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王の処刑人  作者: 高月怜
王の処刑人と平和の国の王子様
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17. 運命の二人

互いに互いの姿を頭の先から足の先まで確認した二人は幾度も目を瞬かせる。同じ本に手を伸ばすという偶然もあるが何より思いがけない人物と出会ったことに驚いた者同士、言葉はない。しかし、先に我に返ったのはココノアだった。


「申し訳ありませんでした」


「いや……」


頭を下げられたリオンは言葉に詰まる。好敵手であり、犬猿の仲である少女が自分の傍らに居ることが信じられなかった。自分よりも頭半分したのココノアにリオンの胸は高鳴る。我知らず、顔が赤くなるのを止められず、隠すように本の背表紙に目をやりながらリオンは口を開く。


「何か探していたのか?」


学園内の図書館は王宮内の蔵書と比べても遜色ないぐらいの中身と量を誇っているので、何か探していたのかと問いかければ困惑した様子のまま少女が頷く。


「ここ暫く、体調を崩していて屋敷を出ることが出来ませんでしたので気晴らしに図書館に寄りました」


「そうか……」


「はい」


ポツポツと言葉を交わすも普段が普段なだけに話は弾まない。


『………………………………』


互いに見つめる場所が本の背表紙ししかなく、長い沈黙が二人の間に横たわる。次の一手に悩んでいた二人のうち、次に口を開いたのはココノアだった。


「お………殿下も何かお探しだったのですか?」


そう口にして普段は何かと一方的に突っかかる王子を下から見上げる。王子も驚いた顔をしているが、それはココノアも同じだった。今日は久しぶりの登校ということもあり、普段よりも周りが何かと騒がしく気疲れした。そのためいつもは学園内の図書館に寄ることもなく、そのまま帰宅するが息抜きも兼ねて寄ったのだ。元から学園に入学してのオリエンテーションで学内の施設を案内された時から気になっており、今日ぐらいは少し息抜きをしてもいいかと図書館内をあてもなく歩いていた。だが、やはり仕事の事が頭から離れず、知らぬうちに諸外国の歴史や地理などが書かれた棚に引き寄せられた。ちなみにサリアには荷物の管理を任せている。自分の問いかけに答えず、渋面を作った相手に嘆息してココノアは先ほど同時に手を伸ばした本の背表紙をなぞる。


「失礼ですが……もしかして殿下もエンクロージャ国にご興味が?」


その言葉と向けられる笑顔にリオンは慌てて頷く。


「あ、ああ……王子として諸外国のことも勉強しなくてはなと思って」


ココノアの言葉にぎこちなく頷けば、目の前の少女はふわりと笑う。


「それは素晴らしいですわ。殿下はエンクロージャ国のどんなことにご興味がおありなんですか?」


重ねて問いかけられ、リオンはドキドキと破裂しそうに高鳴る胸をそのままに“そうだな”と口を開く。


「エンクロージャ国の成り立ちや……ああ……政治にも興味はあるな。後、地理的な特徴や政変時の混乱についての記述があればと思って探していた」


ヨーゼルが用意した本の中に色々と詳しく書かれていた本もあったが全て同じ著者だったので別の視点から考察しているものはないかとココノアが聞いていると思いながらも口にすれば目の前の少女が真剣な顔で本棚に向き直る。


「クロエ?」


「殿下はエンクロージャ国の文字はお読めになられますか?」


「ああ」


「分かりました。ありがとうございます」


突然の質問に失礼なと思う反面、その言葉を聞いた同級生が真剣な表情で棚に並んだ本の背表紙を追っていくのが分かる。その真剣な横顔に何も言えずにいると目的の本を探しだしたのかココノアが棚から一冊の本を取り出す。


「こちらはいかがでしょうか?私の教育係を務めるキースが薦めてくれた本です」


「これは?」


自分に渡された本に目を向ければ装帳は古くはない。著者名を見てもすぐに思いつかないあまり有名な著作者ではないと分かる。なぜそんな本をと疑問の目を向けるとココノアが微笑する。


「あまり有名な著作ではありません。著者はエンクロージャ国の学者。本人はまだ若かったそうですが革命の混乱時に命を落としたそうです。ですが、民の視点から、王家の側からと多彩な点からなぜ革命が起こるのかを詳細に述べていて勉強になるかと思います」


普段は一方的に突っかかることが多い相手の穏やかな言葉に再び、リオンは本に目を落とす。いつもなら偉そうにと無駄口を叩く


「……なら……一度読んでみよう」


「ぜひ」


リオンの言葉にココノアは満面の笑顔を浮かべた。





「おかえり」


自分の座る席の前に影が出来たのにヨーゼルは本を探しに行っていた相手が戻ってきたのに気づいて顔を上げる。しかし、相手の様子に“おや?”と目を瞬かせる。


「どうかした?」


そう声をかけるも書棚に行っていたリオンはどこか虚が突かれた表情で前の席に腰を下ろす。


“それでは私はこれで”


そう言うといつも目障りな存在だと感じている少女は自分と手が重なった本を手に取り、去っていった。その後ろ姿を見送り、リオンはココノアから渡された本を手にヨーゼルの元に戻ってきていた。席に座り、手にした本をゆっくりと捲っていく。最初はゆっくりと文字を追っていた目が見開かれていく。


「リオン?」


手にした本を前に固まった相手にヨーゼルは声をかけるもリオンは図書館を追い出されるまで本から顔を上げることをしなかった。




一方……


「お帰りなさいませ」


「お待たせ、サリア」


予想外の出会いを終えたココノアも目当ての本を借りて、図書館の外に待たせていた侍女の元に戻っていた。ココノアから声をかけられたサリアはどことなく機嫌の良さそうな相手に目を瞬かせる。


「何か良いことでもありましたか?」


そう声をかければ、ココノアは“ふふふ”と笑う。


「そうね。ちょっとした偶然もいいものだったわ」


普段、互いに向き合う時はどことなく敵意のある関係の相手と言葉を交わせたことに満足したココノアは自分が出てきた図書館を振り返って笑みを深くした。

いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

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