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王の処刑人  作者: 高月怜
王の処刑人と平和の国の王子様
13/66

13.二人の王子

クーラ国には現在4人の王子と3人の姫がいる。


1番上の王子様の名前はレオン・クーラ。王妃様の第一子。


2番目の王子様の名前はリオン・クーラ。 王妃様の第二子。


それ以外の王子と姫達はまだ10歳から下と幼く、何事もなければ1番目の王子様が王位を継ぐのではないかと言われている。第1王子が駄目でも二つ下に自分と同じ年の第2王子が控えているため、滅多な事では彼より下に王位が降りる事はない筈だ。自分はどちらかの王子に支えることになるだろう


しかし……


「はぁ……」


馬車の窓枠に行儀悪く肘をついたココノアは深いため息を吐く。それを馬車に同乗していたサリアは耳にして心配そうな表情を向ける。


「お嬢様、やはり今日はお休みされた方がよろしいのでは?」


“夜のお茶会”を終え、今朝と言って差し支えないぐらいの時刻に帰宅した少女はそのまま仮眠をして学園に行くための支度を始めたのだ。サリアの言葉に窓の外に向けていたココノアは気だるげに嘆息する。


「大丈夫。眠たいだけよ」


「ですが……」


「授業中に寝るから大丈夫」


勉強するのが本分の学生にとっては誉められた発言ではないがココノアはそう応えると再び窓の外に目を向ける。


“二人はどうだ?”


昨夜の王の言葉を思い返すと憂鬱な気分になる。サリアが心配すると分かっていてもため息は止まらない。失礼な話。本音を言えばどうだ?と言われても言葉に詰まってしまうのが今のクーラ国の現状だ。それぐらい第1王子と第2王子の差はなく。まさに“50歩、100歩の王子様”達なのだ。王妃の子供であるレオン様は見かけは王妃様の華やかな容姿を引き継いだ完璧王子。こちらも王妃様の子供であるリオンは正反対に現王の色彩を受け継いだ地味な王子。普通に生まれた順番での王位継承を考えたら、レオンが真っ先に候補が上がるが彼を1番に押せない理由があった。


それは……


第1王子の女癖が人一倍悪いことにある。


彼の報告を聞く度に裏の護衛を務める人間達から必ずと言っていいほど女癖が悪いとの報告が悪いと上がる。最終的な問題が発生する前に護衛を使っては対処しているが彼が王位を継ぐことを考えると次世代で起こるだろう後継者争いが今から憂鬱だ。申し訳ないが責任を持って支えていくとは言える自信がない。昨夜王に言われて、まだ数年は先だからと普段は先送りにしている問題を思い出してげんなりする。彼が子供達をどうだ?と聞いてくるのは別に自分との婚姻と言った話ではないとは分かっていても王が亡くなるまでその身に仕える立場としては仕える主は婚姻相手を選ぶぐらいの重大かつ重要事項だ。


“頭が痛いわ……”


王の処刑人足るクロエ家の役割のひとつに“王の選定”も含まれているのがその役割は重い。次代の王に足り得ると思った人物を王が選び、それをクロエ家の当主が受け入れて初めて彼らは王となる。それは王を害する敵から王を守り、そして王にふさわしくないと判断すれば遺恨を無くすためにその命を刈り取るのもクロエ家の当主としての仕事。まだ先の話だがココノアは最終的に仕える王を選ばなくてはなならないのだ。


「お嬢様」


「ええ……」


サリアの言葉に馬車が止まったのに気づいたココノアはゆっくりと立ち上がり馬車を降りた。




「皆様、おはようございます」


「クロエ様、おはようございます」


肩にのし掛かる違った意味での重圧を振り払いながらすれ違うクラスメイト達に挨拶を交わしながらココノアは教室に向かってくれる。


“ここは天国だわ……”


可愛い少女達が声をかけてくれる姿にココノアは胸に抱えていた重たいものが浄化されるような気持ちを味わう。それにひたっていたココノアが教室の扉に手をかけようとした瞬間。向こうから扉が開く。その姿を認めたココノアのテンションが下がる。驚いたのは向こうも同じだったようだ。


「……ココノア・クロエ」


目を見開いて名を呼ぶ姿にココノアは思わず、うろん気な表情をその人物に向ける。そこには“50歩、100歩王子”の一人で先ほど名前を上げた王子の一人。第2王子のリオン・クーラが立っているではないか。朝から自分の気分を重くする張本人に内心では舌打ちしながらも頭を下げる。


「……おはようございます」


「ああ……」


悩みの種の一人に声をかけられたココノアは内心でため息を吐く。


“この方はよく分からないのよね……”


第2王妃の息子として生まれてきた彼の評価は“凡庸”。酷いのは“暗愚”だ。第1王子が“優秀”だとしたら彼は本当に目立たない。学問も武術の腕も並の一言につきる。そして護衛からの報告でも特に目立つことがない相手だと聞いている。第1王子と比べても特段優れている所はない。これから更に困難を極める国の王には相応しいと思えないのだ。女癖が悪かろうと国を率いていく強さがある方がまだいい。同じ年で学園に通うような機会がなければ顔ぐらいしか知る機会はなかっただろう。そんなココノアの胸のうちも知らず、目の前の相手が“ふん”と鼻を鳴らす。


「朝から寝不足か?」


「はい、昨夜は寝つきが悪くて」


その言葉にココノアはフワリと笑う。その表情にリオンは不機嫌な表情を浮かべる。王子という身分の自分に対して、この少女は本当に最低限の礼儀と敬意しか払わない。王子というだけで自分に“キラキラ”した目を向けてくる周りの少女とは違う。


「流石、首席様は寝る間も惜しいらしい」


そう嫌味を言っても、微笑むだけで傷いた表情も様子も見せない。


「ええ、まぁ。勉強しなくては首席はとれませんので」


自分の言葉を勉強していたと勘違いした相手にフワリと笑いながらもココノアは否定しない。寝不足の本当の理由は彼の父親と会っていたがそんな事は言えない。そんなココノアの内心を知らないリオンは呆れたように肩を竦める。


「私を差し置いてまだ勉強か」


「はい。クーラ国の国民として陛下を支えるための知識はいくらあっても足りませんから」


「ふん」


そう言って不機嫌そうにそっぽを向いてしまう王子にココノアは内心で肩を竦めてしまう。入学してからいつも自分にばかり絡んでくる第2王子に気が重い。普段ならあまり気にしない仕草も気になるのは昨夜の話が脳裏を過るからだろう。


だが……


「失礼します」


「ああ」


互いに入り口に立っていては周囲の迷惑になると気づいたココノアはさっと王子に道を譲る。それに気づいた王子が教室から出ていく背を見送り、ココノアは目を細める。 遠からず、いつか自分は選ぶのだ。自分の仕えるべき主を。


“私の陛下”


その時、私は第1王子と第2王子のどちらかをそう呼ぶのか。そう思って小さくため息を吐いたココノアは教室の中に入ると自分にかけられる同級生達からの言葉に笑みを浮かべた。

いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。


少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

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