1.王の処刑人
改稿作業を行っております。話がだいぶ、変わっています。よろしければお読み頂ければ幸いです。
「残念だけど、王に相応しくないのは貴方の方だわ」
王家主催の舞踏会場に現れた黒いドレスに黒いベールをつけた女性に周りの人間は眉を潜める。その出で立ちはまるで“死神”のようであった。あまりに不吉な姿に周りのざわめきが更に酷くなる。そのざわめきにベールの下で笑った女性は周りのざわめきを他所に歩き出す。
「貴様は誰だ!」
その奇抜な出で立ちの女が近づいてくる事に気づいたクーラ国第1王位継承権の王子が目を血走らせながら睨めが周りからは悲鳴に近い声が上がる。その質問にベールで顔を隠した女が“クスリ”と笑う。
「何がおかしい?」
その言葉にベールの女性が更に笑みを浮かべる。その姿に今まさに自分の婚約者を殺した第一王子は絶叫する。
「何がおかしい!!」
「きゃあああ」
血走った目をして、今まさに自分の婚約者を殺した剣を持ち立ち上がった王子に周囲に居た女性が悲鳴を上げる。だが、それを一向に気にした様子のない黒いドレスの女性は周りの人間が避けたために王子に繋がる一本の道となった場所をゆっくりと歩き、王子の目の前で歩を止めた。血に濡れた剣を持つ相手に視線を向け、女性は一つ“ため息”を吐いてその傍らに視線を移す。
「彼女を殺す必要などなかったのに……」
そう言って王子の婚約者だった少女に目を移し、初めて目を伏せる。少女が死ななくても隣国に通じて自国を脅かした彼の廃嫡は決まっていた。血走った目をする男の傍らで息絶えた少女の死を悼むと王子に視線を戻す。
「残念ですが、レオン様。私は貴方が王に相応しいとは思えません。王とは国のためにその身を捧げ、盾となるもの。貴方にはその覚悟があるとは思えない。だから私は古の盟約に従い、貴方を断罪します」
柔らかいが継承権第一位だと信じられていた王子を断罪する声音がこの場に響き渡る。その声から黒いベールに隠された女性がまだ少女に近い年齢の人間なのだと気づいた周りがざわめき出す 。全員がその発言に身動きが取れない中、王子を断罪した女性は玉座に座る自分の主に目を向ける。
「陛下、この様な判断になりましたがよろしいですか?」
確認してはいるが、その声音に含まれる言葉に迷いはない。女性の発言を受けた王は子の父親としてではなく為政者としてため息を吐く。
「仕方ない。ココ、そうお前が決めたのなら儂に異論はない」
「父上!」
あっさりと自分を見放した父親に目を剥く王子とは裏腹に女性は優雅に一礼し、王子に向き直る。
「という事になります。貴方様の身柄は今日この日から我が家が預ります。大人しく投降なさるのなら、手荒にはいたしませんがいかがされますか?」
まるで王家と対等のように振る舞う女性に周りの人間が何も言えない中、王子だった男は顔を歪ませた。
「貴様は何者だ!答えろ!」
そう言って威圧するように剣を振りかざすも女性は先ほどと変わらずに冷めた瞳を自分に向ける。その事にギリギリと歯を噛み締めると女性が更に一歩前に進んでくる。また凶行に走るのではないかと自分を警戒する衛兵達を尻目に口元に手を当てた女性が口元を笑いの形に歪めた。
「私は王の処刑人よ」
それは遠き古から王家を守り、時には正して来た“とある家”が連綿と引き継いできた役目だった。
いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。少しでも楽しんで頂ければ幸いです