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王の処刑人  作者: 高月怜
王の処刑人と平和の国の王子様
21/66

21.自分が変われば人も変わる

「最近、クロエさんに対する態度がやけに優しいね」


学園から城に帰る為の馬車に乗ったヨーゼルは早くも本を開いたリオンに肩を竦める。その冷やかしに今日薦められた本に目を通しながら嘆息した。


「何が言いたい?」


「最初の頃の態度から比べたら、今の君。驚愕するぐらいの変貌具合だよ」


そう言ってもリオンは苦笑して肩を竦めるだけだ。その姿にヨーゼルは嘆息する。昔から王位に興味がないと言い張り、周りから馬鹿王子というレッテルを張られても気にしなかったが、どこか上から目線で周りを見ていたリオンの鼻っ柱を叩きおった少女に対する態度は初めて恋を知った男子かと言わんばかりに好きな女子に対して意地悪するような態度を貫いていたのだ。


しかし、その態度はある日を境に一変する。その日は朝からやけに真剣な顔をしていた。城から学園に向かう間も窓からぼんやりと外を眺めていた主で親友は自分の問いかけに言葉少ない。


“何があったんだ?”


その前日、資料を読むのが嫌になったらしいリオンが席を立ち、本を探しに行くのを“行ってらっしゃい”と席から見送った。ヨーゼルの立場はリオンのご学友でもあるが学園内の護衛も担っている。普通ならついていくのが正しいだろうがヨーゼルはそれをあまり進んではしなかった。王族として育ってきたリオンの武芸の腕は自分よりは劣るが自分の身を守れるぐらいには腕が立つ。ならば、比較的安全な学園でぐらい一人行動もありだとリオンの行動に規制をかけないようにしていた。そのため、本を探し終えて帰って来てから何かに取りつかれたように読み出した相手にヨーゼルは眉を潜めた。そのまま学園についても口を開かず、自分の席に座ってじっと扉を見つめる姿を見守っているとココノア・クロエが登校してきたのだ。普段ならその姿に眉を潜める筈の相手は鞄から取り出した本を片手に立ち上がると犬猿の仲の少女に近づいていく。近づいていくリオンよりも周りに緊張が走り、思わずヨーゼルも驚愕に目を見開き、腰を浮かした。微妙な緊張感が走る教室を余所に少女に近づいたリオンは普段とは違う真剣な表情で口を開いた。


“昨日の本は非常に参考になった。良かったらまたお勧めの本を教えてくれないか?”


リオンの言葉に周りが驚愕の視線を向けた。少女に対する今までの態度から一変した姿に周りの方が驚いたのだ。そのリオンの申し出にココノア・クロエは微かに驚いたように目を見開いたのち、微笑んだ。


“もちろんですわ。殿下。私にもお勧めの本を教えて下さいな”


そう言った少女にリオンがホッした表情を晒すのに思わず、ヨーゼルが天変地異を疑ったのは間違いではない筈だ。それまでは少女の言葉を無視していたリオンがその言葉聞いて言葉を交わすようになったのは自分がついていかなかったあの時間が影響しているに違いない。


“いい傾向は傾向なんだけどね……”


そう思いながら今も少女に薦められた本を読むリオンの姿をヨーゼルは眺める。王子であるリオンが授業においても思慮深く発言し、少女と読んだ本についての意見を交わす姿にいらぬ憶測を考える輩はいる。ひとつ心配するのは今のリオンが周りの憶測のような思いを少女に抱いてない点ぐらいだろうか。そこまで考えてヨーゼルは窓から視線をリオンに戻す。


「そんなに君を変える少女に僕は驚嘆するよ」


少女と自分の考えを言葉として交わすことを覚えた主にヨーゼルは嘆息するのだった。





「どうすべきだろうか……」


自分の主の変わりように頭を悩ませているのはヨーゼルだけではなかった。長年、ベルナルド家に仕えるスミス・チャドイックも主から命じられた仕事に悩んでいた。目の前に広がるのは羊毛を得るために農地を牧草地と化した際の資料だ。特に不備がなかった農地を取り上げる度に税を引き上げたりと強行策を押し切ったりもした。


“ど、どうか見逃してくだせぇ”


農地を取り上げるために頭を地面に擦り付ける農民達を見てみないふりをした。


“うちには病気の娘がいるんです!”


家を出ていけと告げた農民の妻が涙がながらに自分の服の裾を握ったのを振り払った。


“この家を追い出されたら、死んじまう!”


悲鳴を上げた農民達を追い出して、主の為にと農地を集めた。


なのに……


「私はどんな顔で彼らに詫びればいい……」


家を追い出されれば行き場所などないと分かっていて追い出した彼らにどんな顔で戻って来いと言えるのだ。農地を失った彼らは貧民街に流れつき、花やかな表通りから一歩裏に入った場所で壁に凭れて死んだ人間も多い。領の発展のためならばと涙を飲んで行った行為は僅か三年で終わった。裏通りに入れば、領民を見放した領主への怨嗟の声があちこちから聞こえるようにもなった。

領主の言うように農地を無料で払い下げるとの触れを出してはいるが人は戻って来ない。自分達が彼らを見放したように彼らも自分達を見放したのだ。


「……かくなる上は……」


ベルナルド家内に与えられた執事室の椅子に座ったスミス・チャドイックは天井を見上げて覚悟を決める。


「人を拐うしか道はない」


貧民街から人を無理やり連れてくる以外にこの領地を耕す民はもういないのだから。そう覚悟を決めるとスミスは椅子からゆっくりと立ち上がった。

いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

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