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王の処刑人  作者: 高月怜
王の処刑人と平和の国の王子様
25/66

25. 様々に打たれる布石

誠に申し訳ありません。前話の最後を改稿しました。もし宜しければお読み直し頂ければ幸いです。

「スミス様」


その声にベルナルド家執事のスミス・チャドウィックは仕事の手を止めた。


「なんだ?」


執事専用の仕事部屋でしていたスミスを呼びに来た使用人は一礼する。


「貧民街におりました農民達を連れて来ました」


「……そうか……わかった」


その言葉にため息を飲み込んで立ち上がる。やはりあれからどれだけ手を尽くしても領民達は戻らず、スミスはベルナルド領内の主要な街の貧民街。そして、王都近辺の貧民街から農地を耕す為の人間を無理やり、馬車に乗せてくるというやり方で無理やり農民達を集める方法に切り替えた。逃亡を防ぐ為に一つの屋敷に閉じ込めて、最低限の食事を与えて働かせる。強面の用心棒達には鞭をもたせて、容赦なく監視させている。


“私はきっと父や祖父のように天国にはいけまい……”


人目につかないようにと拐ってきた農民達を乗せた馬車を裏口に止めるよう指示を出したのは自分。苦渋の選択とはいえ、今まで身を粉にして貧しいながらに働いてくれた農民達を追い出して今では無理やり“家畜”のように働かせる。スミス自身にもこれが天に背いた行為だとは分かっていた。


「今日、到着の分です」


屋敷の裏口に止められた馬車の幕が捲られて、中を覗けば身を寄せあって震える元は農民達の姿。最初は自分の指示に戸惑っていた面々も何度となく自分の指示に従って貧民達を拉致するようになってからは慣れたのか連れて来られた彼らを“家畜”のように扱うようになった。屋敷の裏口に止められた馬車の中身を覗き、スミスは嘆息する。


「いつも通りに連れていけ」


怯えたように身を寄せあって身を震わせる農民達から目を剃らすとスミスは指示を出す。


「はっ!」


その言葉に一礼したベルナルド家の兵は幕を下ろすと馬車が再び動き出す。


“これでいい……”


スミスは震える自分の拳を握りしめながら空を見上げる。そんな風に自分の行為を悔いるスミスは気づいていなかった。その馬車の中に鼠が忍び込んでいることなど……。






「お嬢様、よろしいですか?」


「何?」


いつも通り学園から戻ると着替えて、領主としての仕事に励んでいたココノアは書類から顔をあげた。ココノアに声をかけたキースは口元に笑みを浮かべながら書類を手に近づいて手渡す。


「お嬢様がお望みになられたものが届きましたので」


「あら、そう?」


キースの言葉に差し出された書類を受け取ったココノアは中身を見て嘆息する。


「あら、見事ね」


そこに記載されているのは“農民達”の強制連行の在り方とその処遇。その1枚、1枚に目を通しながらもココノアの纏う空気は冷ややかになっていく。


「本当に困ったものね」


全ての書類に目を通し終えたココノアは嘆息した。


「常々、思うけど貴族のお偉方は領民を家畜だとでも思っているのかしら」


目を通した紙に記載された情報から伝わってくるのは貧民街から戻った農民達の悲惨な現実だ。


「元々、彼らの土地を取り上げたのは領主。それを与えてやるってどれだけ傲慢なのかしら」


そう言って机の上の少し離れた場所で手に握った紙を手放す。机や床にパラパラと落ちる紙を目にも止めず、ココノアは淡々と口を開く。戻れるという期待に戻った面々をまるで家畜のように狭く汚ない場所に閉じ込めるなんてもっての他だ。


「しかも、食事は残飯みたいなもの……これでは戻ったとしてもまた逃亡する農民達が出てしまうわね」


それではいけないのだ。調べてみれば特にベルナルド家の領民の扱いは特に酷い。これなら彼らが戻りたがらない理由も分かる。これなら貧民として暮らした方が楽だと思うのも無理がない。無理やり戻したとしても連れ戻された環境が劣悪ならば不満を抱えた農民達は再び逃げ出すに違いない。小さくため息を吐いて、ココノアは正面に立つキースに目を戻す。


「うちは叔父様が領内に目を光らせてくれているけど、一つの領で不満が高まれば他の領で燻っている火種につくわ」


そうなれば一気に火種は各地に飛び火して国は内乱の渦に巻き込まれる。戦禍に染まる国を想像したココノアは瞳を一つ閉じて、息を吐く。国に戦禍が及ぶことが予想されるなら自分の仕事はその火の粉が飛ぶ前に排除すること。


「キース、ベルナルド家を洗い出してくれる?」


心を決めたココノアは瞳を開いて、そう言葉にする。揺るがない強さを持つ紫色の瞳を向けられたキースは笑みを浮かべる。


「畏まりました」


「お願いね……」


キースの返事にそう決断したココノアは白く細い指を机の上で組み合わせ、その上に顎を乗せて薄く微笑む。


「騒ぎの首謀者を探しだし次第、処刑するわ」


「畏まりました」


その言葉にキースは胸に手を当てて、優雅に一礼した。




「ココ様」


「ありがとう」


サリアが教師から受け取って渡してくれる紙を手にとったココノアは木漏れ日のあたる席で目を瞬かせた。情報が集まるまではいつも通り、学園に通っていたココノアは配布された紙に小首を傾げる。


「校外学習?」


そこに踊る文字は初めて目にする言葉だった。

いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

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