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王の処刑人  作者: 高月怜
王の処刑人と平和の国の王子様
34/66

34.あれから年月は経ち……

「やっぱり、彼女は凄いなー。あははは」


傍らに立つ男から棒読みの台詞を聞いて、リオン・クーラは苦笑する。周囲は次期王として目されていた第一王子の醜態に騒いでおり自分達を気にする様子はない。


「ヨーゼル、棒読みだぞ」


「バレた?」


リオンの言葉に彼の護衛兼側近としての地位をこの数年で確固たるものにした男ヨーゼル・グラスは肩を竦めながらも目の前で起きた出来事を眺める。


「いや、本当にやるとは聞いてたけどここまで派手にやるとはねぇ」


そう言って、笑いながらも目の前で繰り広げられていく劇を眺める。そしてここ数年で落ち着いた空気を漂わせるようになった主に視線を移す。


「リオン。本当にいいんだね?」


その問いかけには答えず、リオンは真剣な眼差しを“ベール”の下に全てを隠す女性に向ける。


『いつかそう呼べるのを楽しみにしています』


そう言われたあの日から五年という月日が流れた。




あの日、地下牢で救出をリオンとヨーゼルを救いだしたのは城の護衛騎士達だった。


「殿下、大丈夫ですか!」


「なんで……」


現れた姿にベッドに座っていたリオンは予想外の姿に目を瞬かせることしか出来なかった。


「ご無事で安心しております。校外での学習の際にお姿が見えなくなって焦りました」


心底心配そうに声をかけながら牢の鍵を開けてくれた男は自分の護衛責任者だ。


「心配をかけて本当にすまない」


「王子の御身がご無事でしたら我らはそれで充分でございます」


扉を出ながら騎士の言葉を聞いて、リオンは初めて深く自分の行動を悔いた瞬間だ。自分は自分の王子という立場を甘くみていた。


「本当にすまなかった。私がわざと護衛を撒いたのだ。お前達に非はない。今回の件では処分がないよう。私から父に申し出るつもりだ」


そう頭を下げれば護衛達が動揺するのが分かる。その後は街の警備隊達が屋敷で起きた騒ぎを検分している横を通り過ぎた。血生臭い屋敷は血で染め上げられ、凄惨さは際立っている。


“強盗か……”


“金目のものがないからな”


殺された男達の傍に膝をついた警備隊から本当の理由は聞こえては来ない。その後も捜査は続いたようだが真相は闇の中に埋もれて世にでることはなかった。


「………そう言えば会ったようだな」


自分の失態による騎士の解雇を防ぐべく、父であるこの国の王に面会を申し入れて数日後。護衛騎士の解任を止めてもらう意思を父に告げたのち、父から返ってきた言葉にリオンは顔を上げた。その表情がなぜか楽しげなのに首を傾げながらも自分の失態が父親に伝わっているのを確認したリオンは頭を下げる。


「誠に申し訳ありません………」


「はは。それぐらいはやらかしたうちには入らん。こうして自分の失態で周りの人間に影響が出るのを理解出来るようになっただけでも進歩したな」


「恥ずかしい限りです」


父の面白げな表情にため息を吐けば、“王”の表情で父親が笑った。肘置きにおいた手に顎を乗せた相手は楽しげに笑う。


「どうだった?可愛いだろう?」


「陛下」


いい年してまだ少女と言える年齢の少女に対してそう言う相手にリオンは肩から力が抜ける。息子の勘違いにクックッと笑いながらレオード・クーラは口元を緩める


「お前も知っているだろうが、私は未だどちらを王位に就けるかを決断していない。それには理由が2つ。一つには私がお前達二人に覚悟を感じられないこと。そして………2つ目に私の“処刑人”は優秀なこと。出来の悪い王子二人のどちら次代の王にするかに悩んでいるようだ」


その言葉にリオンは弾かれたように顔を上げて目を見開く。


「私の“処刑人”はまだ若い。きっと次代の王にもよく仕えてくれるだろう」


そこで言葉を切った王は意地悪く笑っていた。


「我が“処刑人”を失望させるなよ」


その後は何も言葉が紡げずにリオンは父の前を辞すことになった。




「それから5年か………」


あれから様々な出来事を越えてきた。彼女の父の死の真相も国を覆しそうな陰謀も……その全てが痛くて苦しいものだった。


だが………


「私は貴方が王に相応しいとは思えません。王とは国のためにその身を捧げ、盾となるもの。貴方にはその覚悟があるとは思えない。だから私は古の盟約に従い、貴方を断罪します」


耳に届いた言葉にリオンは過去から戻ってくる。まだまだ自分の“覚悟”は父には届かない。それでも彼女に見せたい。


ー自分の覚悟をー


「兄上」


そう言って喚く兄と彼女の元に歩を向ける。


「私も貴方に“覚悟”があるとは思えない。彼女の言葉に賛成します」


そう言えば、兄の憎悪に染まった瞳が自分を突き刺すがその思いを全て受け止める。まだ覚悟は脆くとも……


“私の王”


全てを隠して微笑む彼女が自分をそう呼ぶ日を目指して




後の歴史書はこう語る。


歴代の王の中でも秀でた能力を持った王リオン・クーラが生涯をとして傍に置いた二人の人物がいたと。


一人はヨーゼル・グラス


もう一人は……


“王の処刑人 ココノア・クロエ”



彼らの物語はここから始まった


いつもお読み頂きましてありがとうございます。


誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。


少しでも楽しんで頂ければ幸いです。


第一章、終了です。


あらすじと誤字・脱字修正を終わらせたら二章始めさせて頂ればと思います

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