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王の処刑人  作者: 高月怜
王の処刑人と平和の国の王子様
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31. あなたが望む真実を

「失礼します」


ココノアの前で一礼して見せたキースは穏やかに微笑みながら、牢の鍵を懐から取り出す。その姿にリオンとヨーゼルが目を見開くものの、ココノアは微笑したまま牢の扉を開けるキースを見つめる。“カチリ”と乾いた音が鳴り、鉄格子の扉が開く。


「さ、お嬢様」


牢の鍵をまるで何でもなかったようにあげたキースはそう声をかける。そして、自分の言葉に一つ頷いて牢の扉を潜るココノアに手を差し出す。


「ええ、ありがとう」


その手を取りながら、微笑んだココノアは牢の入り口を潜る。その際に素早く目を走らせてココノアの身に何ら危険が及んでいなかったことを確認したキースは嘆息して、自分の登場に身を縮ませてているサリアに目を移す。


「サリア、行きますよ」


「は、はい!」


キースの言葉に身を縮ませてていたサリアは元気よく返事し、キースが開けてくれた扉を潜る。サリアが扉をくぐったのを確認し、キースは何の感情も感じさせずに再び牢の扉をかける。その行動と突然の出来事についていけなかったリオンは錠のかかる音にようやく我に返る。そして自分とヨーゼルだけを残して閉められた扉に慌ててすがりつくも扉の鍵は閉まった。


「どういうつもりだ!」


そう鉄格子を掴んで叫べば扉に鍵をかけた黒いローブを深く被った人影が射ぬくような視線を向けてくる。それに怯んだリオンがゴクリと唾を飲み込むのにその視線の主は興味をなくしたように下がってゆく。代わりに進み出て来たのはココノアだ。リオンがキースの一睨みで言葉を失うのを眺めていたココノアが普段とは違う怜利な表情のまま扉の前に進み出る。


「王子様とヨーゼル様の身の安全は私が保証いたします。ここに居て頂ければ危険なことは何らありません」


「なっ………」


キースを見つめていたリオンはココノアが一歩進み出て来たのに気づいて視線を移し、“ギョッ”とする。自分を見つめるその表情は冷たく、熱を一つも感じさせない。自分の変わりように目を白黒させているリオンにココノアは淡々と今後の事を説明する。


「そのうち、事態を知った警備隊が駆けつけて来ます。彼らに王子様は保護して頂ければと思います」


そこまで言葉にし、ココノアは口元を笑みの形に緩める。


「ですが、我々はその前に些か仕事を片付けないとなりません。なので私とサリアは一足先に失礼させて頂きます」


そこまで口にしてココノアは淑女の礼をとる。サリアもココノアに従って頭を下げる。その場違いなまでに優雅な仕草にリオンは言葉を失う。そんなリオンに嘆息したヨーゼルは今までの状況を冷静に分析しながらも扉に近づく。


「クロエさん」


「はい。何でしょうか?」


その問いかけに淑女の礼をやめたココノアはヨーゼルに微笑む。笑みとは裏腹に酷薄な色を纏わせる瞳に苦笑しながらもヨーゼルは口を開く。


「事情は分からないけど、ここに居れば僕とリオンの身に危険はないんだね?」


「はい」


ヨーゼルの言葉にココノアは真っ直ぐに見つめて頷く。


「そして何でかは分からないけど、この屋敷は警備隊が来るんだね」


「ええ」


ヨーゼルの言葉にココノアは申し訳なさそうに頷く。その表情に嘆息したヨーゼルは“そっか”と頷く。


「分かった」


「ヨーゼル!」


「リオン、僕達には彼女達を巻き込んだ責任がある。ここは大人しく引き下がった方がいい」


自分の言葉に悔しそうに唇を噛み締めるリオンから視線を外し、ヨーゼルはココノアに微笑む。


「引き留めてごめんね」


「いえ」


ヨーゼルの言葉にココノアが軽く首を振り、頭を下げる。


「では」


「うん」


そう言葉を交わしてココノアが身を翻そうとした時、ガシャンと激しい音が地下に鳴り響く。


「ココノア・クロエ!」


キースとサリアを連れて仕事に向かおうとしていたココノアは声の主を振り返る。


「何でしょうか?」


まだ自分を引き留めるのかと冷たい表情でココノアはリオンを振り返る。その全てを拒絶する空気に唾を飲み込みながらもリオンは口を開く。


「その仕事とやらに俺も連れて行ってくれないか?」


そのリオンの言葉に地下に漂う空気が数度下がる。


「リオン……」


ヨーゼルが物分かりの悪いと言わんばかりに自分にため息を吐くのを無視して、リオンは床に膝をつく。


「今回は私の軽率な行動がこんな事態を招いた。そのことについては謝罪する。ここでお前達が何をしようと邪魔しないとリオン・クーラの名に誓う。口も出さないとも。頼むからこの通りだ」


「リオン………」


気位がバカみたいに高いリオンが床に膝をついて土下座する姿にヨーゼルは言葉を失う。ココノアの背後にいたサリアですらその土下座に目を見開いている。そのリオンの姿に何の感情も抱かなかったのはココノアとキースのみ。


「申し訳ありません。これは遊びじゃないの。あなたを連れて行くことは出来ないわ」


頭を床につけた王子の姿を冷たく見下ろしたココノアは嘆息する。ココノアと同じくその姿に何ら感慨を抱かなかったキースは少女を促す。


「お嬢様」


「ええ」


無駄な時間だと言わんばかりに何ら興味を抱くことなく何事もなかったように身を翻した二人にリオンは絶叫する。


「今回は私が何も知らなくて引き起こした。だが、ココノア・クロエ。お前はなぜこんなことが起きているのかを知っているんだろ!」


こんな事態になっても動じない少女の姿に自分とは何が違うのかとリオンも考えた。


「頼む!私はこの国の全てを見たいんだ!」


その叫びに二人の前から姿を消そうとしていたココノアが階段に足をかけた状態で歩を止める。


「お嬢様」


「分かっているわ」


足を止めた自分をキースが促すがココノアは嘆息する。この訴えを心が“見逃すな”と訴える。クロエ家の当主が持つ“直感力”を舐めてはいけない。


「少し時間を頂戴」


「畏まりました」


心の違和感に耳をココノアは傾ける。その間も絶えず背後からはリオンの声が響いてくる。それを聞きながらココノアは自分が何に迷っているかを考える。


“次代はどちらだと思う?”


秘密のお茶会の度に問いかけられる質問に自分は未だに答えを見つけられていない。


「私の王………」


ココノアの口からポツリと零れた言葉にキースは再び牢屋に目を向ける。今代の王は稀にみる賢王と呼び名高い。その後継と目される二人はどちらも“王”としての資質が足りない。今のままではこの国はいずれ他国に呑み込まれるだろう。今はただ喚くことしか知らないこの少年が主の“王”となれるのかはキースにも分からない。


しかし……


「キース」


「お嬢様の身心のままに」


自分に問いかけられる迷いを含んだ声音にキースはお嬢様の好きなようにと言葉を返す。クロエ家の当主はなぜか時たま、こうして気紛れな行動を起こすのだ。それを知るキースの返答にココノアは心を決める。


「ごめんなさい」


そう言うとキースが自分に向けて差し出してきた牢屋の鍵の束を手にヨーゼルとリオンが閉じ込められた牢にココノアは踵を返した。

いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

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