表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王の処刑人  作者: 高月怜
王の処刑人と平和の国の王子様
29/66

29. 秘密のお仕事

「入れ」


トンと背中を押されたココノアは慣れ親しんだ地下牢に嘆息しながらも扉をくぐる。後ろから入ってくるサリアも興味深々な様子を隠せていない。


「いたっ!」


「リオン、邪魔だよ」


背後で“入れ”“入らない”と押し問答していたリオンが屈強な男に押し込まれ、それによってこけた相手をヨーゼルが避けたのだ。


「ここで大人しくしていろ」


四人を地下牢に連行してきた屈強な男は全員が牢に入ったのを確認して、持ってきた灯りを手に地下牢を戻って行く。


「おい!」


“ガシャン”と音を立ててリオンが格子を掴んで声をあげるも男はさっさと身を翻していく。


「くそっ!」


はるか遠くに見える灯火に悪態をつくとリオンは壁際のベッドに三人並んで座る面々を睨む。


「なんで、そんなにお前達は無抵抗なんだ!」


男達の指示に従ってあっさり捕まり、牢に入れられてもさして動揺しない三人に怒鳴れば三人は互いに顔を見つめ合う。そして、今の状況を特に悲観もしていなかったココノアは軽く小首を傾げる。


「そうねぇ………貴方の命を助けるために割り込んだ時点でこうなることは予想出来ていたし、別に何か起きた訳ではないもの」


ココノアがそう言えば、ヨーゼルも“ウンウン”と頷く。


「そもそも君が飛び出さなければこんな状況にならなかったんだしね」


「本当にそうですわ。お嬢様をこんな場所にお連れしてしまうことになるのなら、あの時。馬鹿王子達が列を離れるのを見過ごせば良かったと悔いております」


「サリア」


自分の侍女兼護衛を務める少女の言葉にココノアはその手を掴んで首を振る。


「貴女は何にも悪くないわ。私が飛び出したのが悪いのよ」


「お嬢様…………」


自分の言葉にサリアが感極まったように泣き出すのにその背をゆっくり撫でたココノアは慈悲深く微笑む。ひとしきり泣く真似をするとサリアはココノアの手を握りしめる。


「お嬢様、このサリアが何としても無事にお屋敷にお連れしますからね」


「ありがとう、サリア」


「お嬢様!」


“ひしっ”と少女にサリアが抱きつくのを見ていたリオンはワナワナと体を震わせる。


「こんな状況で漫才をしている余裕がよくもあるな貴様らは!」


サリアとココノアがさして怖がっていないのが不思議ではあるが今の状況をネタにして即興劇を始めた二人にリオンは突っ込む。それに健気な少女役を演じていたサリアはココノアから体を離すとリオンを冷ややかに睨み付ける。


「お嬢様をこんな場所に連れてくる要因となった馬鹿は黙ってていただけますか?」


「なっ!」


「そもそもあの場所で人さらいなど日常茶飯事のこと。それをいちいち喚きたてるのはいかに世間知らずかを露呈させているだけよ」


普段学園ではココノアの傍にひっそりと控える少女というイメージがあったサリアからも罵倒されたリオンは興奮に顔を赤くする。


「貴様!俺に対して言っていい言葉と悪い言葉があるぞ」


「馬鹿王子に馬鹿王子と言って何が悪いんですか?」


「貴様!不敬罪だぞ」


興奮して喚きたてるリオンに嘆息したココノアがサリアに視線を向ける。


「サリア、それぐらいにしておいて」


「お嬢様……」


「王子もそれぐらいにして下さい。喚いた所で状況が変わる訳ではありません」


冷静な言葉に自分の拳を握りしめていたリオンは目を剃らす。その子供のような反応に嘆息し、ココノアは地下牢に目を移す。多少仕事を行う時間としては早くなったがこうなったら仕方ない。自分とサリアだけなら問題ないが、四人で無事に脱出するにはリオンとヨーゼルの協力が必要なのだ。


「まだここは地下牢だと言ってもそんなに深くありません。多少匂いはしますが、呼吸をするのが辛くはありませんから」


普段、仕事の時はもっと深い地下牢に潜ることもあるココノアにしてみればこの階にいるということは身の安全がそこまで差し迫ったものではないと判断していた。もっと深い地下牢は何とも言えない臭いに色んなものとご対面するし、こんなに座れるほどのベッドはない。ココノアの冷静な言葉にヨーゼルは興味深げな視線を向けた。


「こんな状況に巻き込んどいて言えることじゃないんだけど……それはそうと何でそんなに詳しいの?普通、女の子ならもっと怖がっても不思議ではないと思うけどな」


ヨーゼルの言葉に顔を背けていたリオンもココノアに視線を戻す。灯りのないこの場所で闇に沈んだ少女の表情は見えないが少女が口元を笑いの形に歪めたのは空気の震えからなぜか理解出来た。ヨーゼルとリオンがその笑みに背筋に冷たいものが走るのを感じた。二人が言い知れぬ思いを感じているとココノアが口を開く。


「そうですね。私も不思議ですわ………でも」


その言葉に誰もが何も言えずにいるとココノアがふわりと今までの空気を霧散させて微笑む。


「ご安心下さい。王子様、ヨーゼル様。私には優秀な護衛がついておりますの。彼らが私を見捨てるようなことはありません。今頃は“私の剣”にこの状況は伝わっていると思います。そう時間が係らずに解放されますわ」


「あ……ああ……」


「そ、そうなの?」


「はい」


二人の言葉にココノアは満面の笑みを浮かべて見せる。


「私の部下達は優秀ですの」


その言葉には何ら憂いはなかった。





その頃………


「さぁ、行きましょうか。我らが親愛なるお嬢様がお待ちです」


漆黒のフードを被った面々が集う中、ココノアの“剣”であるキースはローブの中から剣呑な瞳を覗かせる。冷ややかな微笑みを自分の命令によって召集されたメンバーに向ければがなるような声が被さる。


「キース、嬢ちゃんも悪気がなかったんだし、そう怒ってやるなよ」


ココノアの影の護衛が少女の状況を伝えてきたのをキースに報告したマルクス・クロエは苦笑する。その言葉にキースはまったくの無表情を向ける。


「それが?お嬢様は我が家の唯一。どんな御身であるか考えて頂きたいと思っていますが?」


何か問題でもと言わんばかりの視線にマルクス・クロエは肩を竦めるとクロエ家の中でも隠密に特化した面々を見据える。


「そういうこった。キースに八つ当たりされたくなかったら、お嬢様に一切危害が及ばないように仕事すんぞ~」


『おお~』


そう声を合わせて同意すると次の瞬間には屋敷の入り口からメンバーの姿は消えた。

いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ