だった。あまり外に出られない環境の中で育ったココノアにとって本は友のような存在でもあった。しかし、今はその友を手荒く閉じると眉を寄せる。


「まったく意味が分からないわ」


思わず、そう溢すほど読み終えたばかりの本を前にココノアは心底、意味が分からないと言わんばかりに渋面を作っていた。


「身分を隠した王子様と身分の低い男爵令嬢が恋に落ちて上手くいく筈ないわ」


巷でベストセラーとなった恋愛小説を是非読んで欲しいとクラスメイトからお薦めされたので読んではみたが妄想も甚だしい。


「婚約者と婚約破棄する?王子の義務をなんだと思ってるの。何より1番意味不明なのはこの男よ。身分の低い少女に手を出すなんて身分を嵩に来た新手の詐欺じゃない」


実際の話ではないがあまりにも無責任な男の態度に怒りを覚えてベッドサイドに本を置きながら一人文句を繰り返しているとクスクスという笑いが部屋に響く。それに視線を移すとふくよかな体をした50代半ばの女性がお茶を淹れながら笑っている。


「何かおかしい?」


サリアと交代でよく自分の傍についていてくれる侍女の一人イーリ・クロエに唇を尖らせるとお茶の入ったカップを差し出しながら口を開く。


「お嬢様にかかれば巷で有名な“野バラの姫と剣の王子”も敵いませんね」


「野バラの姫?」


そんな題名だったかしらと小首を傾げているとイーリが優しく微笑む。


「今、劇場でこの本を題材に劇をやっているそうですよ」


「ふーん。そうなの」


「何でも主人公の王子役の役者が格好いいと有名らしいですよ」


その言葉にお茶で喉を潤したココノアは昔から自分の傍にいてくれるイーリに目を瞬いた。


「あら、イーリが知ってるぐらいそんなに有名なの?」


自分に薦めて来たのが同年代の少女達だったので生きていればココノアの母よりも年上の女性であるイーリが知っているとは思わなかったのだ。その言葉にイーリは“あらあら”と胸を張る。


「ココお嬢様、失礼ですね。こう見えても私もまだ女の端くれですよ。身分を越えた恋に愛に憧れてるんです……と言いたいところですが実際には屋敷の若い侍女達に人気のようで私も知ったんですよ」


イーリの言葉にココノアは再びベッドサイドに置いた本に目を向ける。


“そんなに人気なのね”


読んでみた感想としては王子という名前の男があまりにも軽薄でその数々の行動に国を預かる立場にありながらどうなの!とずっと突っ込み続けていたぐらいだ。


「普通の少女はこんな話に憧れるのね」


「そうですね。身分違いの恋ですからね」


「私にはまったく理解出来ないわ」


二口目のお茶を飲みながらもココノアは信じられないと言わんばかりに驚いた表情で肩を竦める。寝る前なので砂糖などは入れないがお茶本来の味が分かるのでココノアは昔からこの習慣を崩さない。そのお茶と同じように甘味など一切、含ませずココノアは本の感想を口にする。


「むしろ、私ならこんな王子はこっちから願い下げよ。そもそも王子という立場にありながら自分の役目を放棄して他の女にうつつを抜かすような男が国を支えていけると思わないもの」


ココノアが1番に気にしたのはその部分。


「そもそも、王太子妃には様々な役割も課せられる。ダンスもマナーも淑女として誰よりも優れていなければならない。外交も出来ないと困るわ。ただ突っ立って笑ってるだけで国が支えられる訳じゃないもの。それを考えたら男爵の身分の娘が王太子妃になるなんて苦行ではすまないわ。私達貴族が他の人よりも良い暮らしが出来るのは彼らが出来ないことを為すからよ。政略結婚もそう。いい暮らしをさせてもらった分、その命をかけるから許されるのよ。それが分からない王子よりも少女を苛める公爵令嬢の方がよほど貴族としての矜持を持ってると思うわ」


そう一気に捲し立てる少女にイーリは苦笑する。16歳という年齢で国をその小さな肩に背負う少女からすれば巷で人気の小説はあまりにも現実離れしていたらしい。


「お嬢様は現実的ですねぇ」


思わず苦笑混じりに言葉を溢したイーリにココノアは嘆息する。


「あら、イーリ。私は夢をみない訳ではないわ。言えるとすれば私にはこの王子よりも大切な人がたくさんいるの。ただそれだけよ」


16歳という年で侯爵家の当主として仕事をする少女にとって愛する人との結婚よりも自分を支えてくれる大切な人達の方が遥かに大事だと知っていた。

いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

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